2-3 ドラさん
「僕、、、本当にドラゴンに乗ってる、、、」
状況を受け入れきれず夢を見ているかのような顔のアウロ。
三人は今、ドラさん(ターロ命名)に乗って移動中。
俺たちこれで”竜を駆る者”だね、と、笑ってターロがアウロに言った。
三人とその荷物を乗せてもまだ背中に余裕がある。
ゆったりと歩いているように見えるが、速度は三人が歩くよりだいぶ速い。
「ターロ様。一つお訊きしても宜しいですか?」
「なんすか?」
「このドラゴンの、、、」
「”ドラさん”ね」
透かさず訂正するターロ。
「、、、ドラさんのブレスをどうやって凌いだのでしょう? 遠目では、障壁の類を張ったようには見えませんでしたが、、、」
「ああ、あれね。干渉波ですよ。防いだんじゃなくて打ち消したんです」
「打ち消す?」
「そう。ブレスって、要は音でしょ? 音って同じ物をずらしてぶつけると消えるんですよ」
「?」
アウロは勿論、メトドも、分かっていないようだ。
「んー、何ていうんかなー。音が波なのはご存知?」
「いえ、、、」
首を振る二人。
「そうかー。ええーとね、音って空気の振動だからさ」
と言って、パンっと手を叩く。
「今、手を叩き合わせた事で空気が一気に押し出されたわけ。それがどんどん伝わって、耳に届くから音が聞こえるんでしょ?」
頷く二人。
「その押し出された空気は波の様な形で伝わっていくんですよ。で、その波と逆の形の波を作ってぶつけるとですな、相殺して消えちゃいまーす」
といいながら、両腕を波状運動の様にうねうねさせるターロ。
「そうやって、自分の前の音だけ消して、それに載った魔力も届かないようにしたんです」
前世のノイズキャンセリングをイメージしてみた魔法だ。
ドラゴンブレスの効果は、音に載せた魔力によるものだとライン王子の知識から知ったターロが即席で考えたオリジナル魔法。
実際、物理的にやろうとすると、音の採音、高速演算、再生とかなり難しい技術が必要だが、魔法の、しっかりイメージすれば具現化する、という反則的な特性を最大限に利用してみた。
「この魔法も大賢者様の魂力で?」
「いや、独自魔法ですよ。ま、前世の知識をつかってるけど」
「お師様、、、理解出来ましたか?」
「仕組みは分からなかったが、何やら凄いということだけは分かったよ」
との、アウロとメトドに、
「え〜、難しくないのにぃ〜。絵で説明したら一発なんだけどな〜」
と不服そうなターロ。
それを無視してメトドはアウロに言う。
「アウロ。これからは私の事を”師”などと呼ばないでくれ。私にその資格が無いことは、ターロ様を見ていて、嫌というほど思い知った」
「え、、、そんな、、、」
「皆と同じ様に名前で呼ぶのだ。よいな」
そんな会話をしながら、三時間位進んだ所で野営を張ることとなった。
緑色地竜は、こう見えて草食寄りの雑食だ。
夕食として、普段は食べられない高いところに生る木の実や果実を採ってもらって美味しそうに食べている。
ターロからデザートとして貰ったドライドフルーツには、この地竜もやられたようで、口に入れて少ししてから眠そうだった目が大きく見開かれた様子に、三人して笑ってしまった。
野宿で辛いのは不審番だが、ターロの警戒の結界のおかげで皆寝られるのは有り難い。
ターロはドラさんの腹を背もたれに、ぐっすり眠った。
ドラさんもターロの回復魔法と、ドライドフルーツのおかげで、満足気に寝ている。
すっかりターロに懐いてしまった。
初対面でブレスをぶっ放した片鱗は全く見られない。
次の日も一日、ドラさんは三人を乗せ進み、ターロはアウロに魔法の手ほどきをしたり、一緒に鼻笛を吹いたりした。
途中の川でターロは枯れ草を束ねてタワシを作り、ドラさんの体を、寄生虫がついたらいかんからね、と、ゴシゴシ洗ってやった。
そして、三日目の昼頃、樹海の端に到達した。
四日はかかると見ていた行程が丸二日で踏破出来た。
「ここからはもういいよ。有難う、ドラさん。だいぶ楽出来たよ」
といって、ドラさんから降りたターロは、ドラさんの脇腹をペシペシと撫でて労った。
名残惜しそうにしているドラさんに、
「森へお帰り。又会おう」
といって、
(ドラさんが、この森で幸せに生きていけるくらい強くなりますように。人族と揉め事を起こしませんように)
と念じながら、加護を与えるかのようにドラさんの額に自分の額を当ててから、ドライドフルーツを口に入れてやった。
そして、ターロは荷物を背負って歩き出す。
「キュ〜〜〜ゥ」
と鳴くドラさんに振り返らずに手を振るターロ。
「メトドさん、、、生き物は気軽に飼っちゃ駄目だね。 、、、、別れが、辛い」
といいながら、歩く足を早めた。
それを聞いて、顔を見合わせ微笑むメトドとアウロは、ターロの後に続いた。
ドラさんと別れてから少し歩くだけで、道に出た。
北から東へと続く街道の様だ。
メトドの話では、ここ、海の国”ブラキーオーン”はこの島の南に位置し、半島状に東に伸びているという。
その先にはいくつもの小島がある。
ライン王子もこの国の首都を訪れたことはあったが、連邦盟主国のケパレーから、平原の国”スケロス”・砂漠の国”オステオン”を経由する、全くの別ルートを通った。
それも護衛付きの馬車で、だ。
大田太郎としてもライン王子としても、徒歩でのこれほど長い旅は初めてだった。
「あーあ。ドラさんで楽してたから、歩くの辛いね。今日は早目に野宿しましょうよ」
と、ターロが言うと、
「大丈夫ですよ。ここから二時間ばかり歩くと、宿のある街に着きます。今日はそこで宿をとりましょう」
との、メトドの提案。
「お! やっと街があるの? 風呂は?」
食いつくターロに失笑しながら、
「ふふ、ありますよ。海の幸もあります」
「酒は!?」
「ありますよ。強い酒です」
「おお〜楽しみだな〜。 あ、、、先立つもんがない」
「大丈夫です。樹海産の木工細工は高値で売れるんです。狩りに出られない者に手内職として大賢者様が教えて下すった技術です」
と言ってメトドが背負い袋を叩いた。
中には寄せ木細工等が入っていて、旅の資金としては十分なくらいに換金できるという。
「おおーそれを聞いて安心した。あ! そうだ、俺の乾燥果物も売れますかね?」
「ああ、甘いものは高値で取引されますよ、って、売るほど作ったんですか?」
「ええ、何だか里の皆が沢山くれたんでね。ヒャッホー! メトドさん、今夜は呑み明かしましょう!」
「ははは、、、お手柔らかに、、、」
精霊樹の大精霊を具現化して見せてくれたお礼に、なにか必用な物は無いか、と尋ねたところ果物だと言うので、里の者総出で森から採ってきたらしい。
それが酒に換わるのか、、、まあ、この人らしいくていいか。
と諦観のようなものを抱くメトド。
聞く所によると、イッヒー大賢者様もかなりの自由人だったという。
さっきまでドラさんとの別れで落ち込んでいたくせに酒が呑めると分かった途端、俄然張り切りだしたターロに、やれやれ、と言った調子でメトドとアウロは付き従った。




