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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第三章 砂漠の国 ”オステオン”
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3-11 冷えた西瓜

「、、、これまでの犠牲が、天使の嘘から始まった事だったとは、、、」


「そうだな。 それを知ってしまって、今夜の儀式にどんな顔で参加したらよいのか、、、」


暗い顔で話す、アルテューマとサッカル。


「生贄を選ぶ儀式ですか?」


メトドが尋ねる。


「そうだ。 やはり生贄が命を捧げるしか、手立ては、、、ないのだろうか?」


「そうならないよう、最善を尽くしますよ」


というターロに、


「頼む」


部族長として、アルテューマは頭を下げた。


「で、儀式はいつ頃始まるのでしょう?」


「真夜中だ。今夜は満月。月の南中にあわせて行う」


「分かりました。それまで調べものと食事をしていていいでしょうか?」


「ああ、資料室に案内しよう。食事は広間に用意しておく」


「色々と済みません」


「いや、このくらいさせてくれ。それよりターロ殿。生贄を選んだ後も神殿での儀式の準備やなんやで、出立は二、三日後になる」


急に改まった面持ちのアルテューマ。


「はあ、」


「で、折り入って頼みがあるのだが、、、」


「何でしょう?」


「あのジーソースを冷やす方法を、伝授してもらうわけにはいかないだろうか、、、秘伝なのは重々承知しておるが、、、」


(秘伝? どこでそんな話になった?)


怪訝そうにしているターロを見て、アルテューマが続ける。


「サッカルから、あの魔法を使う前に”解禁”と言っていたと聞いたが、、、」


「ああ、、、」


確かに言った。


勿論そういう意味ではない。


だが、ターロはその勘違いにのることにした。


「分かりました。但し、条件があります」


どんな条件を突きつけられるのかと、緊張の面持ちの、アルテューマとサッカル。


「この技術を一氏族で独占することなく、砂漠の全氏族で共有すること。ただし、この砂漠の国以外には流出しないようにすること、これを守って頂きたい」


「そ、そんなことか。願ったり叶ったりだ。必ず守ろう!」


二人は条件の内容に安心して確約する。


おそらくそう遠くない未来に技術は流出するだろうが、それでもこういった条件を付けておけば文明の進み具合は緩やかでそれほど不自然なものではなくなるだろう。


そう考えてターロはこの条件を出した。


「では、魔法の才のあるものを集めておく。暇なときでよいので手ほどきを頼む」


早速二人は準備に駆け回る。


さっきまで生贄の心配をしていたのに、切り換えが早いと言うかなんと言うか、、、と、半ば呆れる樹海の面々であった。


そして夕食までの間、ターロ、メトドは資料を当たり、アウロは足捌きの練習、ドーラもそれに付き合って過ごした。


ターロはアウロに先ず、武術の基本である足捌きを徹底的に叩き込む事にした。


考える前に体が反応するよう、反復練習を課す。


今までターロに魔法や笛を習ってきて、基本がいかに大切かを身を持って知っているアウロは素直に従った。


因みにメトドの此方(こちら)方面の才能は全くなかった。


剣を振らせてみると、腕を伸ばしたまま振り上げてしまう。


頭の上では肘はゆったりと、と、助言すると、頭の上では確かに肘は曲がっているが、今度はその曲がったままの形で振り下ろしてしまう。


摺り足をやらせてもぎこちなく、すぐに(つまず)く。


(前世で欧米人に教えた時も、こんな感じだったな、、、)


「ターロ様。私に武術を教えるのは時間の無駄です」


と、メトドはサッサと自分の武術の才に見切りを付け、資料室へ行ってしまった。


「ま、まあ、人には向き不向きがあるしな、、、、」


ターロはアウロとドーラに反復練習の課題を与え自分も資料室へ向かった。


資料には、全く有用な物がなかった。


「最初から天使に騙されていたんだから、当然といえば当然か、、、」


とターロの言。


夕食時、既に冷却技術を学ばせようと、魔法の才能がある若者が集められていた。


アルテューマやサッカルの娘も参加しているらしい。


”秘伝”と聞かされているためなのか、噂には聞いているが初めて会う樹海の魔術師を目の前にしているためなのか、皆、ガチガチに緊張している。


そんな若者たちの前で、ドーラは一人、冷えた西瓜に(かじ)り付いていた。


氷水の(たらい)に西瓜を浮かべる事を提案したのもターロだ。


「ドーラ、、、冷たいものばかり食べて、お腹壊さないようにな」


「ん」


上の空で西瓜にむしゃぶりつくドーラはそっとしておく事にして、


「、、、皆さん、始めましょうか」


集まった若者たちにターロが、声を掛けた。


今のターロとドーラのやり取りを見て幾分か緊張が和らいだようだ。


メトドやアウロも見に来た。


皆が黙って注目していると、ターロは、


「先ずこれを見て」


と言って後ろの者も見えているか確認してから盥の水に左手を突っ込み、詠唱。



リフリジエイション(冷却)



水から引き上げた彼の左手には拳大の氷塊が乗っていた。


そして今度は右手を水に付け、詠唱。



ボイリング(沸騰)



直ぐにボコボコボコっと水蒸気の泡が出た。


「あっち」


と手を引き抜くターロ。


「今の泡、見た?」


頷く一同。


「この氷の塊も、盥の中の水も、さっきの泡も、全部同じ物です」


「え! 泡もですか?」


声の方を見ると、アルテューマの娘だ。


名をテュシアーという。


ターロより少し年上の、二十歳位だろうか。


控え目な印象的なのだが、よく見ると聡明さと芯の強さが滲み出ている。


「そうだよ。泡は水が気体になった物だ。氷の固体、水の液体、水蒸気の気体、こんなふうに、身の周りにあるすべての物質は、温度と圧力が決まると、固体・液体・気体のいずれかの状態をとります。これを『物質の三態』といいます」


皆キョトンとしている。


前世では、小学生でも知っている様な事だが、ここでは違う。


前世の錬金術は金を生むことはなかったが、化学を発達させ、それが物質文明の(いしずえ)の一つとなった。


この世界の錬金術は本当に金を生む。


その代わり化学は秘匿されている。


全てを手に入れる事は出来ない。


「まあ、それはいいや。どんな事になっているか想像さえできれば魔法は使えるからね」


ターロは、


「水はね、目に見えないくらいちっちゃな粒が集まって出来ているのね」


といって、皆を見回す。


「今から皆にその粒になってもらおう。 じゃあ、みんな。整列して右手で右隣の人、左手で前の人の肩を掴んでみて」


なんだか分からないが言われたとおりにする。


「はい、その少し動ける状態がこれね」


と盥の水を指差す。


「じゃあ、腕を縮めて前後左右の人と密着して動けないようになってみて」


皆がそうなると、


「その動けない状態がこれね」


と手の上の氷を皆に示す。


「じゃあ手をはなして、部屋いっぱいに走り回って」


皆が散らばったところで、


「その状態が気体だよ。はーい、皆さーん、集まってー」


と、集合をかけ、


「分かった? 走り回ってあっつくなるのって、水蒸気と似てるでしょ? 皆で縮こまって固くなってるのは、氷と似てるでしょ? そんなふうに水の粒がどの状態で、どんなことになっているのかを想像しながら魔法をかけてみましょう」


とターロはまとめた。


皆は体を動かして、なんとなく分かってきたようだ。


そういえばドーラはどうしているだろう。


皆で走り回るような時はいつもなら面白がって参加してくるはずなのに、今回はいなかったな。


と、ターロはドーラを探す。


見ると、給仕がうず高く積まれた西瓜の皮を片付けている。


そして、その山を(こしら)えたドーラは便所に籠もっているという。


(、、、やっぱり、お腹、、、壊したのね、、、)

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