1-22 アウロの決意、そして旅立ち
(もう大丈夫かな?)
回復魔法を常に薄く発動していたので三日経った頃には肌ツヤもよくなり、素振りと型稽古のおかげか筋肉もそれなりについてきた。
里の人からすると驚異の回復力だったようで、外を歩くと、何度か二度見される。
「そろそろ、出立しましょうか」
ターロがメトドに持ちかけると、
「そうですね。お体もだいぶ良いようですし」
ということになった。
傍らでその会話を聞いていたアウロは、
「え! もうですか?!」
と、驚く。
この三日、ターロは里の子供を集めて青空教室形式で魔法の使い方や鼻笛の授業なんかをしたが、それだけでは足りないとばかりに、アウロはターロにつきまとって魔法や鼻笛で吹ける曲、楽譜の読み方等を教わりまくっていた。
何しろトイレにまでついてくるのだ。
これには困った。
「そろそろ出ないと。半年でできるだけ沢山の地を回りたいんだ。何かを知らないせいで帝国への対処を間違えたら大変だろ?」
「そ、そうですね、、、。あの、、、」
アウロは少し俯いて何かを考えていたが、キッと顔を上げると、決然と言った。
「僕も連れて行ってください!」
「おう?」
ターロは間抜けな声を出してしまってから、メトドを見る。
メトドも意外なアウロの申し出に驚いて直ぐに声が出ない。
何しろまだ十一歳の子供だ。
整備されていない方が多い道、魔獣のいる様な所での野宿、この世界での旅は常に死と隣合わせの過酷なものだ。
大人でさえ、滅多なことで旅になどでない。
”旅人”になど、何か特別な使命があるか、お尋ね者でなければなったりはしない、というのがこの世界の常識だ。
「アウロ。旅がどれだけ大変な物か分かって言っているのかい?」
メトドが聞く。
「はい!」
「死ぬかもしれないのだよ?」
「はい!」
「毎日食べ物があるとは限らないのだよ?」
「はい!」
「服だって何日も同じ物を着なきゃいけない事もあるのだよ?」
「はい!」
「寝ている所を魔獣が襲ってくるかもしれないのだよ?」
「はい!」
(か、過酷、、、)
アウロとメトドのやり取りを聞いているうちに、アウロでなく、自分が旅に耐えられるかだんだん心配になってきたターロ。
(そうっだった、ここはそういう世界だった。ぶらり旅情満喫、とかじゃ無いんだった、、、大丈夫かしら?俺、、、)
一方、アウロの決意は揺るがないようだ。
「どうしましょう?」
メトドに訊かれ、ターロは、
「保護者は、確か、、、」
「トクソです」
ターロと里の者が森で初めて遭った時のリーダー格の青年が、アウロの年の離れた兄、トクソだった。
両親は既に亡くなっている。
「お兄さんは知っているの?」
「はい!」
「なんて言っていた?」
「行って来いって」
「え?」
反対されているとばかり思っていたターロは聞き返してしまう。
「ターロ様と一緒なら大丈夫だろう、って。それに俺には魔法は分からんから、大賢者様の後継者に習えるならそれがいい、って」
ターロがイッヒー大賢者の後継である事は里中に周知され、精霊樹の一件で皆、それを認めるところとなった。
「ま、まじっすか、、、」
どうする、と顔を見合わせる、ターロとメトド。
「とりあえず、困ったときの年の功ですな」
ロエー長老に判断を丸投げすることにして、三人はロエー宅へ向かった。
「連れて行ってやってくだされ」
ロエーは、まさかの賛成のだった。
「本当に、いいのですか? 命の保証はありませんが、、、」
「実は、このトクソにも相談されていましてな。大賢者様の後継者に魔法を習えるなんて事はこの先無かろうから、この機会を逃したくない、と、言っとりました。兄弟でよくよく考えた上での結論じゃで、尊重してやりましょう」
アウロの兄、トクソも同席していて、深々とターロに頭を下げる。
「ターロ様。どうか、どうか、弟をお願いします。里の大人が扱いに困っていた弟が、ターロ様に教わるようになってから、落ち着きが出て、魔法を次々と使えるようになった。本人も楽しそうです。このままお側に置いてやってください」
その様子をみて、ターロも腹を括った。
「トクソさん。頭を上げてください。分かりました。責任を持って面倒を見ます」
こうして、アウロも旅の仲間となった。
その日のうちにアウロも支度を整え、翌日の早朝、出立となる。
明るいうちに距離を稼ぐ為だ。
「色々とお世話になりました」
出立しようとするターロにロエーが、
「此方こそ。子供達が起きた時、ターロ様がいないことを知ったら残念がりますじゃろうが、、、、計算王決定戦は続けていきます」
(そんなタイトルで落ち着いたのね、、、)
もう少しちゃんと考えて名前をつければよかった、と少し思ったターロ。
「それと、これをお持ちくだされ」
と言って渡された包を開けると、
「これは、、、鼻笛」
「そうです。里の者は皆持っておりますのじゃ。恐れながら、我ら一同、ターロ様を里の一員と思っておりますで、宜しければ受け取ってくだされ」
「、、、有難うございます。大切にしますよ」
ターロは、またこの里に来よう、と思いながら、鼻笛を大切に懐にしまった。
ターロ・メトド・アウロはそれぞれ、子供達を起こさぬよう家を抜けてきた大人たちと一頻り別れの言葉をかわして、
「では、行ってまいります」
森へと足を踏み入れたのだった。
これで第一章が終わります。
ここまでは世界観の説明が多くて、あまり話が動きませんでしたが、2章からはもう少しスピード感をもって展開できるかと、、、、。




