2-34 狂戦士化
「あんなのが出てくるなんて聞いてねえぜ!」
小部屋では海賊の頭目が、がなり立てていた。
自分の失敗を胡麻化そうと必死なのだろう。
「そう、喚くな」
横たわって半身に上半身を起こしているのは、天使だ。
「何もお前を責めているのだはない。お前らを制圧した者は麻のローブ、得物が木刀、だな?」
責任を問われないと分かり頭目は態度を軟化させた。
「そうだ。無茶苦茶な強さだったぜ」
いの一番で気絶させられたくせに、見たように言う。
「ならばそやつは、我に手傷を負わせた者だ。お前らではどうにもならぬ。 で、捕縛されたのにどうやって逃げおおせた?」
「へ、奴らをぶっ殺したに決まってらあ」
嘘だ。
「二日もかけてか?」
バレている。
頭目は何とも応えられず、視線を泳がせた。
「まあよい。我も、間もなく完治する。取り敢えずあの”蟲”の数を揃えておいたらどうだ」
そう、話がおさまりそうなところで、
ドカッ!! ボッコーン!!
大きな破壊音と、
「うわあ〜」「ぐえぇぇぇっ」
それに巻き込まれたらしい悲鳴が小さく聞こえる。
「つけられたな」
天使の鋭い視線にたじろぐ頭目。
「し、知らねえ!」
「間抜め、ここを突き止めるために、わざと逃されたのだ」
「!」
反論しようとする頭目を天使は衝撃波で吹き潰し、ややあって何かを感知したのか、ほぉう、と呟くと徐に立ち上がる。
そして即死した頭目の遺体には目もくれず、部屋の外に出た。
時間は少し遡る。
ターロは光る木刀を掲げ、先頭に立って歩いている。
少し入ると松明や篝火が設置された通路にでたので、木刀の明かりを消した。
「なんだか、蟻の巣だな」
ターロの感想の通り、通路には沢山の分岐がある。
「小部屋は倉庫とか、荷物置き場って感じだな。人の気配はもっと奥だ」
気配のない分岐は無視して進むと、大きな気配のするのと小さな気配が沢山ある通路に分かれた。
「こっちは大部屋で、海賊が屯しているようです」
とメトドが指差す。
「という事は、こっちの大きな気は、、、」
「天使だと、、、」
「だよね。じゃあ、皆さんは海賊をなんとかしてください。俺は天使の方へ行きます」
とターロが言うが、ガレオスは心配そうに、
「ターロ殿、一人で大丈夫なのか?」
「一人がいいんですよ。あの化物相手に誰かをかばう余裕はありません」
ニヤリと片方だけ口角を上げるターロ。
「そ、そうか。次元の違う闘いなのだな。儂らが行っても却って邪魔になるだけなのだろう」
ガレオスは納得する。
「ぬししゃま。どーらもいく」
と、袖を引っ張るドーラ。
「いや、ドーラは、皆を助けてやってよ。頼んだよ」
「はーい」
頭を撫でて頼むと、素直に聞き入れてくれる。
「では」
と、二手に分かれた。
討伐隊、総勢二十名弱はガレオスを先頭に進む。
直ぐに大部屋に出た。
海賊共が呑み食いしている。
「!何だテメーら!」
「侵入者だ!」
気付いた海賊は武器を探すが、すっかり油断していて装備を解いてしまっていたので、自分の物を探しててんやわんやしている。
メトドが透かさずアウロとドーラに指示を出した。
「アウロ、精霊は?」
「駄目です。反応がありません。音楽魔法で支援します!」
「よし。ドーラ、あの大卓を向こうに蹴り倒して壁まで押せるかい?」
「よゆう」
どこで覚えたのか、変な返事をするドーラ。
「皆さん。我々で奴らを崩します。その後で捕縛するなり討取るなりをお願いします!」
と皆に叫んで、メトドは詠唱した。
【ブロウ アップワード】
大卓の手前にいた海賊等が浮き上がる。
「うわあ〜!」
彼らが卓の向こうまで吹き飛ばされた所で、ドーラが卓を蹴り上げる。
ドカッ!
そして海賊ごと壁まで卓を押し込んだ。
ボッコーン!!
「ぐえぇぇぇっ」
海賊共が潰れて呻く。
敵も味方もあっけにとられて、動けない。
ピュィィィーーーーーッ!
アウロが魔力を込めて鼻笛を吹くと、討伐隊が我に返った。
そしてターロから教わった異世界の曲。
ワーグナー ワルキューレの騎行
「な、何だこりゃ!?」
「おお!力が湧いてくる!」
「いける、いけるぞッ!」
味方が沸き立つ。
「かかれぇぇぇーッ!」
ガレオスの号令に、討伐隊は、
「「「「「 おおーーーっ!! 」」」」」
攻め懸かる。
士気はダダ上がりだ。
アウロは、ターロの言っていた「結構凶悪な魔法」の意味を今更ながら、理解した。
討伐隊の高揚感は半端なく、腰の剣を抜くのも焦れるのか素手で殴りかかっていく。
ドラゴンのドーラと魂力で精神魔法にかかりにくいメトドは、もう見ているしかない。
メトドは、思った。
(狂戦士化、、、)
防具も武器も見つけられず、討伐隊の迫力に気圧された海賊達は、為すすべもなく殴り倒されていく。
騒ぎを聞きつけて奥から出てくる奴らも、出てくるそばから倒された。
「続け〜〜ッ!」
目の前から敵がいなくなると、奥へと移動。
何があるか分からないから、と警戒するものは、一人もいない。
幸い罠などなく、討伐隊からは死者どころか怪我人すら出ない。
もっとも、皆、拳の皮はずる剝けていたが。
気がつくと七〜八十の海賊を討ち取っていた。
正に圧勝。
これだけの効果があったのだ。
流石に魔力消費量は相当な物だったようで、制圧が終わると激しい脱力感に襲われよろけるアウロ。
魔法の効力が切れて、正気に戻った討伐隊の一人が呟いた。
「く、クセになりそう」




