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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第二章 海の国 ”ブラキーオーン”
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2-0-2 メトド2

「!」


メトドは吃驚(びっくり)して尻餅をついてしまった。


話に聞いた大賢者が目の前にいる。


森の中の小さな家に住んでいるという事は聞いていたが、会うのは初めてだった。


「ご、ごめん、驚かせちゃったね。大丈夫? とりあえず後ろの子をなんとかしようか?」


と言って、大賢者は唱えた。


【|デトキシフィケイション《解毒》】


みるみるうちに紫に腫れ上がった箇所が、元の肌色になっていき、先程まで苦しそうに冷や汗をかいて呻いていた兄は、気持ち良さそうに寝息を立てている。


「これで大丈夫だね」


兄に向けていた杖を再び地面についたイッヒーに、


「メトド」


遠慮がちに、しかし、はっきりと告げた。


「え? 、、、ああ、君の名前か。メトド君」


大賢者はメトドの目の高さに合わせるようかがむ。


「偉かったね。おじいちゃん、全部見ていたんだ」


そう。


大賢者は、森での不思議な動きを感知して様子を見に来ていた。


来てみると一人の子を追跡する子供達のグループ。


何だろうと思って興味本位で上から暫く観察していた。


その際、精神魔法で子供達の心も覗いていたので、粗方この子達の関係も把握している。


で、兄を置いて逃げた子供達を拾って里に届けてから兄のところへ戻ってきた所で、苛めにあっているのにも拘らず貴重な薬を飲ませているメトドを見つけたのだった。


褒められ頭を撫でられたメトドの目からは何故か涙が溢れた。


(こんなに人の手ってあったかかったっけ?)


亡くなった両親の温もりを思い出したメトドの涙は止まらなくなってしまった。


自分でも、こんなに泣けるんだ、と驚く程泣いた。


自分の行いを見守って、肯定して、褒めてくれる人がいる。


そんな安心と喜びとが涙を流させた。




泣き止むまで、イッヒーは優しく見守ってくれた。




ようやくメトドが落ち着いたところで、


「じゃあ、帰ろうか?」


と訊くイッヒー。


メトドが頷くと、まだ寝ている兄を担いで、メトドの手を取り、唱えた。



テレポート(瞬間移動)



一瞬視界が掠れた、と思ったら、里の広場にいた。


「ま、魔法、、、」


「ふふ、そんなに遠くへは行けないんだけれどね。まあ、便利でしょ?」


(大賢者様って、何か、、、、、、変だ)


凄い魔法を、超速い馬車、ぐらいにしか考えていないイッヒーに、メトドは人生で初めて感じる(たぐい)の困惑を覚えた。


広場では、先に帰っていた子供と、話を聞いたその親達が待っていた。


「だ、大賢者様! お手を(わずら)わせて、申し訳ございません!」


額を地面に擦り付けんばかりに謝る里の者に、


「いいんだよー。たまたま気づいただけだからさ」


と、事も無げな大賢者。


でもね、と鋭い視線を大人に向ける。


その殺気にも似た気に、皆、縮み上がった。


しかし、がらっと雰囲気を変えてイッヒーは、


「苛めはいけないよ」


ちっちっち、と戯けた様に、立てた人差し指を振った。


「は、はい! 肝に命じます!」


大人達は、それぞれの子の頭を押さえつけて平伏させる。


「まあいいや、ロエーはいる?」


イッヒーは、もうこの話は終わり、とばかりに、土下座させられている子供達には目もくれずロエーを呼んだ。


少ししてロエーがやってきた。


「大賢者様! 何やら、馬鹿共がとんだご迷惑をおかけしたようで、、、」


「いや、僕は何もしていないよ。このメトド君が偉かったんだよ」


「メトドが?」


「そうだよ。メトド君は偉いね。この年にして聖者の風格がある! なんてったって、苛めの主犯の命を救おうとしたんだよ! 出来る? そんな事。大人でもなかなか出来ないよね」


と、メトドを過剰に持ち上げて、自分が森で見た事を大声で話しだした。


広場にいる里の人々皆が、それを聞く。


意識が戻った兄も勿論聞いていた。


苛めていたグループの子供は真っ青な顔をしている。


やっと自分達のやっていた事、それに対するメトドの行動を理解したようだ。


その子等の親達も針の(むしろ)に座る心地でいた。


「まあいいや、でね、この小さな英雄メトド君の事で、話があるんだけれど、、、」


「はっ、では私の家へ」


「悪いね悪いね、お邪魔するよ」


と、メトドは何だかわからないうちにロエー宅へ連れてこられた。


「なんでしょう? メトドについての話とは、、、」


神妙な面持ちのロエーに、


「いや、そんな構えないでよ。重い話じゃないんだよ。たださ、さっき覗いたら、この子、もう魂力持ってるよ」


「ええー!」


ロエーの驚く声に、ビクッ、とするメトド。


「こらこら、そんな大声を出したら、吃驚するじゃないか。ねえ、メトド君。吃驚したよね? したよね?」


飽くまでもマイペースなイッヒーは、無理やりメトドに同意させる。


「いやいやいや、大賢者様、この子まだ五歳ですよ! いくらなんでも早すぎますよ! そ、それとも生まれつき?」


「いや、後天的なものだよ。苦労したんだね、、、」


と、急に真面目な顔になり、メトドの頭に手を載せた。


「魂力の銘は”見抜く目”だって。真実を判断したり、価値を判定したり、他人(ひと)の魂力が何か見抜けたり。メトド君の修練次第では、どんな魂力が発現する可能性があるか分かったり、未来が見えちゃったりしちゃう便利な力だね。僕の持っている”鑑定者”より高級な魂力だよ。いいなー」


「そうなんですね、、、。っていうか、大賢者様、いくつ魂力をお持ちで?」


「えー、分かんない。面倒くさいから数えたこと無いよ。まあいいや、だからさ、ちょっと魔法の手ほどきしてあげてよ。この子にさ」


「、、、はい。承知しました」


自分の事を話しているらしいが、蚊帳の外に置かれてぽかんとしているメトド。


それに気付いて、


「ああ、ごめんごめん。メトド君。君は魔法の才能があるから、鍛えてやって、ってロエーに頼んでたの」


とイッヒーはメトドの頭を撫でた。


「僕、魔法の才能あるんですか?」


「そうだよ」


「ロエー様みたいに凄い水魔法使えますか?」


「あーそれはどうだろう? ロエーの水魔法が強力なのは魂力によるものだからなあ」


「魂力って?」


「魂に刻まれた力のことさ」


「僕の魂力はどんな力があるんですか?」


「いろんな物を見分ける事が出来る力だよ」


「え、、、それだけ?」


明らかにがっかりした様子の、メトド。


「何がっかりしているんだメトド! 魂力を授からない人の方が多いんだぞ!」


と、ロエーが言うが、


「で、でも、物を見分けるだけじゃ、魔獣には勝てません! 、、、い、い、、、苛められても、じ、自分を、、、、


守れない!!!」


涙を溜めて抗議するメトド。


その剣幕にロエーは絶句した。


今更ながらに、メトドの辛さを理解して、もっと強く介入するべきだったと後悔する。


しかし、イッヒー大賢者は、メトドの肩に優く手をおいて言い聞かせた。


「そんな事はないよ、メトド君。君の”見抜く目”があれば、そもそも戦いにならない。君は魔獣の居場所、いじめっ子の居場所を見抜いて避ける事が出来る。戦ってしまえば誰かが傷つくだろ? でも君には、誰も傷つかない解決方法を見つける力がある。これは凄いことじゃないかい?」


そう諭されて、メトドは気付いた。


(そういえば、森に入って魔獣に遭ったこと無いし、最近苛めにもあってなかった、、、どの茸が食べられるのかも、見れば分かるし、、、似ている草もどれが薬草なのか、間違ったことが、、、無い)


「分かったかい?」


メトドの考えを見抜いている様に、目を覗き込む大賢者。


「は、、、はい!」


こうして、”見抜く目”を持つシャーマンが里に誕生した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一日中森を歩いて、夕方頃、丁度よく窪んだ崖を見つけたので、そこで野宿をする事にした一行。


アウロは泣き言も言わず頑張ってついてきたが、やはり子供の足には辛かったのだろう。


スープとそれでふやかしたパンを掻き込むと泥のように眠ってしまった。


「そりゃ、こうなるよね」


笑いながら回復魔法をアウロにかけるターロ。


「いやーメトドさん。あなたの魂力は凄いねー。今日一回も魔獣に遭わなかったね。結構気配はしたんだけれどなー」


急に話しかけられたメトドは、飲んでいたスープを膝におろす。


「いやーお恥ずかしい。そんな事しか出来ない魂力なんですよ」


そう謙遜するメトドに、


「そんなも何も、凄い力じゃないですか! 戦わずに済むのならそれが一番だ。誰も傷つかないならそれに越したことは無いですよ。それを可能にするあなたの魂力は凄いものでしょ!」


何言ってるんだ、という顔でそう言うターロ。


その言葉にメトドは動きを止め、じっとターロを見る。


「な、なんでしゅか?」


(かんじゃった)


メトドの様子に緊張してしまうターロ。


「いえ、、、ただ、、、今のターロ様の言葉、、、。同じ事を昔、大賢者様にも言われたのですよ」


「え? そうなの?」


「はい。ターロ様、、、。あなたが大賢者様の後継者でよかった、、、」


「ど、、、どうも?」


訳が分からん、という顔のターロを見てメトドは、破顔した。


こうして最初の旅の夜は更けていった。

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