7-14 その手があった!
「合図は守ってくれよっ! なんでこっちに来るの!?」
何故か進行を止めないどころかますます速度を上げるケパレー軍。
わけがわからずターロが焦っているところにカルテリコスが近づいてきた。
「ターロ!」
叫んでいるのでテレパシーを繋ぐと、
《あれの背中の上の方、首の付け根の顔だけ、額に宝玉のようなものが見える。何だと思う?》
と、訊いてきた。
額に宝玉。
《そうか! その顔は最初に一体化した天使だ。宝玉は奴らに前もって施されていた処置を発動させる為のものなんだろうよ》
《という事は?》
《可能性としては二つ。宝玉は唯の鍵でもう何の意味もない飾り。もう一つは、仕掛けを制御する役割がまだある》
《そうか。なら何かあるんじゃないか? 狙っても、あの顔の守りだけ異様に厚くて矢を当てられないんだ》
《だったらまだ役割がある可能性が高いね。そうなるとまた、考えられることがまた二つある。あの宝玉が制御の要なら破壊すれば、ゾンビドラゴンの形を保っている仕組みが駄目になって、崩れていくかもしれない。あの宝玉は試しに壊してみるべきだ》
《そうしたいところだが、さっきも言った通り守りが厚い。管もそうだが、本体の首がとにかく邪魔でな。あの首、何とかならないか?》
無茶を言うカルテリコス。
《おいおい、それが出来てりゃ苦労しないっしょ》
《そ、そうか、、、では、もう一つの考えられることは?》
《もう一つはどうなるか分からない、って言うのが正直なところ。制御が失われるんだから暴走するとかさ。でもまあ、今の状態も制御できているって言うのには無理があるしなぁ。どっちにしろ駄目なときは何とか消滅させる方法を考えるしかない》
《そ、そんな方法、、、あるのか?》
《分からないから、宝玉を壊すので何とかなってほしいんだよね。とにかく今すぐなんとかしないと。見て。もうケパレー軍が見えてて、しかも何でか分からないけれど、撤退の合図を無視して突っ込んでくるんだよ》
《、、、本当だ、、、オルトロス陛下、、、勇猛だな》
ずれたカルテリコスの感想。
《ああいうのは勇猛って言わないの! あーもー! とりあえず向こうに行って撤退するように言ってくる。あの首も何とかするから、それまで近づきすぎて取り込まれないようにね!》
ここでテレパシーを切ったターロ。
(この距離なら、届くかな?)
転移はあまり距離があると魔力を消費しすぎるが、遠くとも見えてはいるし大丈夫だろう、と判断して、
【テレポート】
ケパレー軍の真ん前に移動。
案の定オルトロスが先頭にいる。
「陛下! 二発の合図は撤退って言ったじゃないっすか! 全軍停止!! 止まって止まってー!」
「ターロ! 無事だったか。大きな爆発の後に信号が上がったのでな。心配したぞ」
ターロの抗議は無視して、その無事を喜ぶオルトロス。
馬上で片手を上げて全軍停止を指示する。
「あー、もー! 真面目にあれは、やばいんですって!」
と、ターロはこちらに飛んでくるゾンビドラゴンを指して言った。
「あれは何だ? あのようなデカブツ、軍隊で矢と攻撃魔法を一斉に射掛ければ簡単に仕留められるだろう?」
と呑気な感想をもらすオルトロスに、ターロは、
「そんな簡単ならとっくに何とかなってますよ! あれはぁ〜、、、」
ゾンビドラゴンの事を説明した。
「生き物を取り込むのか、、、不死身ではないか」
「まあ、もう死んでますからね。確かに二度と死ねませんよね」
「そのような冗談を言っている場合か」
やっと事態の深刻さを理解したオルトロス。
「だから早く撤退してくださいよ。これだけの人数が取り込まれたら、あいつ本当に無敵になっちゃいます」
と言うターロに、よいことを思い出したという顔でオルトロスが、
「隕石を落とせばよいではないか」
と言った。
「あんな動いているものに当てられませんよ!」
「では、我らを囮にして、食わせればよい。吸収している間は動かずにいるだろう」
とんでもない事をさらっと言うオルトロス。
「な、何、馬鹿なこと言ってるんですか! 皆を犠牲にするくらいなら、俺一人で呑み込まれて中から爆発でも何でもしてやりますよ! って、、、、そうか!」
何かを思い付いたターロが、
「陛下! ありがとうございます。その手があった! 皆さんは早く逃げて!」
と言って詠唱。
【ハイドロ メンブレイン】
【テレポート】
「ま、待て、ターロ!!」
オルトロスが止める間もなくターロは目の前から消えた。
雄叫びが聞こえたのでそちらに目をやると、ゾンビドラゴンの鼻先に小さな点のようにターロが浮いている。
「ああッ、ターロ! まさか!」
オルトロスは自分の発言のせいでターロが自爆攻撃をする事にしたのかと肝を冷やす。
話を聞いていた、ケパレー軍からも、
「大賢者様!」
と叫び声が上がるが、
パク
ターロは、ゾンビドラゴンに丸呑みにされてしまった。