2-14 ユーキリス夫人
「ヒャーッハッハッハッヒャ」
ターロがアウロにテレパシーで指示を出しているとき、部屋の反対側では、高笑いをするスクピディが支部長ユーキリスに彼の妻子をけしかけていた。
「ほれ、このナイフで亭主を殺って仲間にするがよい!」
スクピディが夫人と子供にナイフを渡した。
それを受け取り、ユーキリスにじわじわと近づく夫人と息子。
「や、止めろぉっ! 止めさせてくれ!!」
ユーキリスが妻と子、そしてスクピディにも懇願するが、止まらない。
子供がナイフを振り上げて襲いかかろうとしたその時、夫人は後ろから、息子の後頭部を、、、刺した。
生前の夫人の力では考えられないほど深くナイフが、息子の後頭部に刺さる。
そのまま、床に息子を押さえ付ける夫人。
「おお? 命令以外の行動をとるとは、研究に値する」
スクピディは下卑た笑顔から、真顔になった。
出してはいけない限界を越えた力を出している所為だろう、夫人の腕が膨れ上がり、内出血したように紫に染まっている。
まだ、蠢く息子を抑えながら、夫人は、ユーキリスの顔を見上げた。
「!!」
その顔を見たユーキリスは息をのむ。
夫人の目からは、血の涙が流れていた。
「、、あ、、なた、、、おね、、がい、、、コロ、、シ、、テ!」
「ああっ! 、、、ゾーイ!!」
その時、ターロがスクピディに向かって斬りかかるも、護衛に残したゾンビ二体に阻まれる。
一体と鍔迫り合いの格好になったところに、もう一体がターロに斬りかかるが、後ろに体を引きつつ、木刀に魔力を乗せ切りかかってきた方を肩から反対側の腰まで袈裟斬りにする。
そしてもう一体のゾンビの足へと、木刀に乗せた魔力を飛ばす。
ザッシュッ!!
袈裟がけに切られた方も膝から下がなくなった方も、ドウッ、っと床へ投げ出されたが、まだ動いている。
ターロは、一体へ素早く近づいて唱えた。
【スキャン】
(なんてこった、、、脳にまで食い込んで同化している、、、脳ごと破壊するしかないな)
そこで頭に手をあて、もう一つ魔法を放った。
【ハイ・エレクトリック・コーレント】
バッシュ、という衝撃音と共に、焦げた臭気が立ち籠め、やっとゾンビは動かなくなった。
ターロは、もう一体にも同じ事をして、立ち上がりスクピディへと向き直ると、ユーキリスと、その妻が目に入った。
ユーキリスは妻を抱きかかえて、慟哭している。
その手には、息子が落としたナイフが握られており、その刃は、妻の後頭部へと深々と刺さっていた。
状況を把握したターロ。
「おまえ、、、人としてやっちゃいけねぇ事に、手え出しやがったな」
と、スクピディを睨み、剣先をそちらに向けながら、ユーキリスへと近寄る。
「支部長さんですね、、、奥さんと息子さんを、、、浄化して、安らかに眠らせてあげましょう」
返事を待たず、ターロは極力脳内に寄生した”蟲”だけに流れるよう調節して電撃を放った。
二人の体は一瞬ビクッと、痙攣して二度と動かなくなった。
「お、、、おお、、、おおおおーーッ!! ゾーイィィッ!!!」
妻の名を叫ぶユーキリス。
「フヒャヒャヒャヒャ。クズがよく鳴きよるわ。何が悲しいのか。おまえも直にそうなるというのに」
顎を上げて、ニヤニヤしながらスクピディが言う。
「何様のつもりだ。クズはてめえだろ。この無能野郎」
心の底に怒りを抑え込んで、ターロが言う。
「ききき貴様! この私を無能だと! クズの分際で! 許せん!」
ターロの言葉に逆上したスクピディが、また蟲を投げつけてくる。
「こんなもん、タネがバレりゃ、なんてこたぁない」
ターロは蟲を追尾するイメージを込めて電撃呪文を放ち、全て黒焦げにした。
消し炭のようになって、床に落ちた蟲を踏み潰し、挑発する。
「こんなムシケラを寄生させて操るなんて、本物の死霊使役術にゃあ遠く及ばねえよ。こんなチンケな事してるから無能だって言ってんだよ。バーカ」
「!!、、、ききき貴様ぁっ! この術は長年の研究の成果だ! 馬鹿にすることは許さんぞ! 天使様達にも認められ、この宝玉を賜ったのだ!」
(お、食いついたな)
ターロは怒っていた。
しかし、怒りに我を忘れたりはしていなかった。
怒りで、逆上しているふりをして、舌戦を仕掛け、相手から情報を引き出すつもりだ。
スクピディは思ったより遥かに沸点が低く簡単にのってきた。
(”天使”か。キーワードが出てきたな。もっと喋らせるか)
「天使だかなんだか知らねえーが、こんなムシケラを使う手品になんの価値があるってんだ?」
「わ、私のこの術は、二年前の内乱を裏から操ったのだ! 今回も、、、、」
ドゴーン!!!
不意に壁と屋根が弾け飛んだ。
「喋りすぎだ」




