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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第二章 海の国 ”ブラキーオーン”
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2-0-1 メトド1

 二章が始まりますが、その前にメトドの過去のエピソードを。

思ったより、長くなったので2つに分けました。


 読んで頂ければ、きっとメトドが、好きになると思います。

「メトド! どこ行ったんだ! あのクソガキ!」


メトドは孤児だった。


父親は狩りの最中、魔獣に殺された。


イッヒー大賢者の教えを受けてから魔法と弓を組み合わせた狩りの技術により狩りの死亡率は格段に減ったが、無くなったわけではない。


その中にメトドの父親も入ってしまった。


母はその父の跡を追うように、病で亡くなった。


やはり、大賢者のおかげで病気や怪我による死亡も減ってはいたが、こちらも零になってはいなかった。


メトドは結局、母方の兄夫婦に引き取られたが、その嫁が因業(いんごう)で自分の子供には我儘・贅沢をさせているくせにメトドの事はまるで自分の奴隷かのように扱った。


メトドの母の兄、自分の夫に(たしな)められても、


「死ぬほどこき使ってるわけじゃないじゃないか。飯が食えて屋根のある暮らしが出来るだけでも有り難いってもんだろ」


と、取り合わない。


この女は本家の娘で、メトドの母の家は分家筋なので、強くは出られなかった。


尤も、里の者は皆、メトドを憐れみ女を蔑んだが、女はそれに気付き心を入れ替えるような(タマ)ではない。


また、二人の息子も同様だった。


子供社会は大人社会の権力構造を反映する。


この里でもそうだった。


二人の息子は、まともな子等には嫌われて相手にされていなかったが、一部の子供からは、お追従(ついしょう)を受けていて、そのグルーブから、メトドは執拗(しつよう)に苛められていた。


メトドが女から言い付かった水くみをすれば、その水を(こぼ)され、山菜を採ってくれば全て取り上げられ、(たま)に洗いたての服を着られたと思うと泥水の中に(まろ)ばされ、、、。


その度に、女は、息子等ではなく、メトドを折檻(せっかん)した。


「ほんとに役に立たないガキだ! 水汲(みずくみ)も出来ないのか!」


「一日かかって何も採ってこないって、どういう了見だね! どうせぶらぶら遊び歩いていたんだろ! 飯は抜きだよ!」


「せっかくのお情けで洗った服、着させてやったらなんだい! おまえなんぞ、その泥だらけの服で過ごしな!」


メトドはまだ五才だったが、賢く、そして、賢いが故に、自分の心が壊れていくのに気づいていた。


そしてこれ以上自分の心が壊れておかしくなってしまわぬよう、周りの者をよく観察するようになった。


いつ話しかけると、殴られるか。


いつ頼み事をすれば、怒られないか。


誰が自分を庇ってくれるのか。


誰が見てみぬふりをするのか。


そんなふうにして小さいメトドは自分を、自分の心を守った。


あまりの酷さに、当時から水魔法の使い手として里では一目置かれていたロエーが、女に注意をするが、全く取り合わない。


「だったらあんたが引き取るってのかい!」


と逆に(わめ)かれる始末だ。


流石にこれは見過ごせないと、里での話し合いを持ったが、女は自分の主張を(かたく)なに変えない。


いっそのこと、本当に自分が引き取る、とロエーは提案するが、一度引き取った者を他人に任せるなど本家の体面が許さぬ、と、本家筋から、待ったがかかった。


そんなこんなで、人道的にメトドを扱う事を女に渋々承諾させ、話し合いは終わった。


その後、一時は虐待される事はなくなったが、やはりメトドが他の息子と同等に扱われることはなかった。


ただ、メトドにとって、自分を気にかけてくれる大人がいると分かっただけで十分だった。


それだけで生きていけると思った。


しかし、現実問題扱いがよくなった訳ではないので、育ち盛りのメトドにとって、宛行(あてが)われる食事だけでは到底足りなかった。


近場では先に採られてしまう為、里の女や子供では入ることの出来ない森の少し深い所までいかないと、食べられる木の実や山菜・薬草の類は手に入らない。


なので、危険は重々承知の上で、森に分け入っていった。


そこで採れる、少し酸っぱいが食べると元気の出る紅い実、生でも食べられる茸や、以前村の大人に教えてもらった薬草を摘んで持ち帰ったのと交換してもらうパン、そんな物で食いつないだ。


そうやって、里の外で何かをしていれば、苛めにもあわない。


女の小言も聞かずに済むので気楽だった。


持って帰った薬草等を、今は誰が一番いいものと交換してくれるのか、メトドには不思議と見抜くことが出来るようになった。


大人たちの間でも、必用な時に必用な物を持ってきてくれる不思議な子、として認知され始め、里には欠かすことの出来ない者とされた。


実際、女が酷く腹を下して苦しんでいる時に、メトドがやってきて、恐る恐る薬草を差し出し、


「これ、煎じてくる」


と言って淹れてきた薬湯(やくとう)を飲むと、快癒した。


そんな事もあって、女は以前ほどメトドを(さいな)むことはなくなった。


が、息子らは面白くない。


メトドと比べて役不立(やくたたず)だと思われているためだ。


実際そうなのだから正当な評価なのに、自分等のいたらなさを省みる事なくメトドを筋違いに恨んだ。


で、以前のように苛めてやろう、と思うがメトドはめったに里にいない。


採ってきた薬草を奪ってやろうと森の入り口で待ち構えていても、最近のメトドは、いくつもの森への道を知っており何故か悪ガキどもの待ち伏せを察知して違う道で帰ってくる。


里に入ったら、直ぐに採ってきた物を大人と交換してしまうので、奪う事も出来ずにいた。


「くそっ! こうなったら、尾行(つけ)ていって森の中で奪ってやるぞ!」


と、朝早く出たメトドの後を追った。


しかし、森には結界の魔法がかかっている。


実はこの時既に魂力が発現していて、結界内で迷う事のないメトドとは違い、悪ガキ共はあっという間にメトドを見失い、迷ってしまった。


散々彷徨(さまよ)って、もうどうにもならない、と悟り何人かが泣き始める。


「うるせー! 泣くな!」


怒った兄は、腹いせに拾った枝で側の灌木を叩いたが、それがいけなかった。


バズズズズズ!!!!


運悪く、その灌木の中には蜂の巣があり、攻撃されたと思った蜂が飛び出してきて、兄を刺した。


「いっってーッ!!!」


と絶叫したと思ったらその場に昏倒してしまう兄。


残りの子はびっくりして兄を置いて逃げ出した。


蜂は脅威が去ったと判断し巣に戻る。


この蜂はとても危険で、刺されて半日以内に適切な処置をしないと脳に後遺症が残り、最悪の場合死ぬこともある。


刺された跡が紫に腫れ上がるので、この蜂に刺されたことは直ぐに見分けがつく。


少しして、(くさむら)が分かれたと思ったら、メトドが出てきた。


騒ぎが聞こえて、気になってやってきたのだ。


メトドは倒れている息子を見つける。


腕や足が紫に腫れ上がっているのを見て、事態を把握した。


担いで里まで帰るには、メトドは小さすぎた。


いつも苛めてくる憎い相手だ。


これだけ刺されている。


放っておけば間違いなく死ぬだろう。


自分がここへ来たことは誰も知らないし、知られた所で、自分にはどうすることも出来なかったと思ってもらえるはずだ。


そんな考えが少しも頭を()ぎらなかった、といえば嘘になる。


しかしメトドのポケットの中には、先程採ったばかりの、草の根があった。


この根は、蜂の毒の解毒に(もち)いられる。


本来煎じて飲むのだが、今は水もなければ、火を沸かすことも出来ない。


だからメトドは、躊躇(ためら)いもせず石で根を磨り潰し、そうして絞った汁を兄に飲ませた。


その時後ろの叢が揺れる。


(こんな時に魔獣!!)


メトドは緊張し、振り返るが、そこに立っていたのはローブを着た老人だった。


「やあ、少年。僕はイッヒー。悪い魔法使いじゃないよ。君の名前を教えてくれるかな?」


イッヒー大賢者、その人だった。

大賢者登場!!

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