2-37 鎮魂歌
「ターロ様、、、」
振り返ると一部始終を見ていたメトドとユーキリスがいた。
「さあ、燃え広がる前に、出よう」
言葉のない二人にそう言って力なく微笑むターロは、
「でもその前に、、、少しだけ大丈夫かな?」
と、樹海の里で貰った鼻笛を出し、吹く。
フォーレ レクイエム ピエ イェズ
優しい調べが空間を包む。
蟲にされた赤子達の冥福を祈り丁寧に音を紡いでいく。
天使がいなくなったからだろう、精霊が出てきたようだ。
旋律の紡ぎ手たるターロの思いを酌んだのか、顕現した精霊達は蟲の周りまで飛んでいって”何か”を囲んだ。
その中心には小さないくつかの光。
その光と精霊は戯れるようにしばし舞った後、すうっと消えていった。
その場にいる者たちはその時、微かに、しかし確かに感じた。
〈、、ぁりがとぅ、、〉
「ああ、、、」
涙を溜めた目で、メトドはターロを見た。
商会館の前で何匹もの蟲に止めを刺している。
彼の魂力を持ってしても、蟲に貼り付けられていた物が赤子の魂だとは見抜けなかった。
それほどまでに元の魂の気配は弱まっていた。
元に戻してやろうにも、手段がない。
あったとしても、そもそも元の躰がもう無い。
真実を知って罪悪感に苛まれているのは、メトドも同じだった。
しかし今、霊魂から受け取った思い。
「ターロ様、、、。 あなた様の笛の音は、赤子の魂のみならず、、、私の心も救ってくれました、、、」
そのメトドの言葉に、ターロは寂しそうな笑みだけを返した。
パチパチと音を立てて、火が移っていく。
「さあ、出よう」
ターロの声に、それぞれの感慨を抱いて皆、外へと足を向けた。
「娘や孫たちだけではない。あの蟲そのものが、犠牲者だったとは、、、。 罪深い技術だな」
船上の人となったターロにガレオスが話しかけた。
「そうですね、俺には帝国を許せない理由が一つ増えましたよ。 、、、あんな技術を認め、使うような者たちを野放しにはしておけません」
後ろに遠ざかってゆく島を見つめながらターロは、静かに言った。
一旦、エスカトンに戻る。
海賊は全滅。
殆どを生け捕った。
今までの討伐失敗が嘘のような成果だ。
「クシピアス様、悔しがるでしょうね」
というオノスに、
「違いない」
と、豪快に嘲笑うガレオス。
朗報に、町は沸きたった。
明くる日、まだ戦勝会の二日酔いから誰も醒めていない時間に、ターロがもう町を立つという。
引き止めるユーキリスやガレオス、首都のミュコスに寄るよう誘うロンボスにオノスだが、
「他も見ながら、半年で、ケパレーまで行かないとならないので」
と丁重に断り、
「では、連邦会議で会いましょう」
ということになった。
次に目指す国は、砂漠の国”オステオン”。
海岸沿いを、ミュコスを経由して歩くと二〜三日はかかるが、船なら湾の対岸なので半日で着く。
ガレオスが送ってくれると言うので、厚意に甘える。
別れ際、
「連邦会議までに海賊や、帝国工作員の残党狩りをしておく。対帝国の為、国内をまとめておこう」
とガレオスは約束してくれた。
そして、ターロ・メトド・アウロにドーラの四人は、オステオンに降り立った。




