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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第三章 砂漠の国 ”オステオン”
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3-18 封印装置

「空間拡張魔法、、、」


封印装置である祭壇に吸い込まれたメトドとテュシアー。


装置の中は外から見るより広かった。


壁全体、床も天井も白く薄く発光していて感覚がおかしくなる。


大賢者様の方丈と同じ仕組みなのだろう、とメトドは理解した。


「メトド様」


テュシアーが不安げにメトドを呼ぶ。


「大丈夫。すぐに殺されるような事はない。何か肉体から魂を引き剥がす仕掛けがあるはずだと、ターロ様が仰っていた」


生贄を選んだ後の出立までの三日間、ターロとメトドは砂漠管理団と封印装置の対策を何度も相談していた。


恐らく結界の中に入って魔法が使えなくなってから、砂漠管理団が何かしら仕掛けてくるであろうことは読めていた。


その際、自分たちと他のものを分断するであろうことも予想が付いたので、アウロが風の精霊に頼んで、その人達に危険を知らせる手筈になっていた。


案の定、祭壇への階段を(のぼ)る際、他の神官は一階へ残された。


だが今頃、風の精霊により祭壇前での出来事は伝えられていて上手く避難しているだろう。


(そして、ゼーロ達はターロ様とアウロが片付け、階下に残った者も制圧しに向かうだろうから、あとは自分が上手くやるのみだ)


と、メトドは気を引き締める。


ブウーン


低い唸りと共に、壁から白い硬質な腕が伸びてくる。


それが二人を拘束して、頭に半球状の物を被せた。


「ああっ!!」


テュシアーが悲鳴を上げる。


頭の中に像が流れ込んできた。


(これは、、、いつぞや、ターロ様がアウロにかけたヴィジョン(幻影)と同じ、、、)


見せられているのは恐怖を引き起こさせるような像の数々。


だが魂力のお陰で真実を見抜けるメトドには、幻覚は効かない。


(ターロ様の予想通り、恐怖で魂を肉体から剥がす仕組みだったか、、、)


ターロの仮説はこうだった。


魂が現世での器である肉体に定着するには、何かしらの(エネルギー)が必要で、それが”命”である。


そして、その命には定量があり、それが尽きて魂が肉体にとどまれなくなるのが”死”だ。


魂の定着が失われるのは命の定量が尽きたときだけではなく、大怪我や病気によって命が大きな損傷を受けたときにもおきる。


肉体への物理的な物のみならず、精神への強い衝撃・強い動揺も死をもたらす。


それを与えるのに最も簡単で効果の高い方法が恐怖。


実験で大量の命と魂を抜き取り、その抜け殻である大量の遺体を処理しなくてはいけなくなった時、肉体の破損が少ないほうがやりやすいはず。


ならば、精神攻撃の様な仕組みが採用されている可能性が高い、というターロの予測はあたっていた。


そうやってほぼ無傷で抜き取った魂を実験装置の動力源にしていたのだろう。


そして同時に採取した命も貯蔵され、封印に使われた。


定着剤の命は、霊魂や精霊を抑え込むのにはもってこいの材料だからだ。


アウロの感じた”膜”のような物とは、火の精霊を抑え込んでいる”命”だったわけだ。


もしこの仮説が外れ、装置の仕組みが違うものであったとしても、魔法の使えない状況下でも魂力である程度の事が見通せるメトドが中に入って封印装置を解除する、という話になっていた。


最初ターロは強く反対したが、メトドは珍しく押し切った。


アウロに強い魂力が発現したのを見て、どこかで自分と自分の弱い魂力への劣等感を否定してみたい思いがあったのかも知れない。


イッヒーやターロが言うように、メトドの魂力は決して弱くはない、いや実際はかなり強力な物なのだが、幼少期の精神的外傷(トラウマ)からどうしても自分を過小評価してしまう。


その傾向をよく理解し、事あるごとに自信を持つようターロは促している。


だが、当初よりはだいぶ良くなったものの、まだ完治には至っていない。


今回もメトドがトラウマを乗り越える助けになれば、と、結局ターロは同意した。


封印装置は、幻覚が全く効かないメトドを誤作動(エラー)扱いとし、その拘束を解いた。


メトドは直ぐにテュシアーに駆け寄り、耳の側で叫ぶ。


「テュシアー! 全部幻覚だ! 見るんじゃない! 私だ、メトドだ! この声を聞くんだ!」


だがテュシアーは恐怖に呑まれ錯乱一歩手前にあった。


不味い。


そう判断したメトドは、後ろから拘束ごとテュシアーを包み込んだ。


そうして掌で目を覆う。


「目は閉じているのだから、今見えているものは全てまやかしだ」


耳元でメトドの強く低い声が響く。


(あ、、、メトド様の、、、声、、、)


ありとあらゆる恐怖の像を送り込まれ、心臓の破ける寸前まで上がっていた心拍が落ち着きを取り戻してゆく。


(あの方は、、、私に、死んでほしくない、と言った、、、その為に、刃を握って、、、指を切って、、、)


躊躇(ためら)いもせず自分の為にあんな事をした、あの方の声が聞こえる。


その声に集中すると、包み込まれるような温もりを感じられた、、、。


吐くことしか出来なかった息が吸えるようになる。


何度かの短い呼吸のあと、大きく息を吸ったテュシアーは目の前が明るくなるのを感じた。


掌の覆いを取ったメトドが囁く。


「よかった、戻ってきたな。もう大丈夫」


封印装置は、命の採取に失敗した事を感知しテュシアーの拘束も外した。


自由になったテュシアーは、あの恐怖から生還できた事を理解し、同時にメトドが来てくれなかったら確実に死んでいた、という事実に震えが止まらなくなる。


それをぎゅっと抱きしめメトドは短く言った。



「 おかえり 」

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