1-6 守部の里2
(ここは?)
目を覚ました大田は、自分を覗き込んでいる少年に気がついた。
「お師様! 気が付かれたようです!」
その少年が報告した先には、メトドと呼ばれていたあのシャーマンらしき男がいた。
フードをとった顔を初めて見る。
思ったより若い。
四十半ばといったところか。
年齢は前世の大田と同じ位に思えるが、外見はだいぶ違いナイスミドルのイケメンだ。
大田が妙な敗北感を抱いている所へ、
「殿下、お気づきになられましたね」
メトドは読んでいた本を置き、ベットに寄ってきた。
「殿下はおやめください。今はただの落ち奴隷です」
元庶民の大田は、急な貴人扱いに困惑する。
「はは、そうも行きますまい。所でご気分はいかがですか?」
大田は言いにくそうに、
「あの〜、何ていうか、、、ただただ、空腹です」
それを聞いたメトドは、傍らの少年に目配せして、
「これは失礼いたしました。ただ今ご用意いたします」
運ばれてきたスープは、具の無い透き通った物で、温かくはあるが熱くはない絶妙な温度。
疲れた体に染み渡る様だった。
それから大田はまた眠り、再び起きて今度は少し野菜の入ったスープを頂き、用を足してまた眠った。
次に目覚めたときにはすっかり気分は良くなっていた。
「おお、お顔の色が良くなられましたね」
メトドが、もう大丈夫、とばかりに頷く。
融合した時、ラインは、回復魔法が使えて助かった、と言っていた。
魔法を使ったのなら、もっと早い段階で元気になっていても良さそうなものだが、この世界の魔法は、思ったより地味なものらしい。
ラインの使えるレヴェルの回復魔法は、言ってみれば強めの点滴か、栄養剤といった程度で、前世のゲームの様にその場で全快したりはしないようだった。
勿論、欠損部分を修復など、伝説級の魔法ということになる。
尤も、その地味な魔法のおかげで死ななかったのだから贅沢は言えない。
ラインの記憶によると、この世界の魔力は大気に満ちておりそれが呼吸や、特殊な方法などで体内に吸収されるらしい。
吸収された魔力は血液やリンパ液などに溶け込み体中を巡って各細胞にとどけられ、余剰分は魔嚢という心臓の横に位置する小さな袋に濃縮した状態で溜め込まれる。
それらは必要に応じてまた放出される。
魔嚢の大きさは個人によってかなり差があり、生まれ付きの先天的な差だけでなく、限度はあるが鍛えて後天的に大きくする事も可能らしい。
幼少の頃より英才教育を受けていたラインは、同世代の中では魔力の扱いに長けた方であろう。
その力を使えばもっと早く鉱山から逃げ出せそうなものだが、そこの対策はやはりされていた。
奴隷たちは皆、毎晩、魔力枯渇で気を失うまで魔道具に魔力を充填させられていたのだ。
朝になると少しは回復しているが、脱出に必要な程は溜まっていない。
今にして思えばこの拷問の様な作業の繰り返しがラインの魔力の底上げ=魔嚢を大きくする事に繋がった。
無論、魔力量の増加がばれて要らぬ警戒をされても困るので、昼間の作業中もラインは隠れて魔力を消費する様にしていたのだった。
(看病までしてくれているし、俺がラインだと知って丁重に扱ってくれているようだし、味方と考えても大丈夫そうだな)
大田は自分が何者なのか、打ち明ける決意をした。