2-6 百敲
「これから後を付けようというのに、奴らに会うのですか? 顔を見られたら後を付けられなくなるのでは?」
話が終わり三人のチンピラに会いたいというターロに、カサヴェテスはそう尋ねると、
「いや、そこは色々遣り方がありまして、、、」
と、ターロがニヤリと笑った。
(そうか、彼らは巫覡だった)
カサヴェテスは畏れと同時に興味を持ち、何をするのか見てみようと、
「では、此方へ」
自らターロたちを留置牢へと案内した。
「あ! テメーは!」
「出しやがれ! クソッタレ!」
「ぶっ殺してやる!」
ターロの顔を見た瞬間、喚き散らすチンピラ達。
「やあ。元気そうじゃないか。留置場の食事は土より美味しかったかい?」
ニヤニヤしながらからかうターロ。
そして、空かさず唱える。
【マーキング】
更に、
【インペディメント トゥ レコグニション】
魔法をかけられ、キョロキョロしだす三人。
「カサヴェテスさん。終わりました」
声をかけると、ターロはさっさと踵を返す。
何が起きたか分からないカサヴェテスは、慌ててターロを追って質問した。
「今、何を?」
「彼らがどこにいても分かるように魔法で印をつけて、更に我々の事を分からなくする、というか、認識出来なくする魔法をかけました」
「ああ、だから、キョロキョロしていたんですね?」
「そうです。我々が目の前にいても、彼らには気づけないし、我々のことも忘れています」
「そんな魔法があるんですか、、、」
「今作りました」
「え?」
「え?」
このやり取りをきいて、魔法はポンポン作れるものではなく、古代人の文献を苦労して読み解くか、先人が研究に研究を重ねて考えたものをかなりの研鑽の末、身につけるものだ、という”常識”をしっかりターロに理解させなくてはいけない、と心に誓うメトドであった。
「釈放は百敲の後なので、昼少し前になるかと」
「分かりました。それを追って街をでます」
他の商会主に宛てた書状を受け取りターロたちは商会館を出た。
昼。
商会の前には人だかりが出来ていた。
チンピラ共は手足に枷を嵌められた状態で、地面に座らされている。
これから行われる百敲は、刑罰であると同時に、見せしめという犯罪抑止の側面もあった。
更に犯罪者に更生の機会を与える為のものでもある。
ただの野蛮な体罰というわけではないのだ。
公開刑の形をとることによって、叩かれ苦しむ姿を晒すことになる。
その敲かれる”痛み”と見られる”恥ずかしさ”が、再犯を思い留まらせる。
叩き手も、罪人に後遺症が残らず刑の後、歩いてこの場から立ち去れる程度に加減して敲く。
この制度は連邦設立の際、大賢者イッヒーが提案した物で、連邦内の殆どの国で採用されている。
採用されてから犯罪の発生率も再犯率も目に見えて下がっており、犯罪対策及び罪人を管理する経費も減って、国庫に余裕を作る一助となった。
「ひとーつ!」
ビシッ!!!
立会人が数え上げ、敲き手がそれに合わせて三人を打ち据える。
五十回敲いた所で一度休みを入れ、再度五十敲く。
「ひゃくー!」
ビシッ!!!
「枷を外しませ!」
立会人の指図で枷が外されるが、三人はその場に突っ伏して動くことも出来ずに呻いている。
「これに懲りて悪さはせぬ様。立ってこの場から、去ね!」
と言うと、立会人は御情の飲み薬とともに私物を投げて返す。
それを拾って三人は無言でフラフラと立ち上がった。
流石に百も敲かれると憎まれ口をたたく気力は残っていないようだ。
三人はそのまま東へと歩いていく。
野次馬も散っていった。
三人が街の外へ出て少しした頃、ターロ達も宿屋を払って旅路についた。
「さて、やつら、どこまで行きますかね?」
というターロの問いに、メトドが、
「敲かれた後です。それほど、遠くまではいけないでしょう」
「そうだね。メトドさん。このまま進むとどこへ着きますか?」
「街道は北と東へ分かれます。北は、この海の国の首都へと繋がる山越えの道で、東は半島の先端への道。その先には複数の小島があります。どちらにしても、分かれ道のところにある街で今夜は宿をとることになるでしょう。そうでなければその次の街に着く前に野宿です」
「そうなんだ。まあ、あいつ等ゆっくりしか歩けないから、俺らもゆっくり行きましょう」
次の街までは、普通なら大人の足で三時間ちょっとだが、敲かれてフラフラしているチンピラ共は四時間以上かけて歩いた。
ポーションがなければ、辿り着くことも出来なかったかもしれない。
尤も、アウロにはちょうどよいペースではあった。
奴等は街について直ぐに宿をとり、出てこない。体中の痛みで動けないのであろう。
ターロ達もまだ早いが、行き先が分からないので宿をとった。
ついでに、この街の商会に顔を出してカサヴェテスの手紙を見せ情報を集めたが、やはり、酒場荒しが増えた、位の印象しかないようだった。
チンピラ三人組も誰かと接触する様子もない。
この街に拠点があるようには思えなかった。
「ターロ様」
かなり早目の夕食をとりながら、メトドがターロに言う。
「何かははっきりと見えないのですが、奴らに、何というか、、、違和感のような物を感じるのです」
「それはメトドさんの魂力で感じているって事?」
「おそらく、、、。大賢者様の魔法に人の考えを見るものがあったと思うのですが、わざわざ尾行けたりせず、あいつらの頭の中を覗いてみてはいかがですか?」
「んんー、俺もそれ、考えたんだけれどさ、あの魔法、そんなに深い所まで見られないみたいなのよ。本人が秘密にしたい事とかは、無理っぽい」
「ああ、そうなんですね」
「それから、あいつらは、所謂トカゲの尻尾なわけじゃない? 大した情報持っていない可能性のほうが大きいのに魔法なんか使って黒幕に警戒させちゃぁつまらないでしょ?」
「なるほど。だから、尾行けるしかないと、、、」
「そう言うことです。っていっても、こんな調子だと暇だね。アウロ。まだ疲れていないでしょ? 魔法の練習する? 笛の練習でもいいけれど」
「どっちも、お願いします!」
ということになって、街の外れの誰も訪れそうにない空き地に三人で来た。




