3-1 砂漠へ
「へえぇ、ここがオステオンか。ドーラ、名産品は乾燥果実だってさ」
「はぉう」
ターロの言葉に意味不明な奇声をあげて悶えるドーラ。
口の中は唾で一杯になっている。
(健康で何より)
ニッコリしながら的はずれな感想を持つターロ。
今、四人はガレオスの船を降りオステオンの港町”テュラー”にいる。
ここがオステオンの海からの入り口だ。
町には露店が立ち並ぶ。
家の壁は皆白く、異国情緒あふれる町並み。
この国は部族社会で、四つの有力氏族が神殿を中心に東西南北に別れてこの国を統治している。
この国では東に位置するここ、テュラーは、アナトレー氏によって統治されている。
権力への接触は今の所無用だろう、ということで先ず町の人から情報収集するが、特に帝国による工作が感じられるような不穏な動きは聞かなかった。
ならば、と、この街で砂漠越えの準備を整え、オステオンの首都、オアシスの街”クレーネー”へと向かうことにする。
クレーネーは唯一砂漠の中に存在する街で神殿にも一番近いため、首都とされている。
北を統治するボレアース氏の管轄下だ。
隊商と交渉して、護衛として参加する事にした。
樹海の魔道士である事とドーラの腕相撲で、難なく受け入れられた。
暑さを避けるため、昼を少し過ぎてから出発するという。
そこから一夜掛けて歩けば、クレーネーには太陽が南中する前に着ける。
夜と昼との気温差が激しく、夜はむしろ上に着るものが必要とのことなので、ローブの上からでも着脱がしやすい毛織物のコートを購入した。
それに、水と食料。
棗椰子の乾燥果物も持てるだけ買った。
口に入れると硬いのだが嘗めているうちにねっとりと柔らかくなり、濃厚な甘さが溶け出してくる。
栄養価も高く砂漠越えには欠かせないという。
ともかく、これで当分ドーラのおやつには困らないだろう。
三時頃、駱駝に乗って出発。
海から離れるに連れ段々暑くなる。
気温が上がったというより草木が無いせいで暑く感じられるようだ。
しかし、日が傾くと急に肌寒くなってくる。
駱駝の数は限られているので、ターロはドーラと、アウロはメトドと同乗している。
まだ夜でもないし満腹でもないのにドーラがうつらうつらし始めた。
「ドーラ、眠いの?」
「うん。ねていい?」
「いいけど、、、。具合が悪いならすぐ言ってね」
「うん。ねむいだけ」
といって、グーグーね始めた。
「どうしたんだろ?」
心配するターロに、
「大地の精霊の力が弱まっていることが影響しているのではありませんか?」
と、メトドが言う。
「先生。なんか変です。風の精霊の気配はしますが、それ以外は全く感じられません」
アウロもそう言っている。
その声が聞こえたのか、
「そりゃそうさ。魔神が精霊の力を奪ってしまったんだ。だからここは砂漠で、外から飛んでこられる風の精霊しかいないんだよ」
と隊商の一人が、話に入ってきた。
「魔神?」
「そうさ、知らないのかい? まあ、この国は閉鎖的だから、外のお人、特に樹海の方々なら知らんのは当たり前か」
別の一人が後を続ける。
「神殿には三百年前にこの国を砂漠にした魔神が封印されているんだよ。魔神の呪いを解かなきゃこの砂漠に緑が戻ってくることはないんだ。でも封印が解けて魔神が復活してしまうと、国が滅びるって言われているんだけどな」
(あれ? おかしいな?)
ターロは小さく唱えた。
【テレパシー】
《メトドさん、アウロ、聞こえる?》
《ええ聞こえます》《はい》
テレパシーで話し掛け、返事がある。
《何かおかしくない? 火の精霊の暴走じゃなくって、魔神って事になってるよ?》
《そうですね、、、という事は、天使の実験の話も伝わっていないのでしょうか?》
《これって、どう言うことだろう? はっきりするまで話をあわせたほうがいいのかな?》
テレパシーでの会話の為に出来たターロ達の沈黙を、恐怖していると勘違いした商人は、
「樹海の魔術師も流石に魔神は怖いかい? そういやあ、何十年か前に大賢者様が神殿にふらりと立ち寄られたそうだけれど、やっぱり魔神をどうすることも出来なかった、って話だしな」
と、一人で納得する。
その時、隊商の列の前の方から声がした。
「出たぞ! 砂漠毒蜥蜴だ!」




