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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第七章 ホーフエーベネ奪還
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7-4 草木深し

「勝算はありませんが四枚羽までなら、今の我々で何とかなると思います。問題は六枚の羽を持つという"名持ち"が出てきたときですね」


確かにエーデルから聞いた名を持つ十二体の天使は、未だに一体もターロ達の前に姿を表していない。


「その力の底が分からない。魔力量だけならエーデルより多いということはないと思うんですよ」


天使たちの基本能力は、最初の卵であるエーデルよりは劣化している筈だ。


「しかしですね、魔法陣を転写出来る光輪と、腕を硬化させての羽を使うあの立体的な体術は厄介です。四枚羽であの強さです。六枚になるとどのくらいなのか見当も付きません。そう言う意味で勝算などない、と言ったのです」


希望のないターロの言葉。


オルトロスが珍しく弱気になり、


「そうか、、、ここまで来ておいてなんだが、この遠征は無謀だったか?」


というが、ターロはこう応えた。


「でもなんとかしてやらないと、、、。 母竜が復活し、また卵を沢山産んで、それが短命であることを克服する、というのが最悪の筋書き(シナリオ)です。そうなれば連邦中がここ、旧ホーフエーべネ領の様になってしまう。いえ、聖教国も、用済みになった帝国も、全ての人族は根絶やしにされてしまうでしょう。それが闇竜の望みなのですから」


その言葉に聞いている貴族たちも青褪めた。


確かにそうだ。


それは困る。


苦労して手に入れた領地も地位も利権も財産も全てなくなるのだ。


ケパレーでの会議で遠征に反対していた者達も、この人の気配のない旧ホーフエーべネを目の当たりにしてやっと理解ができた。


ここは亡国。


何もしないでいると、自分の領地もこうなる、と。


「そうか。やるしかないのだな」


オルトロスも腹を括った。


空を飛んでいたカルテリコスに訊いても、どこにも敵の姿は見えないという。


ならばともかく移動しよう、という事になった。


投降した帝国軍の兵は、詰め所に閉じ込めて、封印魔法で出られないようにし、少しの見張りを残しておく。


彼らも天使に殺されかけた事を理解しており大人しく従っていた。


夕方まで進軍し目的の地へたどり着いて、その光景に皆が目を疑った。


ここはホーフエーべネの中では首都に次ぐ規模の街だったはずだ。


ケパレーとホーフエーべネを繋ぐ街道の街として栄えた。


ケパレー軍の中にも、ここで宿をとったことのある者も沢山いる。


そういった、この街を一度でも見たことのある者は尚更、眼前に広がる有様を信じることは出来なかった。


何も、ない。


一面の瓦礫に草が生えるだけの平地が広がっている。


人が嘗て生活していた痕跡など全く残っていない。


しかし、草影をよく見ると、


「!!」


白骨だった。


夥しい数の白骨が草に隠されている。


考えたくはないが、これだけ(くさむら)が青々としているのは、この白骨になった遺体の養分を、、、


膝から崩れ落ちるターロ。


「ぬししゃま!」


ドーラが心配そうに支える。


「ターロ様、、、」


メトドもターロの中のライン王子の心境を案じて覗き込む。


オルトロス達も、心配げにしている。


「、、、分かってはいたんだけれどね、、、実際に見ると、、、これは来るものがあるな、、、」


とターロは声を絞り出しながら立ち上がった。


「ありがとう。もう大丈夫だよ」


と、ターロは支えてくれたドーラの頭を撫でた。


「國破山河在、、、か、、、」


なんだか分からないことを言っているが、尋ねる者はいない。


街の中心だった所まで進んでいくと、建物の基礎やちょっとした壁などは残っていた。


井戸は生きている。


「あれは!?」


兵の一人が何かを見つけて声を上げた。


見に行くと、男と女が(はりつけ)になっている。


既に死んでいるようだが、磔にされてからそれほど時間は経っていないようだ。


「みんな! 近寄るな!」


頭巾(フード)を跳ね上げたメトドが、集まった兵に叫ぶ。


メトドの形相に、野次馬の様に取り囲んでいた兵が下がった。


ターロやオルトロス達も来た。


「どうした?」


オルトロスが尋ねると、


「陛下、近寄ってはなりません。パヌルを、、、」


と言うメトドの後ろから、


「姉上!!」


男が一人飛び出した。


「あ! いけない!」


止めようとするメトドの手をすり抜け、男は磔になった女の方へと駆け寄っていく。



【ハイ・エレクトリック(高電流)・コーレント】



バリバリバリッ!


その男の手が、女の遺体に届く寸前、電撃が女の口から出ようとしていた()を焼いた。


蛋白質の焼け焦げる嫌な臭いが辺りに立ち込める。


「何をする!」


その男が振り返って叫んだその声を掻き消すように、



【ハイ・エレクトリック(高電流)・コーレント】



ババリバリイ!


さらなる一撃が磔られた男にも(あた)る。


「きっ、貴様ああぁっ!!」


男は激昂して、電撃魔法を放った主へと向かっていく。


「止めないか!」


それをメタメレイアが止めた。


周りを囲んで、何がおきているのか分からず呆然としている群衆を掻き分けてパヌルが出てくる。


「ち、父上!!!」


パヌルは磔にされている遺体へとかけより縋り付いて慟哭した。


「ああああっ!! 父上ぇ〜、母上ぇ〜! 私の、私のせいで!! ああああっ!」


メタメレイアに止められた男が、ヨロヨロとパヌルへ近寄っていき、蹲るその背に手を置いた。


「叔父上、、、」


その男をパヌルはそう呼んだ。


「あれはピズマ。パヌルの母の弟で、学院で教師をしています」


メタメレイアが、蟲を焼く為に電撃を放ったターロに近づいてきて、小声でそう教えた。

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