1-19 ”第一回 誰が計算王だ!”
「精霊樹の大精霊が顕現するお姿、、、初めて見たのじゃ、、、」
とロエー。
「もう私はターロ様に関して驚くのはやめにしました、、、」
と半ば呆れ顔のメトド。
「メトドさん。そんな扱いはやめてください」
ターロは困り笑いするしか無い。
「せんせーすごい!」
アウロが興奮している。
周りの子達の尊敬の眼差しが痛い。
(おじさん、前世の貯金があってズルしてるんです。そんなに褒めてもらうような事じゃないんです)
「お、おう、、、あーそうだ! みんな! 計算! 加法十六段どうなった?!」
強引に話題を変えてみた。
「速くなったよ!」
「おれのが速いよ!」
「お前、間違い多いじゃん!」
ゲラゲラゲラ
てんでんに主張し始めて収拾がつかない。
「わーかった、分かった。では、これから ”第一回 誰が計算王だ!” を始めまーす。はい拍手ー!」
わー、パチパチパチ!!
唐突に始まった計算大会。
大人も面白そうに見ている。
「ここにいる子達だけでいいの? 呼んでくる?」
そうターロが尋ねると、
「先生、大丈夫です!」
アウロが返してもらった鼻笛を大きく吹き鳴らした。
”子供は集まれ” という意味があるそうだ。
それを聞いて里の色々な所から子供が集まってくる。
昼飯前だったので皆、里にいたようだ。
「よし、参加者は十六段の横線を書いてね」
小さすぎる子と、初等学習の終わった子は参加しない。
それでもかなりの人数だ。
「みんな場所はある? そこ! 喧嘩しないで。はい! じゃあ、今から俺が2つの数字を言うから。それを聞いたら、1段目、2段目に書き入れてそのまま計算を進めてください。終わった人は手を挙げること」
みんな理解しているか、確認するためにぐるっと見回したターロ。
どの子もターロが数字を言うのを待ち構えている。
(おお、さすが狩猟民族。集中力が違うな)
感心しながら、2つの数字を言う。
「行くよ。2と5!」
一斉に地面に計算を始めた。
「はい!」「はい!」
あちこちで手が挙がり始める。
その順番を確認していくターロ。
全員の手が挙がった後に、
「じゃあ、最後の数字は?」
「「「「「 4!!! 」」」」」
ほとんどの声が揃う。
若干違うものも混じっていて笑い声が起きる。
「はーい、間違った人は見直してねー。で、一番は、、、アウロ!」
おお〜っ!!
意外な結末に皆が唸った。
あの勉強嫌いのアウロが、、、。
不正などは出来ない。
計算結果は残っているし、周りで大人たちが見ていた。
「はーい、第一回計算王はアウロ君でしたー。皆さん精進を続けて次こそは計算王になってねー。毎月この日の朝に大会を開いてみたら?」
やろう! そうしよう! との声が挙がる。
村長をみると大きくうなずいているので、この里の恒例行事になるだろう。
思ったより上位に食い込んで、喜ぶ者。
そうではなくて悔しがる者。
様々に散っていった。
「アウロ」
ターロが呼び止める。
「一位になるなんて凄いじゃん」
「僕も驚いています」
といいながらも嬉しそうなアウロ。
「いっぱい練習したのかい?」
「はい。皮剥けました」
と言って手を見せる。
中指の横の豆が潰れていた。
「うわっ、頑張ったんだねぇ〜」
等と話しながらメトドとローエの所まで来た。
「おおー、アウロや! おめでとう!」
長老とメトドがアウロを褒めた。
「有難うございます」
照れながらもお礼を云うアウロ。
そんなアウロの頭にターロが手をやって、
「長老、メトドさん。ちょっと宜しいですか? アウロ君なんですが、、、」
「どうしました?」
「魔法を使えるか試してみるので、立ち会ってください」
「!」
驚くアウロ。
今までの顔が一転して急にシュンとしてしまう。
「先生、、、僕、魔法使えないんです。皆がすぐに出来る”ライト”ですら使えない、、、」
そう言うアウロにターロは、ニコリとして、
「まあ、騙されたと思ってさ」
「、、、はい」
心配そうに見るメトド。
しかし口は出さない。
「じゃあ、そのライトを使ってみる?」
「はい」
人差し指を立ててアウロは呪文を唱える。
【ライト】
人差し指からパッと閃光が放たれた。
「ラ、ライトの光量じゃないぞ!」
ロエーが腕で、目を塞ぐ。
「確かに、これじゃフラッシュです!」
メトドも驚きの声を挙げる。
「もういいよ」
ターロが声をかけると光は消えていった。
アウロは自分の指を、信じられない、といった顔で見つめている。
「出来たでしょ?」
ニコリとしながら、ターロが頭を撫でた。
「、、、はい、、、でも、どうして?」
「集中の仕方が身についたからだよ」
「そんな! 僕、今までだって魔法使う時集中してたのに!」
「そうだね。集中するにはしてたけれど、集中すべき点がずれてたのかもよ?」
「え? 、、、それって、どういう?」
「例えばさ、ライト使う時、『光れ』って念じる事ばっかりに集中してなかった?」
「、、、してたかも、、、」
「今は?」
「、、、あんまりそういう事はなかった」
「じゃあ、どうしていた?」
「光る指が見えてた」
「ね。 多分今までは気合が入りすぎてて空回りしていたんだよ。それで、上手くいかないと次から次へといろんな雑念が湧いてきて、、、光って何だろう? とか、光の精霊っているのかな? とか、さ」
「そ、そうかも、、、」
「でしょ? で、雑念が湧いてきちゃうと集中が散って、もう何やっても魔法なんて発動しなかったんだ」
「そうだったのか、、、」
メトド達も得心する。
「でも、十六段計算やっているうちに、力まずに一つのことに集中できるようになったんじゃないかな? 一回コツを掴めば大丈夫。今度は他のこと考えちゃっても、魔法は発動するんじゃない?」
ターロはこの事を、確証があって言っているわけではない。
そう言う事で、アウロに暗示をかけ、いつでも魔法が使えるようにする事と、一つの魔法を使いながら他のことを考えても大丈夫だと信じ込ませ、二重詠唱への下地を作る事を目的としている。
根拠がなくても自信を持って言い切るのは、指導に必要なことだ。
その態度が聞く側に安心を与える。
ただし、洗脳になってしまってはいけないので教育者は、常に自分の考えが全てではない、と自覚し生徒にもその様に言い聞かせることが必要だ。
「アウロ。魔法の勉強してみようか?」
「は、はい」
少年の目には、希望の光が灯った。




