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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第三章 砂漠の国 ”オステオン”
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3-15 神殿へ

「ぎゅっと握っている時に刃を無理やり引かれたら、指くらい落ちちゃうことだってあるんだからね」


無理するなよ、といって、ターロはメトドの手にヒール(治癒)をかける。


メトドも既に自分でかけたが、血が辛うじて止まった程度で少し動かすとまた傷口が広がってしまうので重ねがけをしたのだ。


ようやく動かしても血が出なくなった。


念の為、アウロにも練習を兼ねて重ねがけをさせる。


血は出ずともまだ腫れているので、テュシアーが腫れを取る軟膏を塗り包帯を巻いた。


「すみませんでした、、、」


巻きながら謝罪するテュシアー。


「謝ることはない。事情を知らなかったのだから当然だ。それよりなぜそんな無謀な計画を?」


真っ直ぐメトドに見据えられたテュシアーは、視線を外して応える。


「私は部族長の娘。民を守るのは為政者の、義務です」


「おまえ、、、そうか、、、よく言った」


娘から聞く意外な言葉、いや、この子ならそう考えるだろう、と思い直し同時に誇らしくなったアルテューマ。


「樹海の魔術師殿達に全てを任せよう。もし、上手くいかぬ時は、我らの責務を全うすればよい。いざという時は、、、お前一人ではいかせぬぞ」


「お、お父様、、、」


悲壮な決意を固めしっかりと親子は抱擁を交わした。


「今回の儀式には私も同行する。後顧の憂いを断つため、長男に色々と申し渡しをしておく。サッカルは街に残って、息子を助けてくれ」


そうサッカルに言い残し、アルテューマは退出する。


従伯父(おじ)様。兄をよろしくお願いします」


と、テュシアーも父の後に続いた。


「あの二人、、、死ぬつもりなのか、、、」


残されたサッカルは当惑するしかない。


部屋にはアウロとドーラが手品の練習に失敗して落ちる硬貨の音だけが響いていた。



それから迎えが来るまでの三日間、ターロ達はもう一度資料室を調べ直したり、希望者対象に魔法教室を開いたり、自分たちの鍛錬をしたりして過ごした。


資料室にはやはり大した物はなかったが、ターロが儀式の様子が記録した物に目を留める。


「そうか、、、」


それを読んでターロは何かをメトドと相談していた。


魔法教室では、以前メトドとアウロにした想像力の話を皆にする。


すると目に見えて魔法を上手く使いこなせる者が増えた。


教えを受ける者の中にはテュシアーもいる。


他の者は彼女とどう接してよいか分からず、結果として彼女は孤立したようになってしまっている。


が、当の本人は全く気にした様子もなく、メトドを話し相手に楽しそうにしている。


懐かれた形のメトドは困惑気味だが、ターロを始め誰も助けてはくれなかった。


因みにアウロは風の精霊に接触して、火の精霊の封印の事で何か知らないか、と尋ねてみたが、わかんない、という返事しか帰ってこない。


風の精霊は自由を愛し、何にも束縛されない、過去の出来事にだって縛られたりしない、と格好の良いことを言っていたらしいが要は、忘れた、ということだった。


散々アウロに鼻笛を吹かせておいて、何の情報もないことを悪いと思ったのか、何時でもお願いしてくれれば手伝うよ、と言って去っていった。


その約束も忘れてしまうのでは、と、アウロは思ったが口には出さなかった。



そして出立の日。


夕方になる少し前に迎えが来る。


神殿までは駱駝で三時間ほどだ。


「先生、行ってらっしゃいませ」


皆に先生と呼ばれるようになったターロ。


サッカルの家の使用人や街で知り合った者も皆そう呼ぶ。


渾名(あだな)みたいなもんだ、と受け入れた。


「テュシアー様、、、」


かける声が見つからず泣き崩れる友人。


「行ってきますわ。皆さん体には気をつけて、、、」


彼女はまるでちょっとした遠出に行くだけ、といった様子で皆に別れを告げ、迎えの神官について行ってしまった。


「ドーラ。サッカルさんの言う事をよくきいて、いい子にしていなよ。冷たいもの食べすぎないでね」


「うん。ぬししゃま。すぐかえってきてね」


砂漠にでると寝てしまうのでドーラはサッカル邸で預かってもらうことになっていた。


ドーラとサッカルは二人共、甘いものが好きなので気があったらしい。


それでもしばしの別れにドーラは泣き出しそうだ。


「大丈夫、明日には帰って来るよ。サッカルさん、よろしくお願いします。くれぐれも食べ過ぎないよう、、、」


サッカルにも念を押しておく。


街を出ると、そこには砂漠管理団がいた。


「あの者達も同行する事になっていてな、神殿の中まで生贄を届けるのにも付いてくる。(なら)わしだから変えられぬ」


そうアルテューマが小声で知らせてきた。


ゼーロはターロ達を見て、フン、と短く鼻で嘲笑うようした後は目もくれない。


「族長殿も同行されますか? まあ娘御が心配でしょうからな。 贄となるのは決まっているのに、、、憐れなことですな」


ニヤつきながら言うゼーロ。


後ろの言葉は独り言のように呟くが無論聞こえている。


その嫌味に応酬するようにアルテューマが返した。


「今回は樹海の魔術師殿らに護衛を頼んだ。お主らは同行されなくとも構わんのだぞ」


そう言われて、ゼーロは舌打ちをした。


「エルダーを一匹を仕留めたくらいでいい気にならぬことですな。砂漠を舐めないほうがよい。何がおこるか(・・・・・・)分からないところだ」


と言いながらメトドを睨む。


完全にとばっちりだが、メトドはいつものように頭巾を目深にかぶり、ゼーロを完全に無視していた。


チッ


とまた鋭く舌打ちをするゼーロ。


「では参りましょう」


険悪な雰囲気の中、神官が出立を告げた。

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