7-18 展開魔法陣
「みんな、できるだけ距離をとるんだ」
皆に呼びかけ、ぶよぶよとしだしたゾンビドラゴンとは反対の方向に走り出すメトド。
「メトドさん、あれをなんとかしなくていいのか?」
というカルテリコスに、
「もう我々にはどうにも出来ないだろう。あとはターロ様がなんとかしてくださるのを信じるしかない」
「そ、そうか、、、なら私はターロの様子を見てくる」
「分かった。だが迂回していくのだぞ」
「ああ」
応えて飛び立ったカルテリコスが、
「メトドさん! あれ!」
直ぐに空から声をかけてきた。
皆が振り向くと、ケパレー軍の方から強烈な光が放たれているのが見えた。
その頃、ケパレー軍の前ではターロが、当に魔法陣を展開していた。
ターロが、"いっきますよー"と声をかけると同時に、右腕の先に広げた炎の魔法陣が激しく光りだす。
それが厚みをましたかと思うと、その前に張り出した部分が、
ブォーン
という音と共に、左にずれて二面になり、また、
ブォーン
と音をさせて右にもずれ、三面になった。
横に並んだ三面の魔法陣。
その直径三メートルほどの三面の魔法陣の中心と円周から線が伸び、それぞれが繋がると更に光量が増す。
ケパレー軍の兵は皆、その眩しい光を何が起きるのか、と身動ぎもせず、見守る。
「な、何ですか、この魔法陣は?」
見たこともない魔法陣に、メタメレイアは驚嘆の声を上げた。
「ふふ、メタメレイア先生、解析したって無駄ですよ。これは今のところ、この手を持った俺にしか使えません」
メタメレイアに笑ってそう言うと、ターロは文章詠唱した。
【カム オーバー ヒアー スルー ディス ゲイト アイゥ゛オープンドゥ】
バフウウウッ!!!
横並び三面の魔法陣から烈火が吹き出す。
右手首を左手で掴み両足を踏ん張って更に後ろからエウローに支えてもらっても尚、姿勢を保持するのが難しい。
抉られた太腿が悲鳴をあげるかのように、がくがく震える。
加えて、大量の魔力が吸い上げられるようにどんどん消費されてゆく。
魔嚢の中のものは程なく空になり、血液中の物も吸い取られ、更に細胞一つ一つの中からも残らず持っていかれる感覚。
(ああぁ〜、干からびるぅ〜)
もう駄目かと思ったその時、
「ケエェェェーーーーーーンッ!!」
猛火の塊が魔法陣から飛び出し、大空にその声を響き渡らせた。
「不死鳥!!」
メタメレイアは、よろけるターロに魔力を流し込みながら驚きの声を上げる。
「おおー! 何と美しい、、、」
オルトロスやエウロー、いや、ケパレー軍全員がその霊獣の姿に魅入った。
そのフェニックスは、一直線にゾンビドラゴンへと飛んでゆく。
ゾンビドラゴンは何かを感じたのか、逃れようと少し上へ浮くが間に合わず、そこで不死鳥に捕まった。
管で吸収しようにも、不死鳥は半分精霊で物質的な実体がない為、再生に使えるものは何も吸い取ることができない。
むしろ吸い取ることで自ら体内に炎を取り込むことになってしまった。
相手は意思をもった"炎"、そのものなのだ。
外からは炎の羽で包み込まれ、吸い取った炎は体中で暴れ、どう藻掻いても逃れられる場所はない。
街道へと炎に抱かれた炭の塊が落ちてくる。
煙も出ないほどに燃やし尽くされて、終にゾンビドラゴンは消滅した。
全てを燃やし尽くした炎がまた凰の形をとり、大空へと羽ばたく。
メタメレイアに魔力を分けてもらって、なんとか復活したターロ。
空を見上げながら心の中で、
(スザクさん、助かったよ。ごめん、帰りの分の魔力が無い)
と呟くと、直ぐに念話が返ってきた。
《ふふふ、そんな事、気にしないでください。たまには砂漠の外を飛ぶのも良いものです》
その言葉に微笑んだターロは、そこで意識を失った。
それを感じ取ったスザクは、
「ケエェェェーーーーーーンッ!!」
と、高らかに鳴いて、大きく一度旋回するとそのままオステオンの方へと飛び去っていった。
呆然とそれを見送るケパレー軍。
目の前でむにゃむにゃと何かを食べている夢でも見ているかのように眠る、若き大賢者。
彼は神話の中に出てくる神獣を召喚し、悪夢のような化け物を退治した。
その事が現実離れしすぎていて理解できない。
真っ白になった頭の中にジワジワと色が付き、理解が追いついてくる。
そこへオルトロスの声が響いた。
「皆のもの! 我々は、神話の一項に立ち会ったのだぞ! この幸運を誇れ! そして今こそあげよ、勝鬨を!!」
「「「 オオオオオオオーッ!!! 」」」
大地が揺れるほどの声の波が、久しく人族のいなかったホーフエーべネに響き渡った。