3-14 メトドの説得
「今までの話、聞いていましたよね?」
ターロの問いかけに頷くテュシアー。
「本当に魔神を討つつもりなのか?」
と父、アルテューマが尋ねると、
「生贄の儀式など、終わらせるべきです」
「だからといってお前が魔神を討てるはずもなかろう」
「やってみないとわかりません。正面から戦うのではなく不意を突けば、、、」
そんな親子の会話にメトドが静かに入る。
「それでも貴方に魔神は討てない」
急に会話に入ってきたメトドを屹度睨みつけテュシアーは声を荒らげた。
「!? なぜですか? 樹海の魔術師だからといって全てが見通せる訳ではないでしょう?」
「全てではない。全て分かりはしないが、貴方が腰の後ろに刀を忍ばせていることも、その刀では、”封印されている物”に傷一つ付けられないことも私には見える」
「! よ、余所者が適当なことを!」
カッとなったテュシアーは腰の後ろに右手を回し、背中に逆さに挿したシミターを引き抜いた。
隠し持つためなのか、かなり小振りだ。
刃渡りは四十cmもない。
幅も広いところで三cm強。
少し大きめの護身刀といったほうがしっくり来る大きさ。
それをメトドに向ける。
「テュシアー! 刀を引かんか!」
アルテューマが一喝するが、聞かない。
「細工物としてよく出来てはいるが、その刀に魔神を倒す力などない。金紅石の結晶を鉄の刃に嵌め込んであるだけで、少しの魔力を帯びてはいるがその効果はささやかなものだ」
向けられたシミターを冷静に分析するメトド。
刀を取り上げようと、一歩前に出た。
「そんな訳はない! 私に近寄らないで!」
テュシアーは頼みにしていたシミターの、しかし自分でも不安に感じていた事をズバズバ言われ逆上気味になっている。
威嚇する様にぐっとメトドの方に刃先を突き出した。
その突き出された刃を徐に素手で握るメトド。
ゆっくりとしてはいたが、意外すぎる動きにテュシアーは反応できなかった。
「! 何をしているの? 離して! 手が、、、」
刃を握るメトドの指の間から血のしずくが落ちる。
それを見てテュシアーはシミターを手放した。
「なぜ、そこまで、、、?」
樹海の魔術師の、静かで激しい行動に毒気を抜かれたテュシアー。
「命を無駄にしてほしくは無いのだ」
取り上げた刀をアルテューマに渡しながらメトドは言った。
「命を無駄に? 私は生贄なのよ」
メトドはターロに視線を向けた。
”魔神”の事をばらしてもよいかの確認だろう。
ターロは小さく頷く。
「その生贄が無意味なのだ。魔神などというのは真っ赤な嘘。その昔、天使が制御に失敗した火の精霊が封印されているだけだ」
「そんな! 何を言っているの? 私達の伝承が嘘だっていうの? 三百年の間、生贄になってきた先祖の命は無駄だったっていうこと?」
「聞くのだ、テュシアーよ、、、」
アルテューマが、今までの事を話して聞かせた。
「、、、信じられない、、、お父様はこの者たちの言うことを鵜呑みにするのですか!?」
話を聞いてもまだ信じられずにいるテュシアー。
「普通なら信じられぬだろうが、、、色々と不思議なものを見せられ、魔法の腕、それは習ったお前も分かるだろう? それも確かなもので、何より王家の手形を持っておる」
「王家の! 、、、贋物と言う事は、、、ありませんよね、、、」
自分の父の立場を考えれば贋物を見抜けぬ等あり得ぬことくらい彼女にも分かる。
「そうだ。そして、彼らは今回の儀式に護衛という形で参加し、可能なら”魔神”とされている火の精霊の封印を解こうとしている」
「封印を、、、でも、今の話からすると大賢者様でも出来なかったことですよね?」
アルテューマがターロを見ると、またもや小さく頷いて”可”を表す。
「彼は”継承者”だそうだ」
「大賢者様の継承者! 、、、ついに、、現れたのですか、、、」
大賢者の継承者は全てを引き継ぐ。
連邦国内で知らぬものはいない。
全ての魔術師の憧れであり、目標だ。
その後継者が目の前にいる。
それが意味する事は、、、”希望”。
テュシアーの表情が和らいだのを見て、
「だから貴方が、命を賭す必要はないのです」
と、メトドは優しく断言するのだった。




