2-32 増援到着
「恐ろしくうまくいきましたね」
半ば呆れて、ロンボスがそう言うと、
「人に使われることを良しとする海賊なんて、まあ、こんなもんですよ」
ターロもいやはや、と言った仕草を交えて応えた。
当然だが、海賊達が自らの力で脱出に成功したわけではない。
全てターロ達の策略だ。
こんなに分かり易いとすぐにばれるのでは? と、ロンボスは心配したが、まあ、大丈夫ですよ、と自信満々にターロが言うのでやってみた結果がこれだった。
「人って自分の都合の良いように考えがちですからね。ああ言う無教養な輩は特にその傾向が強い」
そのターロの言葉にロンボスは、確かにそういうもんかもしれない、と深く頷く。
皆には海賊に一芝居打つために、一階とバルコニーでどんちゃん騒ぎをしてもらっている。
ここ二階には、ターロの他に海賊騒ぎを聞きつけてやってきたユーキリスと、ガレオス、ロンボスにメトドとアウロがいる。
ドーラは一階で皆と腕相撲大会だ。
アウロが精霊にお願いしたので、ガレー船内の会話はここにいる面々に筒抜けとなっていた。
「しかし、ゾンビにしたロンボスさんを操って首都に攻め込もう、なんて、実現してたら結構厄介な計画でしたね」
「それも、ターロ殿達のおかげで潰えた。ロンボス、ターロ殿がこの港にいた時でまったくおまえは運が良かった」
「全くです」
ガレオスに言われ、頭を下げるロンボス。
無論、逃げた海賊の後を追えるよう、奴らが乗っていった小型船にはマーキングを施してある。
海賊等は昏倒させたまま魔法で丸二日眠らせておいた。
先程、増援は間もなく到着する、との先触れが来たので海賊共に軽い回復魔法をかけて目を覚まさせた、というわけだ。
「海賊はあいつらも入れて総勢何人くらいか分かりますか?」
「正確には分からんが、百人近くはいると思う」
ガレオスがターロの唐突な質問に答えた。
「そうなんですね、なら大丈夫かな?」
「何のことかね?」
「ええとですね、認識印からは常に微弱な魔力が放出されてて、それを俺が感知する、という仕組みなんですよ」
ふむ、と頷くガレオス達を見てターロは続けた。
「逃げた海賊の中にいたインチキ魔術師くらいなら全く問題ありませんが、天使には間違いなくばれるでしょう。それで逃げられては元も子もない。我々は先行します」
それを聞いたガレオスが、
「ならば船を操れてこの海域に詳しい者が必要だろう。儂等が同行しよう」
と申し出た。
その申し出を受けたターロ達が出航して間もなくの事。
「ユーキリス!」
増援船団の先頭には五人の評議員のうちのもう一人の漁業者代表、オノスが乗っていた。
二十代半ば。
漁師らしい褐色の肌が眩しい健康的な女性だ。
「オノス! 君が来たのか。クシピアス様はどうした?」
「クシピアス様とラブラクス様は、ミュコスの守りとして残っているわ。今回は無理を言って私に任せていただいたの、、、ゾーイの仇を、、、」
オノスはゾーイの幼馴染だった。
知らせを聞いて他の評議員に自分が行くことを主張し、二人の仲を知っている彼らもそれを認めたのだろう。
「そうなんだ、、、。海賊討伐だから、クシピアス様が来るかと思っていたんだが、、、」
ユーキリスが言う通り、クシピアスは大商人株を持った商人だが、本人は銛突き漁師になりたかったという偉丈夫だ。
以前の討伐遠征で煮湯を飲まされていたので、彼が来るとユーキリスは思っていた。
「ゾーイの仇討ちに、君が来てくれたんだね、、、。 礼を言うよ。有難う」
明らかに憔悴しているユーキリス。
それでも他者に気を使う様子が逆に痛々しい。
「幼馴染ですもの、当然よ。ところでガレオス様は?」
「海賊共を尾行しているよ。泳がせて今度こそねぐらを突き止めようって事なんだ。私達は、追いかけて打ち取るだけだよ。但し向こうには天使がいる。油断はならない」
「知らせにあった事は本当なのね、、、」
やはり自分の目で見てはいないオノスには、天使が海賊の後ろにいる事に実感がわかないらしい。
「本当だよ。樹海の魔術師たちが退けてくれなかったら、エスカトンはどうなっていたか分からないよ。実際、私はあれを目の当たりにしたが、、、」
言葉につまり青褪めるユーキリスにかける言葉をオノスは見つけられない。
「ともかく船を出そう」
なんとか言葉を絞り出すユーキリスだった。




