3-3 邪眼
「あのバシリスクは、儂に買い取らせてくれ」
と、サッカルが言うので全て任せた。
相場よりだいぶ高値で買い取ってくれるらしい。
隊商は進み始め、
「さっきの魔法は何だったんだ?」
等と護衛達から質問攻めに合う。
「あの炸裂で浮かせての足止めと、火矢を射掛けるのは見ていて分かった。だが、あんたはどうやって石化の邪眼を防いだのだ?」
流石に護衛たちはちゃんと見ていて、メトド達の派手な魔法ではなくターロのやったことに興味を持ったようだ。
「ああ、あれですか。ただ、純粋に魔力を遮蔽しただけですよ」
ドラゴンブレスは、音に魔力が乗っているので、音そのものを止めねばならないが、邪眼は目で見たものに狙いを付け、そこに石化作用のある魔力を飛ばしているだけなのでその魔力を止めさえすればいい。
言ってみれば、コンプレスドエアをマジカルシールドで防ぐようなものだ。
ただ、邪眼の魔力は、まだ物理エネルギーに変換されていないので、マジカルシールドで、防御するのではなく、濾過器の様に魔力そのものを止めた。
そんなような事を説明すると、
「よく分からねえけど、魔術師が凄え、ってことは分かったよ」
と、感心頻りな護衛達。
「砂漠管理団なんて、あんな御大層な装備がなきゃぁ狩れないってのにな」
そう嘲笑う護衛達に、ターロが尋ねる。
「なんですか? 砂漠管理団って?」
「ああ、神殿の周りを管理している武装団さ。砂漠からの魔獣の侵入を防いでこの国の無事を保っているのは自分達だ、って威張り腐ってて、鼻持ちならねえ奴らだよ」
「へえ〜。で、その人達は、どうやってバシリスクを狩るんですか?」
「鏡を使うんだ。あんな高価な物を使い捨てにするんだぜ」
話によると、盾状の鏡で、邪眼を受け止め、鏡が石になった瞬間に攻撃する、という方法らしい。
邪眼の魔力は何かを石にするまで止まれない。
そして、邪眼は連発出来ない、という特性を利用した作戦だ。
邪眼の魔力は、鏡で跳ね返るということはない。
魔力は光ではないからだ。
ただの盾でもいいはずだが、特別な討伐方法だと印象付ける為に鏡を使うのだろう。
鏡を必ず消耗するので、対価という事を考えると微妙だし、鏡を使う意味はない。
が、盾で魔力を受け止めること自体はいい作戦だ、とターロは思った。
因みに、ターロの使った魔法は、大賢者イッヒーの温故知新にあったものだ。
以前この地を訪れた時に開発したのだろう。
これが一番邪眼を封じるのに確実で魔力消費も少ない、という自信作のようだ。
(まあ、確かに鏡を使うより、魔法のほうが安上がりだし、相手の事も常に見えるから、安全だしな)
そんな話をしながら、夜の砂漠を行く。
「空が! 満天の星です!」
アウロが声を上げた。
樹海では木々があるため、何も邪魔するものがない星空、というのを初めて見るのだろう。
気付けば天の川が掛かっている。
(やっぱりこの世界でも銀河系はあるんだな、、、)
感慨深げにターロも空を見上げる。
「見慣れてはいるが、やっぱし綺麗だよな」
護衛や商人も釣られて空を見た。
そんなふうに駱駝を進め、その後は魔物にも出会わず、夜が明ける。
「おお〜、砂漠の朝日は格別だな」
なんだか、前世のサハラツアーみたいだな、この世界にきてから、ずっと景観に感動しっぱなしだ、と思うターロ。
「うん。きれい」
一瞬起きて一言呟くと、ドーラはまたグースカ寝てしまった。
その後も魔獣に襲われることもなく、昼よりだいぶ前にクレーネーが見えてきた。
「おはよう」
ドーラが起きる。
「もう大丈夫なの?」
「うん。つちのせいれい、げんき」
「ああ、オアシスには土の精霊がいるのかな?」
「先生、水の精霊の声もきこえます」
とアウロが言う。
オアシス都市のクレーネーの周りには、草木も生えているし畑があるのも見える。
近づくに連れ涼しくなっていく。
街は壁にぐるっと囲われていて、門では検問が行われていた。
隊商は全員身元がしっかりしているので、大した調べも受けず街に入れた。
隊商の殆どの人が衛兵とは知り合いらしく、雑談を交わす。
「今回は、何もなかったかい?」
と尋ねられ、
「エルダーがでやがったよ! でもそこの樹海の魔術師達が、あっという間に片付けてくれたんだ!」
「ああ、見せてやりたかったね。魔法で一瞬さ!」
「管理団じゃなくて、魔術師雇ったほうがいいんじゃねえかい?」
「そうだよな。維持費ばっかりかかって、威張ってるくせに狩り零しがあるんじゃかなわねえよな」
と、口々に応える。
「エルダーが?」
「魔術師?」
衛兵も半信半疑だったが、実際に老毒蜥蜴の死骸をみて、驚く。
「おおー、こんな状態のいいのは初めて見るぞ。どうやって倒したんだ?」
「魔法の火矢? 黒焦げになってないじゃないか」
「ここがその跡? こんなに魔力を収束出来るものなのか?」
人だかりが出来て、ちょっとした騒ぎになってしまった。
その様子を遠くから苦々しげに睨む何人かの影にターロとメトドは気付いていた。




