3-19 父の心配、友の信頼
「さあ、メトドさん達が装置から出てくる前に、この馬鹿共を何とかしよう」
ターロが背嚢をゴソゴソやって取り出したのは針金が編み込まれた縄。
ブラキーオーンで海賊を拘束する際、縄が足りなくなった経験から作ってもらっておいた。
これで後ろに回された両手の親指を縛られると、もうどうにもできない。
抜こうと踠くと激痛が走るので外すことはかなり難しい。
長い時間拘束されると親指が壊死してしまうかもしれないが、どちらにせよ反逆罪で極刑だろうから大きな問題ではない。
手首を結ぶより短くてですむ。
切るための工具も持ってきてある。
この縄を使って、六人の親指を手早く結び、
「後は下だな。アウロ、下の階の神官さん達は?」
「大丈夫です。風の精霊の知らせで、地下に逃げ込んで扉に鍵を掛けたようです」
「おお、そりゃいいや。じゃあ、下を片付けてくるので、アルテューマさんと、神官長さんはここに残って、何かあったら大声で知らせてください。風の精霊が、仲立ちしてくれますんで、どこにいても聞こえるはずです」
「風の精霊? ここは魔法が使えないはずだが、、、」
神官長が訝しげにするも、
「そうですが、風の精霊はいます。そしてこのアウロは詠唱魔法ではなく魂力で精霊と接触出来ます。だから魔法で使役するのではなく、お願いする形で精霊魔法が使えるんっすよ」
神官長に説明しながら、ターロは閃く。
「そうか! 詠唱魔法は、手回しの自家発電みたいなもんだけれど精霊魔法は風任せの風力発電で、風車を風に向けるのと風に吹いてくれるように頼む能力の両方が必要なのか、、、。だから大賢者は精霊魔法が苦手だった、、、自家発電機が優秀すぎるからな、、、」
「、、、いかがされた、、、?」
急にわけのわからない独り言をいい始めたターロを心配する神官長たち。
「いえ、神官長さんのお陰で大切なことに気が付きました。じゃあ、下を片付けてきま〜す!」
「ちょっ、一寸待ってくれターロ殿!」
本当にお掃除にでも行くような調子のターロをアルテューマが引き止める。
「その、テュシアーは、、、娘は、大丈夫なのか?」
族長として今訊くべきではないのかも知れないが、父親として訊かずにはいられなかった。
「資料室にですね、この生贄の儀式の様子を記録したものがありました」
娘の安否を尋ねたのに、思いもしない言葉が返ってくる。
理解が追いつかないので無言で先を促すと、
「その中の生贄の遺体搬出について書かれた箇所にですね、遺体には外傷が一つもなく、ただ顔が恐怖に引きつったようだった、と記されていました。念の為、腑分をしたけれど内臓にも異状はなかったそうです。記録した人は、魔神を目の当たりにして恐怖で顔が歪みその状態で魂が抜かれたためだ、と推測しています」
神官長もその記録を読んでいたらしくその通りと頷く。
「しかし封印されているのは魔神ではなく、火の精霊です。そして火の精霊は人の魂を吸い取ったりはしません」
火の精霊のことを知らない神官長は何のことか、という顔になるが、それはおいておいてターロは続ける。
「傷がないのなら物理的な殺し方ではない筈です。物理的ではないのなら精神だ。俺はこの装置には幻覚による恐怖で精神を攻撃し、命と魂を体から引き剥がす様な仕掛けがあると考えています。もしこの仮説が正しければかなり厄介な仕掛けです。イッヒー大賢者でさえ警戒して入らなかった」
娘の無事を確認するつもりが、絶望的なことばかりが並んでいく。
青褪めるアルテューマにターロは続けた。
「でも大丈夫ですよ。メトドさんは魂力のお陰で幻覚が効きません。彼ならそんな仕掛けは切り抜けて娘さんと出て来られるでしょう。 それに娘さんも気丈な方だ。直ぐに恐怖に飲み込まれることなく、メトドさんが助けに行くまで持ちこたえられますよ。信じましょう、我が友と、あなたの娘を」
そう言った後、神官長さんに火の精霊の事を説明しておいてください、と言い残して、ターロはアウロと階下に消えていった。




