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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第一章 異世界渡り〜樹海の国”ケイル”
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1-7 大田の魂力

「なんと、、、殿下は、いえ、ターロ様は大賢者様と同じ異世界渡りでしたか、、、」


あの不思議な体験を信じてもらうにどう説明すればよいのだろう、という大田の心配をよそにメトドはあっさりと話を受け入れた。


「異世界渡り?」


「そうです。この里は大賢者様との縁が深く、色々言い伝わっているのです。ともかく長老様とお話するが宜しいでしょう。立てますか?」


水浴びをし、着替えてさっぱりとした大田は、長老の居まで案内され、そこでメトドにした話を繰り返した。


「それで複数の気配を、貴方から感じるのですな」


と、やはり長老にもあっさり納得してもらえた。


そうか、話だけでなく、自分の中に未だ残るラインとフォルスの気配も彼等を納得させる一助となってるんだな、と大田は気付く。


「そうなんです。ですから厳密に言うと俺はライン王子ではないんです」


「しかし体はまさしく殿下のもの。その魂もあなたの中にまだ有ります。ターロ様、無理強いはしませぬが殿下の無念を晴らして差し上げるおつもりはありませぬか?」


(タロウって発音しにくいか? フォルスはちゃんと発音出来てたからこの世界の訛りかな?)


と、どうでもいい疑問を横に置いて大田は答える。


「彼は実に好青年でした。それに彼の記憶は俺の記憶その物になっています。彼の無念は、俺の無念です。具体的にどうするのかは今のところ明言できませんが、、、ホーフエーベネと、帝国を、そのままにしてはおかないつもりです」


「左様ですか。ならば我々も出来得る限り協力致します」


ロエー長老の話では、今から六十年少し前、この森にふらりとやって来た大賢者に、未開の蛮族で猛獣と余り違いのない生活をしていた里の祖先が襲いかかり一瞬で敗北。


その後、啓蒙され、読み書き・衛生管理・家の作り方や調理の仕方・道具の作り方などを習って、文明的な生活ができるようになったという。


そして三十年ほど前にに大賢者が亡くなった後もその隠居所を守り続けてる。


「大賢者様には色々と教わりました。特に魔法の使い方を教わる事が出来たのは我ら一族にとっては幸いでした」


この力のおかげで、帝国も迂闊に侵略できずにいるという。


無論大軍で力押しすれば何とでもなるのだろうが、戦果は被害に見合うものではないという見解なのだろう。


この抑止力をより安定したものにする為にも、大田への協力を申し出ている、という側面もありそうだ。


「ターロ様、このメトドは、”見抜く目”という便利な魂力を持っております。如何でしょう、今後の身の振り方の参考になるかもしれぬで、ターロ様の魂力がどんなものであるのか、メトドに見させてみては」


成る程、己を知る事は大切だ、と大田は思い、


「そうですね。お手数ですがお願いできますか?」


と、その申し出を受けることにした。


「では」


と、メトドはなにやらゴニョゴニョ大田に向かってやり始め数秒、


「、、、これが話に出た赤い欠片の狼の魂力ですね。”野生の力”と有ります。気配察知・食料や水脈の探知・隠密・追跡・狼のできる事殆どです。この力で我々の居場所を感じたのですね」


ほー、と頷く大田とロエー。


(フォルス、方向を変えられた時には焦ったけど、便利な能力有難う!)


「もう一つは殿下の魂力でしょう。”抗う者”です。体力の限界以上に動ける魂力です。これのおかげで里まで歩けたのですね、それと毒等への強い耐性・痛み等の苦しみへの耐性・孤独への耐性、、、。この様な魂力が発顕する程お苦しみになられたのですね。 おいたわしい」


沈痛な面持ちのメトドとロエー。


ラインは幼少の頃、この里が所属する連邦の盟主国であるケパレーに魔法留学していた。


この国の姫様とも仲が良く、ケパレーの民はラインに親戚の子供の様な親近感を感じていた。


ペレエダーニェ帝国がホーフエーベネに攻め込んだと聞いた時、皆は真っ先にラインの心配をしたものだ。


だが太田は、


(うは、なんてドMな魂力なんだ、ひくわ〜、そこは耐性のままなんだよな? いつか喜びに変わったりしないよな?)


と微妙な顔。


「そして最後にターロ様の魂力ですが、、、、」


目を瞑りメトドは更に集中するが、


「すみません、私の力では捉えきれない。非常に強力な魂力です。僅かに”木鐸”と見えますが、どの様な力なのかまでは、、、」


「ほーっ、お主の魂力で見抜けぬほどか! ”木鐸”、、、。聞き慣れぬ言葉じゃなあ」


しかし大田には心当たりがあった。


(うわ〜。論語ですか。孔夫子とか、恐れ多いわ!)


「いや、何かの間違えでは、、、」


と困った顔の大田。


なぜ困っているのか分からないロエーが、


「? 木鐸が何かご存知で?」


「俺が元いた世界の言葉です。文化的指導者の比喩です」


その言葉を聞いてメトドが何か考え込んでいる。


それに気付いた大田が


「? どうかしましたか?」


と声をかけるも、いいや何でも、と首を振り更に告げた。


「もう一つターロ様には魂力がある様です。こちらも非常に強力な物でやはり全容が見えませぬ。魂力の銘は恐らく”聞一以知十”」


驚くロエー。


「なんと! 強力な魂力が二つも! まさに大賢者様の再来だ!」


「私もそう感じました。ターロ様からは幼き日にお会いした大賢者様から感じた物と同じ何かを感じます。大賢者様の方丈にお連れするのが宜しいかと」


メトドの進言に頷くロエー。


「しかし長老様。その前に一つ、ターロ様にお頼みしたい事があるのですが」


「頼みたい事?」


「はい。ターロ様の魂力”木鐸”は指導者の魂力との事。そこでアウロを少しばかり見てもらう訳には行きませんでしょうか?」


「成る程、それはよい」


 勝手に話が進み、頭の上に? が飛び交っている大田の方へメトドが向き直り、


「貴方様の世話をしていた少年。アウロと申すのですが、私の見立てによると尋常ではない精霊魔法の才能を秘めているのです。しかし勉強嫌いで、今だに簡単な魔法も操れずにいます。このままでは彼の才能を潰してしまう。お願いします。どうかアウロを見てやってください」


(おっ、メトドさん。自分の指導力不足を隠そうとする糞教師はいっぱいいますがね、弟子のこれからを心配して人に頭を下げるなんざーなかなか出来るもんじゃあないよ!)


と大田はメトドの男気にグッときたので、


「いや、俺ごときじゃ力及ばず、って事になるのが落ちでしょうが、やってみましょう」


と、メトドの依頼を引き受けることにした。

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