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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第二章 海の国 ”ブラキーオーン”
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2-4 酒場荒し1

海の国”ブラキーオーン”は、漁師の国であり、商人の国でもある。


国主はおらず、大商人株を持った三人と漁師の頭領二人の合議によって国が運営されている。


それぞれの街には商会がおかれ、この国の商人は皆、組合に所属している。


買い取りはその商会に品物を持ち込めば適正な価格で引き取ってもらえるので、連邦中の行商人はこの国に地元の特産品を売りに来て、国元に無いものを仕入れて帰っていく。


「まっとうな商売が富を生む」


というのが、この国の信条(モットー)だ。


国全体の治安は基本的にはよいが、外部から人が沢山出入りするため、揉め事は絶えないという。


なので、それぞれの街の商会には、警邏(けいら)部が置かれている。


港町は基本、荒くれ者の海の男達が仕切っているので、彼らと敵対さえしなければ安全らしい。


町に着いた三人は、早速商会に向かい木工細工とドライドフルーツを換金した。


「おもったより、いい値が付いたな」


ホクホク顔のターロ。


「では、宿をとりましょうか」


ということになり、商会で教えてもらった風呂のある宿に草鞋を脱いだ。


その宿は、宿屋兼料理屋で一階では食事ができるようになっている。


食堂は料理と酒の味がよいとの評判で、宿泊客以外の利用もあった。


三人は通された部屋に荷物を置くと、直ぐに食堂に降りてきて夕食をとることにした。


食堂の賑わいを見て、


「いい宿にあたったようだね。何食べようか? それと、、、」


とターロは早速、品書きの酒の欄に目を通す。


しかし、名前だけではどのようなものだか分からないので、結局”料理に合うもの”を頼むことにした。


「アウロは何食いたい? 食事は旅の醍醐味! 食った事のないもの食べ尽くすんだぞ!」


と、けしかけるターロに、


「食べたことの無いものは、ちょっと、、、僕は食べ慣れた、芋の炊いたのとかがいいです」


と応じるアウロ。


それを聞いたターロは目を剥いて、


「何を言っているんだアウロくん! 君の知らない味が君を待っているのに、君は敵前逃亡する気か! 知ってする後悔より、知らずにする後悔のほうが残念なんだぞ! アウロくん! 人生は一度きりだよ! 攻めの姿勢を忘れたら、そこで負けだよ!」


と、何故か火が着くターロ。


「、、、じゃ、じゃあ、おまかせします、、、」


その剣幕に押されて、折れたアウロ。


「すみませーん! 注文いいですかー?」


とターロは給仕を呼んで色々と尋ねながら前菜や大皿料理を次々と頼み、ちゃっかりそれに合う酒も注文した。


この世界での飲酒に年齢制限はないが、概ね成長期が落ち着く十七、八歳くらいからよしとされているらしい。


その点でターロの見た目なら大丈夫だった事は、中身が四二才のオッサンにとって幸いであった。


最初に運ばれてきたのは、海老の大蒜(ガンバス)オリーブ( アル )オイル煮(アヒージョ)


「美味し〜い!」


熱いから気を付けなよ、と言われ恐る恐る食べたアウロの第一声。


「でしょ? これを食べずにいつも食べている物を食べていたらどうなってた?」


「残念!」


「ね? そうでしょ、そうでしょ?」


「はい! 人生、攻めろ! ですね!」


「そうそう!」


こんな二人を、メトドは生暖かく見守る。


「この酒も海産物に、合うな」


ウイスキーの様な強めの酒。


ピートがこの世界にもあるのだろうか?


独特の燻したようなキツめの匂いがある。


「あぁ〜、俺、これ好きだ〜ぁ」


しみじみとつぶやいて、旨そうに呑むターロをみて、女性給仕もくすくす笑っている。


「どうだい、メトドさん?」


「私はあまり酒に強くないので、、、次は果実水を貰います」


「そうかい? 残念だなー、でも、俺はおかわり貰うからね!」


「ど、どうぞ」


高らかに宣言するターロ。


料理が次々に運ばれ、ターロのおかわりも三杯目になった頃。


「おう! この店はこんなもん客に出すんか!」


ターロたちからそれほど離れていない席で怒鳴り散らしている、見るからにチンピラ風の男が三人。


床に料理をぶちまけている。


(うわ、お約束、、、)


初日にしてこれか、とベタな展開にうんざりするターロ。


アウロは里を出て初めて見る、ガラの悪いおっさんにビクビクしている。


奥から亭主らしき人が出てきて、


「お客様、何か、、、?」


「何か、じゃねーよ! こんな不味いもの食えっか!」


「うちの料理は味がよいとの評判で、、、」


「あ゛あ゛〜ッ? だったら、この皿にだけ不味いもの盛ったってのかよ! どうなってんだぁ?!」


「そ、そんな、そんな事は、いたしません!」


いちゃもんなので、どう答えても解決するはずがない。


押問答が少し続いた後、


「てめーッ、なめてんのかッ!」


とチンピラが亭主を突き飛ばす。


その先にターロがいたので、


「おっと」


亭主が吹き飛ばないよう、ターロが受け止めるが、その際、


「あああーーー!! 酒があーーーッ!!」


手に握っていたグラスの酒がかなりの量溢れた。


「おい、兄ちゃん、なに余計なことしてくれちゃってんの?」


痩せ型のターロを与しやすし、と見たのか、ニヤニヤしながら寄ってくるチンピラ。


「、、、俺の、、、酒、、、」


ターロはそのチンピラの事など、目に入っておらず、溢れた酒を見つめて呆然としている。


「おい! 聞いてんのか!」


無視されて逆上したチンピラがターロの胸ぐらに手を伸ばす。


その腕を払って、グラスに残った酒をぐいっと煽ったターロは、タン! とグラスをテーブルに置くと、


「やい、チンピラ共! 表に出やがれ!」


と、啖呵を切って、表に飛び出した。


チンピラ三人はニヤつきながら、後に続く。


「、、、メトド様、、、大丈夫でしょうか?」


と、アウロがメトドに訊く。


「どっちが?」


「も、勿論あの三人です」


確かに、とメトドは思う。


ターロの魔力量を考えると三人を殺しかねない。


普段なら自制するだろうが、酒を溢され、逆上している。


「不味いかもしれないな、、、」


といって、外に出た。


が、もう遅かった。


(趣味の悪いオブジェ?)


とメトドとアウロが思うようなおかしな光景。


三人の首だけが(・・・・)土に埋まっていた。


「タ、ターロ様、、、、、何をしたんですか?」


「む、メトドさん、アウロ、、、」


ちょっとやり過ぎた自覚があるのか、バツの悪そうな顔をしながら。


「いやさぁ、こいつら料理床にぶちまけたり、酒溢したりで食べ物を粗末にしたでしょう? だからお仕置きに、土、食わしてる」


「え?」


毎度のことながら、何を言っているのか分からない。


そこへ野次馬のヒソヒソ話が聞こえてきた。


何だったんだ、あれは?


土がぐわーと持ち上がったと思ったら、男たちの頭を飲み込んで、又もとに戻ったぞ、、、。


その言葉に、状況を理解したメトド。


(ま、魔法の無駄遣い、、、)


「ターロ様、、、チンピラとはいえ殺してはいけません。早く掘り起こしましょう」


呆れ気味に言うメトドに、


「大丈夫。死なないように空気穴を付けてあるから」


確かにチンピラたちは、死んではおらず、首を抜こうと藻掻いている。


「でも、すぐ抜けないように、カッチカチに固めておいた」


えへっ、という顔をするターロ。


「ターロ様、、、、」


(無駄に芸が細かい、、、)


野次馬の奇異のな物を見る視線に晒され頭を掻くターロと、絶句しているメトドにアウロ。


藻掻くチンピラたちの体をバタつかせる音と土の中から漏れ出てくる滑稽な唸り声が食堂前に響くのだった。

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