表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第二章 海の国 ”ブラキーオーン”
34/678

2-9 魂力発現

皆さんも何も見ずに、牛を描いてみてください。

デフォルメせずに、写実的に。

耳と角の位置関係とか、目の離れ具合とか、細かい所が意外と思い出せないかと思います。

「、、、これ、牛じゃない、、、」


数分後、打ちひしがれる二人の前には、二頭の牛らしき違う生き物の絵が出来上がっていた。


「ほら、意外とちゃんと描けないでしょ? 人間の思ってる”見ている”なんて、こんなもんなんだよ。

だから、火炎玉(ファイヤーボール)だとか、稲妻(サンダーボルト)だとかの攻撃魔法が、消費魔力の割に威力はイマイチ、なんて評価で、使われなくなってきたんだ。大賢者様が生きている時はそんな事なかったんでしょ? っていうか、彼はバンバン使ってたでしょ?」


「はあ、、、」


大賢者イッヒーの英雄譚は、この大陸に生きる者なら誰でもしっていて、確かにその中で語られる大賢者は、威力の高い魔法を何度もブッ放している。


「まあ、危険だからあまり人に伝えなかったのかもね。とにかく、正確に想像すればするほど、魔力の具現化率が高まるわけ。だから威力が上がるんです、って、長々説明しちゃったけれど時間もないから話をもとに戻して音楽魔法、音楽魔法!」


アウロもそうだった、という顔になる。


「最初だから、友達になろう、とか、お話しよう、みたいな”気持ち”を込めて吹くだけで、いいんじゃないかな?」


とターロはアウロに促した。


「それだけですか?」


「そう、それだけ。でも想像が大切って事はさっきの話で分かったっしょ? 想像してごらん、君の吹く笛の音を聴く精霊を。さあ」


「はい」


アウロは少しの間目を閉じてから、鼻笛を顔に当てゆっくりと吹き始めた。


奏でる曲は、ドラさんの上でターロに習った、



J.S.バッハ BWV anh.114 ”メヌエット”



可愛らしい旋律が、丁度、陽が落ちたばかりの広場に響く。


ポッ ポッ と小さな光が灯った。


その光がアウロの魔力を受けてだんだんと強くなり、人の形を取りながら、踊り始める。


最後の音が消えた後、踊っていた妖精達はふわふわと、アウロの近くまで飛んできて、肩や、差し出したアウロの掌、頭の上に座って、少ししてから薄れて消えた。


「、、、先生、、、」


アウロは感動のあまり目に涙をためている。


見ていたメトドも、その幻想的な景色に心に来るものがあったようだ。


「精霊達、来てくれたね」


ターロが、優しく言う。


「はい。僕の曲で踊ってました。 、、、何だか、言葉にならない物も流れ込んできて、、、」


「遊ぼうって?」


「そうです! 言葉じゃなかったけれど、何ていうか、優しく迎え入れてくれた様な、、、、」


「そうだね。精霊は何時でも何処にでもいて君を見ている。彼らに信頼されて友情を通わせられれば色々と助けてくれるようになるんじゃないかな?」


そこでじっとアウロを見ていたメトドが、口を開く。


「、、、ターロ様」


「ん?」


「アウロに、、、魂力が、発現しています」


「え! 僕に!?」


驚くアウロ。


「ほ〜。どんな魂力?」


ターロに訊かれて、メトドは目を閉じ何やらゴニョゴニョやった後、


「銘は、、、 ”精霊(ダンス)(ウィズ)踊る者(スピリッツ)” 強力な召喚魔法の魂力です」


「!」


喜色満面のアウロ。


「おめでとう!アウロ!」


「せ、先生の御蔭です。里中から駄目な子だと思われていた僕に、、、拗ねて魔法の練習もしなかった僕に、、、鼻笛で精霊を見せてくれて、、、、」


今度は泣き始めた。


(ああ、あの時から、、、)


とターロは思った。


魂力とは魂に刻まれる力。


心が大きく動いたときや、長い年月懸けて、心に染み込んでいったものが、魂力として発現するらしい。


里では少し変わった子、いつまで経っても魔法が使えない子、として扱われ、精神的に追い詰められていた時に見た、ターロの呼び出した精霊達の踊り。


これが、アウロの魂を震わせたのだろう。


泣いているアウロをみて、メトドが済まなそうに、


「アウロ、、、私には、何も出来なかった。済まない。ターロ様、貴方が来てくださらなかったら、私はアウロの才能を潰す所でした。本物に感謝いたします」


と、二人に頭を下げた。


「そんな! メトド様! 僕が浮ついていて駄目な子だったのは間違いないのですから!」


「いや、アウロ。お前が駄目な子なんかじゃないのは分かっていたんだ。でも私には、導く力がなかった。人を”見抜く”事は出来ても、見抜いたその力をどう伸ばせば良いのかはさっぱり分からなかった」


ターロはメトドの肩に手を置いて、


「でも、メトドさん。俺には、人の才能を見抜く力はない。メトドさんに、アウロには精霊魔法の才がある、って事を聞いていたから鼻笛で精霊を見せてみたんだ。メトドさんに教えてもらっていなかったら、もしかしたら、気を引く為に派手な爆発とかを最初に見せていたかもしれない。そうしてたら、今の結果はなかったよ。何も出来なかった、なんてことは絶対にない」


コクコクと、横でアウロが力強く頷いている。


「ターロ様、、、、そう言っていただけると、助かります」


少しホッとした表情のメトド。


「ま、遅くなってきたから、帰ってお祝いに一杯やるか!」


「先生、、、呑みたいだけでしょぉ?」


「おう!」


(( この人は、ぶれないな ))


三人はそれぞれの思いを抱え、宿屋の近くの酒屋に入っていった。

私が、何も見ないで牛の絵を描くことが難しい事に気がついたのは、小学生のときでした。画力に自信があった私は、手本が無いとまともに描けない事に愕然としました。

その時、よく観察する事の大切さに気付きました。

これは、絵だけではなくて、学習にも活きたように思います。

観察することは、分析する事の一歩目だからです。


メヌエットについて


作品中に出てくるメヌエットは、今ではバッハの作品ではない、と言うことが定説になりつつありますが、今回は、バッハの作品として扱いました。

誰の作品にせよ、名曲には違いありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ