3-0-1 ドラさん、人になる
三章へ入る前に、合流前のドーラです。
ドラさんは、去っていく人族達の背を見ながら、鳴いた。
森で幸せに暮らせと、主様は言う。
確かに森を出たくない。
生まれてから一度も出たことがないから。
皆が見えなくなってしまって、匂いもしなくなったので仕方なく森へ戻る。
お腹、空いた。
草を食べる。
甘いの、欲しい。
主様がくれたあの少し硬いけど、なめてると甘くなる、すごくすごく甘くなるのはどこにあるのだろう?
いくら探してもない。
木の上の方になっている実もあれ程ではないが、甘い。
でも届かない。
ドラゴンは生まれてから死ぬまで、殆どを一匹で過ごす。
だから寂しいなんて思ったことはなかった。
寂しい、って何だかすら知らなかった。
でも今は違う。
誰かと一緒に過ごす時間を知ってしまった。
チロチロ燃える焚火の側で、お腹いっぱいで、なぜか魔獣も寄ってこないので、身を寄せてグーグー熟睡する事。
川で、いつも痒いなと思っていたけれど届かない場所をゴシゴシ洗って貰う事。
皆を乗っけてノシノシ歩いていると、主様が不思議な音を出し始めて、小鳥や精霊がよってきて踊る事。
みんなみんな、楽しかった。
でも今は一人。
寂しい。
やっぱり、ついていけばよかった。
でも、ドラゴンが外に出ると普通の人族は怖がる。
それぐらい知っている。
前も矢を射掛けられて怪我をした。
怪我はしたくない。
どうしたらいいかわからない。
だから寝よう。
ドラさんは、安全そうな窪地に枯れ草を敷き詰めて寝た。
どれくらい寝ただろう。
夢を見た気がする。
土の精霊がなにか言っていた。
目を覚ますと何かおかしい。
体がゾワゾワする。
目の前がぼやけている。
ぐっと伸びをすると、何かがまとわりついているので、びっくりして後ろに下がった。
大きな皮がごっそり脱げた。
サッパリした。
目もよく見える。
皮のせいで目がぼやけていたらしい。
自分の体を見る。
何か形、変わった?
色も違う?
よく分からない。
力が漲っている。
ドンと足踏みすると、すごい地鳴りと共に足が地面にめり込んだ。
強くなった?
これで森から出ても大丈夫かしら?
でもドラゴンのままじゃだめ。
主様みたいに人族だったらよかったのに、、、。
人族になりたい。
なりたい。
なりたい。
あ、何か体が、、、軽くなる、、、はああ、こそばゆい、、、あれ? 、、、小っちゃくなっちゃった、、、足? 、、、足じゃない。
どう見ても人族の手。
そういえば後ろ足だけで立ってる。
うまく歩けない。
何が起きたのかさっぱり分からない。
お腹、空いた。
よろけながら歩いていると、だんだん慣れてきた。
もう大丈夫。
走ってみる。
気持ちいい!
跳んで見る。
ああ、高く跳べる!
この体なら木の上の甘い実も採れる!
木の枝に座って甘い実を食べながら考える。
森の外、出ても大丈夫?
もう我慢できない。
主様のところへ行こう。
甘い実でお腹いっぱいになったドラさんは、ちょっと寝てから森の外、ターロ達の去っていった方へあるき出した。
少しすると道へ出た。
右手から馬に、芋を積んだ荷車を牽かせた農家の娘さんが来るのが見える。
まだ二十歳前だろう。
ドラさんが人族なら、この女性を美しいと、思ったに違いない。
嫌な感じもしないし、こっちに気付いても怖がってもいないみたい。
だからちょっと待ってみた。
声が届く距離になってその女性が声をかけてきた。
「あら? あなた、こんな所で服も着ないでどうしたの?」
服?
ああ、そうか。
どうしよう。
「ふくないの」
「え? あなたどっから来たの?」
「あっち」
と言って森を指さす。
「まあ。樹海の子なのね? お名前は?」
「どーらさん」
「どーらさん?」
「うん。どーらさん」
「、、、ドーラちゃん、でいいのかしら? 私はエウメネースよ。どうしてこんな事になっているのかわからないけれど取り敢えず何か着なきゃね」
と言って農婦は荷車から麻袋を取出し袋の底と側面に頭と腕を通す穴をあけ、即席のワンピースを作ってドラさんに着せた。
「ごめんね。ゴワゴワするでしょ。でも我慢して。あら腰回りがダブダブね。紐を巻きましょ」
エウメネースは一人で喋ってどんどん話を進めていく。
「じゃあドーラちゃん、私の村に行きましょう」
「どーらさん、あっちへいくの」
と農婦の来たほうを指す。
「あら、あっちは畑しかないわよ。」
「あっちに、みんないる」
「あら、お連れさんがいるの? 樹海の人達は変わった人が多いから、、、大丈夫かしら? どうして服を着てなかったの? ちゃんと食べてる?」
「ふく、いらないの。おなかいっぱい」
「、、、ご飯食べさせてもらっているのなら大丈夫なのかしら? 辛いことがあるならお姉ちゃんと村へ行ってもいいのよ? あなたなら可愛いし、村でもすぐに受け入れてもらえると思うわ」
「あっち、いく」
何度聞いても東へ向かうというドラさんに、エウメネースは、まあいいか、と諦めた。
それほど村に余裕があるわけではない。
じゃあね、村は向こうだから気が変わったらいらっしゃい、といって、別れた。




