2-2 緑色地竜
「お、いるいる。でっかいなー。呑気に昼寝してるよ」
立ち止まったターロの視線の先には 緑色地竜 がいた。
今、三人がいるところから見下ろせる窪地に草を溜めた巣のようなものを造ってぐっすり寝入っている。
地竜なので翼は無いが、体躯は大きい。
地球のコモドオオトカゲをずんぐりさせて、何倍にもしたよう、とでも言えばよいのだろうか。
頭から尻尾の先まで、五メートル以上はありそうだ。
メトドが、念の為、
「ほ、本当にこのまま進むのですか?」
と尋ねる。
このまま行くと窪地におりてしまうが、地形的に他に進めそうな道はない。
ターロは、
「まあ、大丈夫っしょ」
と軽く応えると、荷物を降下ろし精霊樹の木刀を握って、
「じゃ、荷物みてて」
トイレにでも行くかのように窪地へと降りていった。
「ああ、、、先生!」
アウロが思わず大声をだす。
それに気付いたのか、緑色地竜が顔を擡げた。
アウロはあわてて口を手で抑えるが、勿論もう遅い。
しかしターロは気にするでもなく、
「ありゃ、起きちゃった?」
と、早足で近づいていった。
地竜が大きく息を吸い込み、
グアラララアアーーーッ!!!
咆哮を放った。
「ッド、ドラゴンブレス!!」
メトドが、焦りの声を挙げる。
ドラゴンブレス
それは魔力を乗せた咆哮。
竜族の膨大な魔力を持ってして初めて攻撃となりうる。
地球でのゲームやファンタジー小説に出てくるように、火を吐くわけではない。
構造的に火を吐く生き物など、存在しない。
空気に触れると発火する体液を噴射する魔獣はいるが、”炎”そのものを吐くことは生き物には出来ない。
しかし、ドラゴンは自分の魔法属性の篭った魔力を息に載せ、遠距離攻撃とする。
属性については、詳しく解明されてはいないが、竜種は精霊との何かしらの結び付きがありその精霊の種類によって属性が決まるという。
だから炎属性のある竜のものは、地球人のイメージ通りの火炎放射器の様なドラゴンブレスになる。
ではこの緑色地竜の属性は、というと、
”毒”だった。
ポイズンブレス
浴びるものの肉体を腐らせ、行動不能にする。
直撃すれば、即死もありうる恐ろしい咆哮。
ドラゴンの前の草木がみるみるうちに枯れていく。
このドラゴンブレスの恐ろしさはその本質が”音”であるという事だ。
音が届けばそれに載った魔力が効果を発揮する。
鎧や盾では防げない。
余り遠いと、音は届いても、魔力はそこに辿り着く前に、消費されるか散ってしまうので効果はない。
実際メトドとアウロはドラゴンので咆哮は聞こえているが毒の影響はなかった。
だが至近距離のターロはそうはいかない。
「「 !! 」」
息を呑み声の出ない二人。
しかし、既にターロは咆哮の瞬間、木刀を持っていない右の掌を前に向けて広げ、唱えていた。
【インターフィアレンス】
ドラゴンは、愚かな二本足が目の前で朽ちているであろう、と、確認するように、息を吐ききった口を閉じて前を見ると、そこにはターロが何もなかったかのように立っていた。
「! なんだ? あの魔法は! ドラゴンブレスが、、、消えた?!」
メトドが驚く。
ドラゴンもブレスの効果が現れないことに戸惑っているようで、躰を引く。
そこへ、すすす、と摺り足のような足さばきで、一気に間を詰めると、ターロは地竜の鼻先に木刀の切っ先を突きつけた。
それだけで地竜は動きを封じられてしまう。
メトドたちには、すばやく近づいて木刀を突きつけただけ、に見えたが、やられた地竜は、違った。
隙をついた接近はまるで瞬間移動の様に感じられたし、何より目の前に突きつけられた木刀の圧が凄まじい。
細いはずの切っ先がまるで破城槌のように大きく見える。
森に生きるものにとって、精霊樹には抗い難い力がある。
そこにターロの魔力が込められているのだから、地竜は、この後どの様に動こうとも必ず対処されてしまう事を強者の本能で感じ取っていた。
「さあ、どうする?」
ターロが、にやっ、と口の片側を持ち上げる。
グルグルグル、、、
ドラゴンは喉を鳴らしながら、甘えるように伏せた。
最強種である竜は好戦的だが、戦闘狂ではない。
一度負けを認めると、相手に服従する性質がある、と、ライン王子の知識により知っていたターロの”考え”とは、力を見せつけて従わせるという単純なものだった。
木刀を下ろし頭を撫でると、ドラゴンは気持ち良さそうに、喉を鳴らす音を大きくした。
「もう大丈夫みたいよー」
ターロは遠くで見守っていた二人に声をかける。
「ド、、、ドラゴンをこんなにあっさりと、、、 テイムだなんて」
二人が恐る恐る、近寄ってくる。
ドラゴンは「誰?」という感じで二人を一瞥するが、ターロの仲間、と理解したらしく、攻撃しようとはしない。
「ほら、なんとかなったでしょ?」
「、、、はい。やっぱりターロ様には、私の常識は通用しないみたいです、、、」
「も〜、俺を変人か何かみたいに言わないでよ」
その遣り取りを聞いて、ははは、と乾いた笑いを漏らすアウロ。
「なんだよ、せっかくドラゴン仲間にしたのに。もう少し喜んでくれたっていいじゃん」
と、不本意そうなターロ。
「仲間って、、、どうするんですか? この地竜、、、」
猫を拾ってきた困った子供に母親が尋ねるように、メトドがターロに問うと、
「乗せてもらうに決まってるっしょ!」
乗ってもらうに決まってるっしょ!
とばかりに、ドラゴンも二人を見る。
「「 ええー! 」」
二人の叫び声が森に響くのだった。




