1-2 融合1
赤いフォルスの欠片に軌道を変えられたままどんどん中心から遠ざかってゆく。
(こりゃあ本当の等速直線運動だな。ってかこの空間は何なんだ? 純粋な宇宙空間とも違うようだし、、、)
減速する事も、加速する事もなく、周囲には惑星どころか隕石一つ漂っていない。
時折中心に向かう光の靄が見えるが、それも次第になくなってゆき辺りは暗闇に包まれた。
(む、、、不安だ。この状態が永久に続くんじゃないだろうな、、、気が狂うぞ、、、狂えるのか?)
焦り始めた頃、進む先に大きな光の塊が見え始めた。
まるで以前テレビで見た、宇宙から撮った地球の夜、のようだ。
どんどん近づくと何だか落下している様な感覚になる。
同時にその光の塊は膨大な量の光の粒で形成されている事に気付く。
その一つ一つがはっきり分かる大きさに見えてきたと思ったら、その中の一つ、青白く今にも消えそうな弱々しい光にぶつかった。
その瞬間、膨大な量の情報が流れ込んでくる。
「ぐふっ、、、がはっ、、、」
大田は肺に溜まった水を吐き出し咳き込んだ。
(なんだ、体があるぞ、、、)
何がなんだかわからないが、いつの間にか体がある。
だがこれは明らかに前の身体ではない。
やせ衰え、動かすのもままならない体だ。
ふと、頭の中で、声が響いた。
(貴方はターロさんと言うのですね、、、)
この青年を知っている。
いや、つい今しがた知った、と言うべきか。
流れ込んできた記憶の主、この体の持ち主だ。
「君は、、、ラインだね」
(そうです。こんな事ってあるんですね。もうだめだと思っていたのに、、、)
大田は混乱した頭で情報を整理しようと必死に集中した。
「ええと、、、これって、俺が君の体を乗っ取っちゃったって事?」
恐る恐る聞くと頭でまた声が響く。
(あはは、、、乗っ取りというより、融合でしょうか? まあ、僕は死にかけていたんで、もうすぐ僕の自我は消えるでしょうから、そうなれば乗っ取りと言えない事も無いでしょうけど、、、)
<ええー、人の体乗っ取っちゃったの? 駄目じゃ〜ん>
大田は焦った。
「な、なんか、、、、ごめん」
すると頭の中の声は慌てて否定する。
(いえいえ! 謝る必要なんて無いんです。貴方に来てもらえなかったら、僕はただ死んで腐ってゆくだけだったんですよ。貴方の魂がこの体に入ってくれたおかげで、一時的に精神力が二人分になって回復魔法が使えたんですから!)
「なんですと? 今何とおっしゃった?」
(え、、いや、謝る必要はないと、、、)
突然食いついてきた大田に戸惑うライン。
「その後! “魔法”って言ったでしょ!?」
(い、言いましたけれど、、、)
流れ込んできた記憶が膨大なため、細かいことを把握出来きていなかったが、大田が意識して確認すると確かにこの世界には魔法がある。
(、、、どうかしましたか?)
大田の急な興奮状態にラインは戸惑った。
「いや、君も俺の記憶を覗けるんでしょ? 俺のいた世界ではさ、魔法が無かったもんでつい興奮してしまったよ。失礼、失礼」
大田に言われて確認するライン。
確かに魔法は無い。
魔法は無いが、
(うわっ、魔法のかわりに物凄く進歩した技術があるんですね)
「ごめん、おじさん、年甲斐も無く取り乱しました」
(あははは、、、そんな事気にしないでください。でもターロさんの世界も凄いですね。魔法より凄いじゃないですか。飛行機? こんな大人数を同時に飛ばすなんて! テレビ! こんな精巧な絵が動くんですか?音も出るのですか?! 信じられない。スマホ!! 何ですか、この便利な板は!)
日頃、享受していると忘れてしまうが、科学も発達すると魔法と変わらないのかも知れない。
ひとしきり興奮したラインは、
(ああー、ターロさんの世界は素晴らしい。僕もここに普通の人として生まれたかった、、、。
そろそろ僕、保たないかも、、、。
最後に別世界の光景を見られて、よかった、、、、。
ターロさん、僕の体をお願いします、、、。
僕の、無念を、晴らして、、、
もらえると、嬉しいけれど、、、
この体で、、、ターロさんが、、、
幸せに、なってくれれば、それで、、、、
いいです、、、)
この声を最後に、フォルスに続いて、ラインも大田の中に融けて、
消えた。