2-35 天使決着
「よう」
天使が扉を開け通路に出ると、その突き当りにいたターロが声をかけてきた。
お互い気配を察知していたらしく驚きもしない。
暫く睨み合いが続く。
向こうから聞こえてくる激しい戦闘音だけが木霊している。
「仲間がやられているぜ」
ターロが揺さぶりをかけた。
「あのような下賤な者共など仲間ではないと言うたろう」
天使が涼やかに応じる。
そして沈黙。
隙の探り合いでお互い動けずにいる。
ややあって天使が口を開いた。
「この狭い通路では、存分に闘えぬな」
「だったら、どうする?」
「外に出るか?」
「俺はここでも構わないんだぜ。ここじゃあ翼が使えないからあんたは不利になるかい?」
ターロはブラフをかける。
「そうでもない。お主こそ転移魔法が使いづらくなろう?」
(チッ、テレポート使う攻め筋を警戒されちまってる)
ブラフをかけたつもりが、反撃された。
(しゃあねえ!)
下腹に気を溜め、ターロが踏み込む。
鋭い突き。
天使は振り下ろす左手でそれを弾く。
下に弾かれた木刀を素早く回してターロの右脇構えからの袈裟斬り。
それも左で受け止めた天使は透かさず空いている右手で下から抉るような四本貫手をターロの喉に放つ。
それをターロが柄頭で落とし、そのまま顔めがけて突き。
右手を引きながら天使は左斜め下にほんのわずかに躰を落として突きを回避しつつ前に出て体重の載った正拳突き。
天使の右腕を柄で外に弾くと同時にターロはさらに肘打ちで天使の顔面を狙う。
ターロの肘を左手で受けそのまま後ろに距離を取る天使。
一瞬の攻防。
そして、また睨み合い。
向こうの戦闘音がおさまってきた。
不意を突きターロは衝撃波を天使に向けて放つ。
「何だ? これは通じぬぞ」
案の定、天使に握り潰されそう言われた。
(使ったのは、右手!)
衝撃波を潰した手を確認。
木刀に魔力を溜めながら、天使の右後ろへ瞬間移動。
魔力を込め手の内を絞った渾身の切り落とし。
「む! 何度やろうと通じ、、、!」
ターロの動きを読んでいた天使は、すぐさま反応し上半身だけ振り返って木刀を魔力で強化した右前腕で受け止めた、、、
はずだった。
その鉄より硬い前腕が、ターロの振り下ろした木刀によって、
ちぎれ飛んだ。
呆然と、中を舞う自分の右手を見る天使。
どさっ、と腕が床に落ちる。
「、、、何を、した?」
ドボドボと血の滴る右腕の切り口を見つめながら天使が問う。
「何をしたーっ!!」
初めて天使が声を荒らげた。
「へっ、やっとこ余裕の皮、引っ剥がせたか」
ニヤリとするターロ。
(うまくいったぜ)
飛ばしたのは前回の衝撃波と全く同じに見えるよう調整した全く違う魔法。
【ディスパージョン】。
ターロのイメージはこうだ。
天使の魔力による硬化はいわばスクラムを組んだ力士。
そこへ幼稚園児がいくら体当たりしたところで、びくともしない。
だが、部屋の女将さんが出てきて、
「あんたら! 固まってるんじゃないよ! あんたは四股踏んでな。あんたは鉄砲。あんたはチャンコ作って!」
と指示を出す。
そうして誰もいなくなった土俵の上を、幼稚園児が好き勝手に走り回る、、、。
勿論、女将さんが霧散の魔法だ。
これで効果があった。
あったのだからそれでよい。
それを教える義理はないし、教えるのは難しい。
「お主! 今のは何だと問うておる!」
「答えるとでも?」
ターロの応えに、
「むっ、前回の意趣返しか。 、、、生意気な」
と眉根を寄せる天使。
左手を腕の切り口に当てると、
バリバリ!!
とプラズマのような物が発生し、傷口は焼かれたようになって血が止まった。
(よ、よかった。取り敢えず切れた腕が生えてくるような化物じゃなかった、、、)
天使が傷口に手をやったときには、再生させるのか? と内心焦ったが、そうではなかった事にターロは内心安堵する。
無言のまま羽を広げた天使。
体が僅かに浮き、そのまま滑るように後退していく。
「逃げんのかよ?」
何も応えず、天使はターロが入ってきた方へ飛んでいく。
(不味い。皆の方へ行かれて、巻き込んじまったら、、、)
ターロは慌てて追った。
天使はターロへの目線を切らさず、後ずさるように大部屋へと入っていく。
そこへ、
【ファイヤーダーツ】
海賊退治に一段落つき天使の方を探っていたメトドの攻撃。
進行方向を見ていなかった天使は、メトドの放った火の矢を翼にまともにくらう。
「むううぅぅっ!」
ズザアー! っと床を滑る天使。
「いいぞ、メトドさん! ドーラ、毒!」
ターロはメトドにぐっと親指を突き立てて見せて、ドーラに短く指示をだす。
「きゃ〜〜〜〜〜ぁ!!」
ピョンと飛び出したドーラは、至近距離で天使にだけ向けてのドラゴンブレス・毒。
天使はとっさに翼で体を守るが、穴だらけのそれでは守りきれない。
「おおおーー! 何だこれは! 蝕まれる、、、回復が、、、」
天使の羽がブスブスいいながら崩れ落ちていく。
まるで塩酸をかけられたようだ。
服もボロボロになり、皮膚も爛れる。
そこへターロが切りかかった。
「!!」
とっさに右腕で防御するが、それは先程切り落とされている、という事を天使は失念している。
ボッゴォッ!!
乗せられるだけ魔力を乗せた精霊樹の木刀の一撃は、床が凹む程の威力。
当然、毒で脆くなっていた天使の躰は完全に圧し潰されていた。
緊張を解いたターロの口から、吐息と共に言葉が零れる。
「、、、やった、、、」




