3-0-2 ドラさん、無双する
(あら? 何かしら? 今日は色々と会うわね)
ドラさんと別れて、村への帰り路を急ぐエウメネースは北から来る一団を見つけた。
この辺では見かけない形の馬車。
大きな箱のような形で、窓もなく中身は伺いしれない。
護衛に付いているかのように、何人もの男がその周りを歩いている。
皆、武装していた。
村では見ることのない重装備だ。
すれ違いざま、男たちがエウメネースへと品定めするような不躾な視線を向ける。
その視線に悪寒が走って足早になるエウメネース。
「ここでなら、船に辿り着く前に気付かれもしねえだろ」
「妊婦が必要なんだろ?」
「妊婦になってもらやあいいじゃねえか」
「それもそうだ」
という会話の後、下卑た声で笑った男たちの一人がさっと身を返してエウメネースに後ろから襲いかかった。
「誰かーーッ!!」
警戒していたエウメネースは大声を出して、掴みかかってきた男の腕に噛み付く。
「痛ててててッ! このアマァッ!」
男が殴りつけるとエウメネースは気を失いぐったりする。
「農婦の娘だと思って油断したぜ、、、」
と腕まくりするとくっきり歯型が付いて腫れ上がっていた。
それを見て仲間は、
「だらしねえな」
大笑いする。
「ちっ、お楽しみは船の中でだ」
男はエウメーネスを担ぎ上げて荷台の扉を開け、ドサッと押し込んだ。
扉が閉められる。
気が付いたエウメネースは辺りを見回すが、暗くて何も見えない。
目が慣れてくると、そこには、何人もの若い女性が乗せられていた。
「あなた達、、、攫われてきたの?」
「はい。 、、、急に襲われて、、、。 一緒にいた母は、、、、殺されたわ、、、」
答えた女性はその時の事を思い出し、すすり泣きはじめた。
他の者も同じ様に攫われてきた様だ。
もう泣き疲れたのか、皆一様にぐったりしている。
(どうしましょう。 噂の人攫いが村の近くを通るなんて、、、。 そういえば、馬車の向かっていた先はドーラちゃんの歩いていったほうね。このままではあの子も巻き込まれてしまうわ、、、)
エウメーネスは泣いている娘を抱き寄せ慰めながら、ドーラちゃん、と心配する。
何年か前から、村には奇妙な噂が流れていた。
近隣で妊婦ばかりが攫われる、という噂だ。
村から攫われた者はいなかったので、定期的に広まる与太話だと思っていたのだが本当だったらしい。
何のために妊婦ばかり?
でもそうだとしたらドーラちゃんは大丈夫なのかしら?
等と考えていると馬車が停まった。
ドン、という激しい衝撃が起き、荷台が揺れる。
しっかりした造りの箱なので外の音が微かにしか聞こえない。
ドン!
またに馬車が揺れる。
なんだろう? と皆不安にかられ、固唾を飲んで気配を伺う。
外が静かになったかと思うと少しして、ガンガンッ! と扉が叩かれる。
ガガンッ!!
一際大きな音がして扉が割れた。
女達は差し込む陽光が眩しくて目を瞑る。
エウメーネスが恐る恐る目を開けると、そこには先程別れたばかりの女の子が立っていた。
「ドーラちゃん!」
「やっぱり、おねえちゃん、いた」
外に出てみると、男たちは皆倒れていた。
何が起きたのか理解が追いつかないエウメーネスに、
「こ、、、これ、貴方が? 、、、ど、どうやったの?」
尋ねられて少女は、ぐっと拳を前に出して固めた。
後ろでは倒れた男が、気づかれないようゆっくりと武器に手を伸ばしている。
それに気付いたエウメネースが、危ない、と叫ぶ前に振り向きざまにぴょんと飛んで男の背中へ拳を振り下ろす少女。
「ぐえっ!」
バキッ!
鈍い破砕音と、拳の圧に押し出されたような男の声。
背骨は間違いなく折れただろう。
「こうした」
と、さっきのエウメーネスの質問に答えるドラさん。
少女の、見た目と行動との余りのギャップに何も言えなくなるエウメネース。
「こいつら、やなにおい。このなかからおねえちゃんのにおいした。あけろといったらわらった。おねえちゃん、だいじょうぶ?」
「え、ええ、、、」
「よかった。じゃあね」
と挨拶してクルッと踵を返すと、少女は東に向かって歩き去って行った。
「あの子は、、、樹海の精霊?」
残されたエウメネース達はその後ろ姿を呆然と見送るのだった。
ドラさんは、歩き続ける。
海岸際の岩礁が途切れ、少しすると、小さな桟橋があり船が停泊していた。
見るとさっきの大きな箱型の馬車と同じ物が集まっている。
男たちが怒鳴りながら、箱から泣いている女性達を降ろして船に乗せようとしている。
(あいつら、さっきのやつらとおなじ、やなにおい!)
ドラさんは、てこてこと船に近づいていく。
「なんだこのガキは?」
一人の男がドラさんに気付く。
「誰かに知らされたら不味い。殺れ」
他の男が指示を出す。
「けっ、面倒臭えな。仕事増やすなよ」
と、手を伸ばした男の顔面を殴りつけ陥没させる少女。
男は声もなく崩れ落ちる。
「はあ?」
あまりの出来事に理解が追いつかず、男らも泣いていた女性らもその場から動けない。
その中を悠然と進み船へ近づく少女。
そして大きく息を吸い込み、
「きゃ〜〜〜〜〜ぁ!!」
船に向かって叫んだ。
見守っていた皆が、何してるんだ? と思った瞬間、船からブスブスとおかしな煙が上がる。
そこへまた、
「きゃ〜〜〜〜〜ぁ!!」
という叫び声と共に、少女の足元から大きな棘が何本も飛び出した。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ!!
ガトリング砲のように打ち出された棘が、毒で脆くなった船を崩していく。
船の前三分の一がボロボロに崩れ落ちて、横にゆっくりと傾いていった。
クルッと振り向いた少女は、ふう、と小さく息をはいて、また道に向かって歩きだす。
すれ違いざまに、男たちを殴りつけて昏倒させていく。
気がつくと無事なのは大箱から降ろされた女性だけになっていた。
「さよーなら」
その女性たちにペコリと頭を下げて、少女は東に消えた。
かなり後になって、攫われた女性たちの身内や同村の男たちが武器を手に彼女らを探しにやってきた。
保護された女性たちは一様に、芋袋の精霊に助けられた、と訳のわからないことを口にして興奮しているが、その事は後で詳しく聞くから、となんとか宥める。
男たちは、骨を折られたり顔面が陥没していたりで動けなくなっている人攫いを拘束した。
その者達を拷問にかけると、胎児が目的で妊婦を攫っていたと白状いた。
島に連れていくと何故か高値で買い取ってくれるという。
それ以上の事は分からない、と言うので人攫い達は処刑された。
こうしてターロ達の知らぬところでドーラは、帝国の魔の手を一つ、潰していたのだった。
次回、第三章が始まります。




