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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第一章 異世界渡り〜樹海の国”ケイル”
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1-1 死出の旅路

大田は再び意識を取り戻すが、直ぐに違和感を覚えた。


(お、目が覚めたって事は生きて、、、ないよね〜。浮いてるし。体下にあるし、、、)


下には自分に縋り付いて泣いている少女が見える。


周りに人が集まって来て、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえている。


(あー、本当に幽体離脱ってするのね。うわっ、どんどん離れていく、、、。戻れない、つうか、どこに向かってるんだ?)


意識を上に向けた瞬間に、世界がガラッと変わった。


周りは真っ暗な空間。


今まであった景色は全て消え去っている。


(なんだありゃ?)


進んでいく先に大きな光の塊がある。


よく見ると、その塊めがけて光の靄が集まっていく。


大田がふと自分を見ると、自分も光の塊になっていた。


(おおー、霊体になったのか。なんか軽くていい気持ちだな)


心地よさで意識が遠のいてゆくと同時に、大田であるはずの光の塊も広がって薄まってゆく。


(っ! いかんいかん。ここで気持ちよさに身を任せてぼ〜っとすると、自我が保てなくなるって仕組みだな、、、)


もう一度集中すると、薄まっていた光が、再び集まり強く光りだす。


(うん、やっぱりそうか。これが”死”なんだな。危ない危ない。って、ここで自然の摂理に従って消滅しとかないとまずいのかな? 、、、まあいいや。もう少し大田太郎でいるとするか)


周りをよく見ると無数にある光の塊が、どんどん霧散していく。


(ほー、こうやって魂はまた自我のない純粋なエネルギーに戻って、混ざり合って、分配されて、新しい肉体に宿るんだな)


大田が生命の神秘に浸っていると横から、大きくドス赤く光る塊が近づいてきた。


(おっ、色付きだ)


他の塊は白いのに、あれだけ赤いのは何でだろう? と観察していると、いきなり弾けた。


(うわっ)


飛び散った破片の一つがこっちへ向かって飛んでくる。


かなりの速度だし、そもそも自分を動かせないので避けることもできずぶつかってしまった。


(うへーーっ!)


痛い。


とても痛い。


霊体なのに何故痛みを感じるのか分からないが、事実痛いのだからどう仕様もない。


ぶつかった衝撃で、軌道が変わり、その勢いのままどんどん流れから遠ざかっていく。


ぶつかってきた破片は大田の塊の中で暴れるように鼓動して、欠片の記憶が流れ込んできた。


それはどこにでもある、しかし悲惨な最期だった。


欠片の生前の名は、フォルスといった。


狼の様な生き物で群れを率いていた。


地球とは違うが、似たような星。


自然が豊かで獲物も豊富。


食物連鎖の頂点にいた彼らは、腹が減ったら狩りをして、それ以外はふかふかの芝で昼寝をしたり、澄んだ川で水浴びをしたりと気儘に暮らしていた。


そこへ見たことのない二本足がやって来た。


奴らの使う、見えない何かを飛ばす不思議な武器によって次々と群れの仲間が殺されてゆく。


その武器のせいで、自慢の牙が届く距離に近づけない。


とうとう自分も後ろ足と脇腹に致命傷を負ってしまった。


小狼たちは首根っこを掴まれ持ち上げられると、どんどんかごの中へ放り込まれていく。


クソッ、儂が何とかせねば、仔等が、、、と、立ち上がろうとすると、眉間に例の武器の一撃を食らってしまった。


あの仔らはどうなったのであろう、それが気になって霧散できない。


それに仲間を一方的に殺したアイツらを許せない!!


感情が高まったその時に、赤い霊体は弾け飛び、その欠片(かけら)の一つが大田にぶつかったのだった。


フォルスの記憶が大田に流れ込むのと同様に大田の死に際の記憶もフォルスに流れ込んだ。


(お主は仔を守れたのだな、、、。羨ましい)


大田の最期を知った赤い欠片が話しかけてくる。


守ろうとして散ったもの同士、共感する部分があったのだろう。


(さぞ無念だったろうな、、、。俺は幸いにしてあの子を守ることはできたが、残されたあの子の心の傷を考えると、自己満足でしかなかったんじゃないか、と思ったりもするんだよ、、、)


大田が寂しげに答える。


死んで霊体になってしまったことは諦めがついているが、残された生徒の気持ちを考えるともう少しやりようがあったのではないか、と、慚愧の念もある。


(そうか、、、守れたお主を羨ましいと思ったが、、、それだけでは足りぬのか、、、。仔等を守りきり更に自らも生き残る力がなかった己が悪かったのだな、、、)


(それは違う! 悪いのは理不尽な暴力を振り回す奴らだ。生きるために食うのは自然の摂理で仕方ないじゃん。犠牲に感謝し恥ずかしくない生き方をすればいい。でも、快楽や贅沢のために不必要に殺すなんて、力があっても許される事じゃないでしょ?)


(、、、そのような考え方をしたことはなかった、、、。成る程、色々と得心がいった。だが、もう意識を保つことができない。儂の霊体の一部はお主の霊体に混ざって取り込まれていくようだな。タロウと言ったか? お主の様な者の中で消えるのなら、本望だ。最期の最期にお主と話せて良かった、、、)


こうして欠片の自我は完全に大田に取り込まれ、消えてしまったのだった。

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