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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第七章 ホーフエーベネ奪還
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7-9 解いた結果

「な、、、」


珍しく天使達が声を失った。


そこには、焼け爛れ、所々鱗が捲れあがり、食い千切られて肉の(えぐ)れた、黒く大きな塊があった。


それ(・・)は、子供たちの助けを待つ母竜ではなく、その"亡骸"だった。


プロクスとの闘いが如何に激しく、そして一方的なものだったのか、容易に想像がつく。


「な、、、何故?」


空から降りてきた天使達は、無防備に亡骸の周りに集まる。


「封印の中で死んだんだろうよ」


ターロが静かに天使たちに言った。


エーデルも母竜へ何歩か近寄って、


「既に、死んで、、、こんな、、、こんな()を三百年も守って、、、」


崩れ落ちて、こう叫んだ。


「こんな物の為に、あの人(ラウシュ)は殺されたっていうの?!」


天使達は誰も応えない。


エーデルを守る為に近くにいたアプセウデースは、どうしていいか分からずにただ、オロオロしていた。


ターロ達はこの結果を推測していた。


闇の封印は、時間の流れを遅くして対象を閉じ込めるもの。


エーデルの話からすると完全に時間を止めるわけではないらしい。


闇竜は治癒魔法を使うことが出来なかったと言う。


なので封印後、その中で怪我の治癒がされる事もないはずだ。


封印を自らに施した時、闇竜は瀕死だったという。


瀕死だったのなら、その後一日とは保たなかっただろう。


如何に封印空間の中の時間が引き伸ばされていようと、三百年もの時は、一日の十万倍だ。


封印が時を止めるものでないのならば、封印の中で事切れていてもおかしくはない。


というのがターロ達の予測だったが、その通りとなっていた。


「お主、、、封印を解く前から分かっていたのか?」


四枚羽の天使がターロの方を向き尋ねた。


「予測はしていたさ。だからお前らが襲ってくるって分かっていても封印を解いたんじゃねえか。 お前らは、、、」


表情無くターロは続ける。


「こんな物の為に、何千もの人を殺したんだぜ。 この落とし前を、お前ら、どうつけるつもりなんだよ?」


その静かな口調とは裏腹に、ターロから殺気が漏れる。


この場の誰も、この様なターロは見たことがない。


味方であるはずのメトド達でさえ本能的な恐怖を感じた。


「自分らの目的の為なら、人族が何人死んでもて構わねえってか? お前らにとっちゃ人なんざぁ、実験材料でしかねえんだもんな」


地獄丸を抜いてはいない。


右手も炎に変えてはいない。


構えてすらいない。


しかしその目に射竦められて、天使たちは身動きが取れなかった。


皆、その場の温度が下がっていくように感じたが、下がったのは気温ではなく自分の体温。


防御反応でそうなっていることに誰も気付かない。


「まさか強者は弱者に何をしても許される、とでも思ってるんじゃねえだろうな? もしそうなら、俺はお前らに何をしてもいい、って事になるよな、俺は、」


ドッガッ!


「お前らより強えからな!」


無詠唱の気配隠蔽、肉体強化、瞬間移動の三重がけ。


何の反応も出来ぬまま、腹に強烈な左拳の一撃を喰らって、堪らず蹲る四枚羽。


「って、そんなわけあるかーぃ!!」


とターロは蹲る天使のその顎を蹴り上げた。


「強者だけが好きに振る舞う殺伐とした世の中なんざぁ!」


ドガ!


また別の天使が殴り飛ばされた。


「まっぴらゴメンだ!!」


ボガ!


「こんな風に、」


ドゴ!


「殴り飛ばされて!」


バゴ!


「お前ら、楽しいかッ?!」


叫んでは、転移、殴打を繰り返すターロ。


目の前で仲間がどんどん殴り倒され、我に返り、次は自分の番かと、両腕を硬化させ腹と顔を守る天使。


ダウ!


しかしその天使に炸裂したのは後頭部への回し蹴りだった。


メトドの未来視も連動している今、天使たちはターロの敵ではない。


残りの天使たちは敵わぬ、と空へ逃げようとするが、ターロはその中の一体の首を抱え落として、膝蹴り。


あっという間に何体もの天使が地面に伸びて動けなくなっていた。


「ばっかじゃねえの。もっと生きる楽しみってもんがあんだろが」


と言うターロの殺気はもう消えている。


「な、、、なんだ、その強さは?」


唖然とする天使達。


「人族はな、向上心と好奇心があればどんどん成長すんだよ」


メトドとの連携(リンク)を解きながらターロはそう言い捨てた。


「僕もそう思いますよ」


不意に斜め後ろ上空から声がかかる。


「ガ、ガブリエル」


一人の天使が、驚いたようにそのものの名を呼んだ。


そこには初めて見る六枚羽の天使が浮かんでいた。

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