1-3 融合2
(ええ〜。これで二度目だよ。何で皆、俺の中で満足そうに消えていくのかね、、、)
試しに呼びかけてみたが、フォルスからもラインからもやはり返事はない。
なんとなく自分の中にその存在は感じるのだが、意思疎通は出来なかった。
自我がもう無いのかもしれない。
魂とは、記憶とは、死んだ後見たあの光は、ここに来るまでに通ってきたあの空間は、、、いったい何なのだろう?
考察したい事は山ほどある。
だが、今のこの状況を何とかする事が先だ。
こんな過酷な放置はないんじゃないか、、、。
愚痴っても始まらないので現状を把握する為に、ラインの記憶にアクセスしてみる。
(おいおいおい、、、こいつぁ、ヘビーだな)
なんと、ラインのフルネームはライン・ゲドゥルトゥ・ホーフエーベネ。
小さいながらもホーフエーベネという王国の、元王子様だった。
その王国は二年ほど前、隣の大国、ペレエダーニェ帝国に攻め込まれあっけなく滅亡している。
彼が十五歳の頃だ。
そして奴隷に落とされ鉱山で苦役に服していた。
使い潰しが前提の過酷な労働に、同朋は次々と命を落としていった。
だが、ラインは一矢報いる機会を待ち、耐え続けた。
死体が川に廃棄される事を利用し、仮死状態になって、なんとか脱出に成功。
しかし思ったほど体力が残っておらず、仮死状態に耐えきれなかった。
蘇生失敗寸前の危ないところで、大田と融合出来た。
当に奇跡的なタイミングだった。
ラインとの融合で一挙に流れてきた情報の処理と、この体への魂の定着がまだ不安定であるが為の二日酔いと船酔いがタッグを組んでやってきたような気持ち悪さの中、この先どうするつもりだったのかラインの記憶を更に検索する。
(川を下って無事蘇生できた後は、、、森の中の隠者を訪ねる? うわっ、何その王道ファンタジー設定)
死体を板にくくりつけて川に流す理由は、焼くのが面倒なだけではない。
下流に隣接する連邦国"ケパレー"への嫌がらせも兼ねているらしい。
ラインが流されてきた川は国境を越えて、そのケパレー連邦支分国の一つである”ケイル”の領地に流れ込む。
その川の流れる先、山の麓から広がる大樹海のどこかに伝説の大賢者がその晩年、隠棲していた方丈があるという事だった。
ただ、その大賢者は大分前に亡くなったという話だったし、そもそも大賢者の隠蔽結界と樹海の猛獣に阻まれ、たどり着くのは不可能に近い、とラインの記憶にはあった。
(おいおい、なんだよこの無茶な計画、、、。 っていうか、上手く行ったらラッキーくらいな感じで、本気でできるとは本人も思っていなかった節があるな。む〜〜ぅ、とりあえず体調を整えないと、転生してすぐ死ぬことになるぞ)
川から上がり見回すとその樹海がもう目の前に迫っている。
靴も履いていないのに歩いて樹海を越えるのは無理そうだ。
靴どころか服はゴミ袋に穴を開けて頭からかぶったのと変わらない。
先ずは、安全に休める所と食料、丈夫な服。
、、、必要な物、結構多いな。
と大田はうんざりしたが、ラインの無念を考えると諦めるわけにもゆかない。
融合が進み記憶が馴染んだ所為か我が事のように感じる。
(あいつ、こんな目に合わされたのに、この体で俺が幸せになればいい、だなんて、痩せ我慢言いやがって、、、。 若いのによくできた好いやつだな。なんとか仇とってやりたいけど、、、さて、どうするか?)
大田が居る付近の流れは蛇行しており三日月湖が出来かかっている。
そこに流された死体が引っかかる様で、死体が括られていたであろう板が何枚も打ち上げられていた。
死体の方は流されたのか、沈んだのか、魚や動物に食べられたのか、少しの骨以外見当たらない。
その板と、紐で簡易な筏を作ってみた。
川に浮かべて仰向けに寝っ転がってみても沈みそうにない。
ゆらゆらとゆっくり流れ始めた。
この世界の空も地球のように、青くて綺麗だ。
それを眺めているうちに大田は力尽きて寝てしまった。
そして筏は大田を乗せたまま樹海へと、入っていった。