2-5 酒場荒し2
「助かりましたー」
そう礼を言う亭主から、ターロは新しい酒を奢ってもらってニンマリしている。
「あいつら所謂、”酒場荒し”でして、暴れて無銭飲食、あわよくば小銭をせびり取る、って事をこの街道沿いで繰り返しているらしくて、、、商会からも注意喚起が回って来ていたんですよ」
どうやら、札付きだったらしい。
その三人は今さっき、通報を受けた商会の警邏部員に連行されていった。
「あのまま暴れられていたら、店の従業員にも、備品にも被害が出ていました。本当にありがとうございました」
従業員を先に挙げるこの亭主にターロは好感を持った。
「いいんですよ。このお酒を礼として受け取りましたんで、気にしないでください」
とターロ。
そして質問をする。
「それよりも、あいつ等の身元は分かっているんですか?」
「いや、街道沿いを移動しながらやっているらしくて、定住していないそうです。この国の出身ではないらしいですよ」
「仕事は?」
「定職にも就いていないと聞いています」
「でも、酒場荒しじゃぁ生活出来るほど稼げないでしょ? 何が目的なんでしょう?」
「それなんですよ。”酒場荒し”はあいつらだけじゃないんです。何組も確認されていて、何がなんだか、、、我々も気味が悪くて」
「へぇ、何組もいるのかぁ、、、。この国の治安を乱すのが目的なら合点がいくなあ」
「治安を?」
と問うメトドに、
そう、と答え、少し思案するターロは、亭主に向き直り、
「あいつ等、捕まった後どうなるんですか?」
「おそらく初犯なら、百敲で釈放。二度以上なら首都に送られて、やらかした内容に応じた罰を受けるんじゃないかと、、、」
「そうか、、、釈放されるんなら、帰れるもんな」
少し思案した後に、
「メトドさん、この件に首を突っ込もうと思うんだけれど、構わない?」
と尋ねた。
「何か、お気づきになったのですね。ええ、お好きになさってください」
許可が出たので、
「ご亭主、今日捕まえた奴らに会わせてもらえるように商会に掛け合ってもらえませんか? ちょっと考えがありまして」
「はあ、それは構いませんが、、、」
なんだかよく分からん、と、訝しげな亭主に、
「じゃ、手続きお願いしまーす」
と頼んだターロは、もう少し酒を呑んでから風呂に入って寝てしまった。
明くる日の朝、朝食をとりに下へ降りていった三人に亭主が、
「商会には話をしてあります。あいつらに会う前に詳しい話を聞きたいそうです」
と言うことだったので食事の後、早速商会へ向かった。
受付には話が通っていたので直ぐに奥へと通される。
「初めまして。この商会支部の支部長をしておりますカサヴェテスです」
「あ、これはどうもご丁寧に。ターロです。此方はメトドとアウロ。ケイルから参りました」
年長者のメトドではなく、ターロが対応していることに違和感を感じるカサヴェテスだが、彼らは樹海国ケイル出身、すなわち、射手か、巫覡なはずだ。
シャーマンの実力に年齢は関係ないという。
ならばそういうこともあろう、と自分の中で納得し話を進めた。
「宿屋の亭主の話では、”酒場荒し”に対して、お考えがあると。あの三人を捕まえたお手並みは聞きおよんでおります。お手伝いいただけるなら心強い」
「いや、考え、という程のものでもありません。あいつ等は少々の御咎めの後、釈放されると聞きまして。なら、後を付けたら黒幕が分かるのではないかと思ったまでです」
「黒幕、、、」
「はい。定職を持ってるわけでもないのに、たいした金にもならない酒場荒し。おかしくないですか? 別に大きな集団を作って街を暴力で支配下に置こう、とかでもないんですよね?」
「そうですね。その様な兆候は見られません。 、、、最近、ああいった手合が増えて、少し治安が悪くなってきたな、程度の認識だったのですが、、、。言われてみれば、おかしいですね」
「じつは我々、オルトロス陛下より依頼を受けていまして、、、」
といって、ターロは懐から手形を出してみせた。
「これは、、、王家発行の手形!」
「そうなんです。大げさなことにしたくはないのでご内密に。で、その依頼の一つが、先の内乱のような事の兆候がないか、という国内視察なんです」
「成る程、、、。で、この治安悪化は、騒動を目論むものの動きだと?」
「そうです。治安の悪化により街道の行き来が減れば、経済が停滞します。このブラキーオーンは連邦の経済の重要地点。ここを押さえれば、経済的に連邦に痛手を与えるのは簡単です」
「確かに、、、」
話が自分の思っていたよりも大事だと気付いたカサヴェテスは、顔を青くする。
「では、連邦の経済が停滞して得をするのは?」
「、、、帝国、、、」
「そうです。先の内乱は、平原の国”スケロス”で起きたそうですね?」
「、、、はい」
「船で移動すればすぐです。その時の工作員が活動拠点を此方に移した可能性は、高い」
「!」
カサヴェテスは絶句する。
「やつらは、この国が混乱しさえすればいい。何を考えているのか分からないが、ホーフエーベネ奪還にだけは来てほしくないのでしょう。なら、そんな余裕がなくなるよう連邦国内をどんな形でもいいから混乱させておきたい、そう考えているとすると色々と辻褄が合いませんか?」
ターロはひと呼吸置いて続けた。
「でも、それを逆手に取って工作活動の狙いを調べだす好機に変えるのです。で、話が元に戻ります。黒幕にたどり着くために、釈放したチンピラを付けてみようと思うのです。ああいった手合は、報酬を前渡しすると、依頼をこなさず消えてしまう。だから、後払いの報酬を受け取るために、必ず誰かしらと接触するはずです。それが黒幕本人でないにせよ、それに近い人物な筈。やってみて損はないかと」
「分かりました。では此方としては、如何いたしましょう?」
「それぞれの街の商会で見せる手紙か何かを書いて頂けると、助かります」
「分かりました。この事を書いて直ぐに速達で発送します」
「いや、送らないでください。我々が直接持って行きます」
「それは、どういう?」
「商会の中で、帝国に繋がりのあるところがあったら、困るからです」
「まさか!」
「いや、あり得ます。というより、内乱を起こさせた程の工作活動です。連邦側に内通者だとかを作らない訳がない」
「そんな、、、いや、そ、そうですね」
納得するカサヴェテスは、興味本位で疑問をぶつけてみた。
「しかし、私が、その裏切り者でないという確証はないのでは?」
「いえ、此方には、それを確かめる手段があるのですよ」
と不敵に笑うターロ。
カサヴェテスは、その横でじっと此方を見るメトドに気づいた。
その、全てを見透かす様な視線にカサヴェテスは寒気を感じる。
どんな方法なのか想像もつかないが、彼らが”出来る”と言うのだから出来るのだろう。
連邦設立に貢献した大賢者の方丈は知識の宝庫だという。
それを守る樹海のシャーマンは、この大陸で、畏怖の対象になっている。
王家にも一目置かれていて、全ての機関を飛び越えた繋がりがあることは公然の秘密だ。
目の前の三人が、王家発行手形を持っているという事もそれを裏付けている。
(さすがは、シャーマン、、、大賢者様の知識を受け継ぐ者たち、、、)
カサヴェテスには、その手段がどんな物なのかまで踏み込んで尋ねてみる勇気は、なかった。




