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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第三章 砂漠の国 ”オステオン”
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3-10 水の精霊から聞いた事

「水の精霊に会ってきました、、、」


水音が大きすぎて話しにくいので上の部屋に移動した。


泣くだけ泣いてスッキリしたのか、アウロはぽつりぽつりとこんな事を話し始めた。


精霊の世界は、この世界と並行して或いは重なって存在していること、


火・水・土・風など、精霊ごとに世界があること、


どの世界とも重なったところに精霊樹が生えていること、


そういうことを色々知ったという。


そして水の精霊界から精霊樹のもとへ行き、亡き父母に会ったそうだ。


それで感極まって泣いていたらしい。


父母についての詳しいことをアウロは語らなかった。


ターロが察して、言わずともよい、とした事はこのことだったようだ。


胸にとどめておきたいのか、言いたくない何かがあるのか、理由は分からないが個人的なことなので皆もそこを問い質したりはしなかった。


「そ〜か〜、精霊樹の所まで行っていたから、魂が持っていかれたように見えたんだね。正直あれには焦ったよ」


ターロの言葉に皆も頷く。


「なんか、あんな短い間に壮大な旅をして来たっぽいね」


「そんな短い間だったのですか?」


「うん。三分も経ってないよ」


「え、、、もっと向こうにいたはずなのに」


「精霊界と、この世界では時間の流れ方か、時間その物が異質なのかも知れないね。 それで、火の精霊の事はなにか分かった?」


本題に入る。


「はい。水の精霊達はずっと困っているそうです」


アウロは水の精霊から聞いた天使の実験とその顛末に付いて語り始めた。


顛末、と言っても水の精霊も詳しいことを知っている訳ではない。


現在は神殿として使われている、その当時実験場だった場所の下に地下水が通っておりそこから見えたことしか分からないという。


天使が何らかの理由によって火の精霊を支配下に置こうとした事は確かなようだ。


そして、大掛かりな装置を作り上げる。


その装置の動力は人の魂で、そのために何十人もの人族が連れてこられたそうだ。


本来、召喚された精霊は与えられた魔力によってこの世界での仮染めの肉体を得る。


そして肉体を形作る魔力が消費されると、また精霊界へ帰っていく。


しかし天使の作った装置は、その帰還する道を閉ざすものだった。


そうやって逃げ道を奪い支配しようとしたのだが、精霊のことを根本的に理解していない天使にそれは出来なかった。


精霊界からの力の供給路を断たれ、この世界の火の力を吸い取るにも周りには小さな篝火や煮炊きの火しか無い。


このままでは自分は精霊界にも帰れずここで消えることになる、と判断した火の精霊は太陽の光と熱を取り込んだ。


そこで、暴走が起こってしまった。


あまりにも強大な力を御しきれず、この世に顕現した肉体が崩壊し、ただの暴力的な力の塊になってしまった。


その暴走に対し予め設置されていた安全装置である封印が作動。


この装置は人間の魂を動力源としているので、封印に使う力もまた、人の魂。


封印装置によりなんとか安定したが、それを解いて再制御を試みる気にはなれなかった天使はこの実験場を放棄することに決めた。


嗜虐心からか、その場に残った人族に天使がこう言い残して去っていった事を水の精霊は、はっきり聞いた。


「我らは世界の為にこの地に魔神を封印した。封印がとけ、魔神に世界を滅ぼされたくなくば、生贄を与え続けよ」


そして天使は消え、この地の砂漠化が始まった。


それ以来、地表を水が流れる事は(かな)わず、水の精霊は困っている、ということだった。



「、、、初めから天使に騙されていた、というわけか、、、」


話を聞き終えて、アルテューマが呻くように言った。


「そしてその時から、この地の人々は生贄を捧げ続けた、ってことですね、、、人、一人の魂で十年も暴走状態の火の精霊を抑え込めるなんて、、、」


感慨深げにターロも呟く。


「しかし、大賢者様はどの様に真実をお知りになったのでしょう?」


メトドがターロに聞く。


「封印装置を実際見て、封印されているのが魔神じゃないってことはきっとすぐ分かったんだろうね、、、で、消去法で、天使に辿り着いたんじゃないかね?」


「消去法で?」


「うん。あの時代にそんな封印装置をつくる技術なんて天使にしかなかったわけだし。て、言うか、今だってそうでしょ?」


「確かに」


「何にせよ、イッヒーさんでも手を出せなかった仕掛けが何かあるはずだ。そうでなけりゃ封印を解いて、火の精霊を解放していたはずだからね。先ずそれを何とかしないといけないのかぁ、、、厄介だな。、、、アウロ、」

と、ターロはアウロを見る。


「きっとアウロの力が必要になると思うんだ。済まないけれど、頼りにしてるよ」


という言葉に、嬉しそうに返事をする。


「はい!」


「でさ、その杖と鼻笛は?」


と、ターロが気になっていた事を尋ねる。


「あ、これはあっちの世界で精霊樹の大精霊様に会った時にもらいました。少し早いけれど、って」


「成人の儀式、、、」


メトドが、アルテューマとサッカルに樹海の里の枝分けの儀式の事を説明した。


「そんな儀式があるのだな、、、世界は広い。知らないことばかりだ」


そうもらすサッカルに、頷くアルテューマ。


「鼻笛は分かるけれど、杖は何でこの形なの?」


と、全く飾りのない杖に付いて更に聞く。


メトドの杖頭には輪が付いている。


ロエーの物は、美しい瘤杢が出た塊が先端に来ていた。


しかし、アウロの物は何もない真っ直ぐなだけの杖。


「え、えへへ、、、」


アウロが変な笑いをしている。


「? どうしたの?」


「笑わないでくださいね。 僕、先生の木刀ように闘えて、でもメトド様の杖のように魔法にも使える、便利なのが欲しい、ってお願いしたんです。そうしたら、これをくれました。杖での闘い方は先生に教われって、、、」


皆それを聞いて破顔した。


笑わないで、って言ったのにー、と言いながら顔を赤くしているアウロ。


「あはは、鼻笛も貰ったし、杖も武術と魔法の両用、だなんて随分と欲張ったね。そうか、杖術か、、、俺も形しか知らないけれど、今なら教えられるかな」


ターロは前世で古武術を少しかじっていたので、基本は知っている。


そして今は魂力”聞一(一を聞いて)(以って)知十(十を知る)”のおかげでかなりの水準まで使いこなせる様になっているはずだ。


「じゃあ、後で練習しような」


「はい!」


新たに学ぶことが増えたアウロだった。

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