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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第一章 異世界渡り〜樹海の国”ケイル”
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1-17 今後の方針

「ターロ殿」


まずオルトロスが口を開いた。


「ラインの故国が滅ぼされたのでも分かる通り、帝国の脅威は増している。ホーフエーベネに帝国が攻め込んだ時、何も出来なかったのは、謝る。言い訳になってしまうが、内乱がおきて、その制圧をしている最中だったのだ。が、今にして思えば、、、」


「その内乱も、仕組まれたものだったのですね」


オルトロスの言葉をターロが承ける。


「その可能性が高い。なのに、ホーフエーベネを占領した後、帝国は何故か、動かない」


それにロエーが答える。


「何かまた工作活動をしているのかもしれませんな」


「おそらくな。しかし各地に間者を放って探らせているが、怪しいものはあるものの今の所はっきりとした兆候をつかめていない」


「何もない、のならそれに越したことはありませぬが、尻尾を掴ませないくらいに巧妙に潜伏している可能性も、、、」


「なくはない、いやそちらのほうが高いように思える。ともかく此方はいつ攻め込まれてもよいように万全の体制を整えたい」


オルトロスはここで、ターロの反応を見る。


ターロは無言で先を促した。


「で、だ。ターロ殿。首都に来て、王立魔法学院で教鞭を執ってはくれまいか? いや、悠長な、と思うかもしれんが、私はこの膠着状態が長く続くと思っている」


オルトロスの考えはこうだった。


帝国がいかに強大でも、我が連邦を相手にすればかなりの被害を被るのは分かりきっているし、遠征するにしても、兵站(へいたん)の事を考えねばならない。


帝国から我が国までは山を越えるか、ホーフエーベネ領の迂回路を通るしか無いが、山越えは先ず無理。


しかし、迂回すれば軍列が伸び兵站も容易ではなく、そこまでの国力は無いはず。


「では何のためにホーフエーベネに侵略したのでしょう? 此方に攻め込むための布石だと思ったのですが、、、」


メトドの問に、


「そうだな。布石には違いないが、他にもなにか目的があったのだろう。直ぐに攻め込んでくる気があるなら国境にあんな強固な砦を築く理由はない」


帝国はホーフエーベネを手中に収めた後、ホーフエーベネと我が国との国境に堅固な要塞を造っていた。


ホーフエーベネ侵略に対する非難と、意趣を糺す外交文章を送っても返事もない。


その沈黙が返って不気味である。


帝国へも間者を放って探りを入れているが、芳しい成果は上がっていない。


「話をもとに戻すが、ターロ殿、守部の里で待っていてくれれば、長距離馬車の迎えをよこそう。一週間もかからないはずだ」


その提案に少し思案して、


「いや、お迎えは結構です。私が歩いてそちらに参りましょう」


「徒歩で? 何故?」


「時間があるとのことなら、先ず国内の状況を把握しておきたいのです。全てを見て回るわけには行かないでしょうが、半年くらい掛けてゆっくり回れば、それなりの情報も得られるかと」


「、、、ふむ。早く来てもらって、学院の底上げをしてもらいたかったのだが、、、」


「そうですね。それもよいのですが、各地によい人材が埋もれているかもしれません。対帝国には優秀な人材がいればいるほどよい」


「成る程」


「ならば私もご同行致します。案内役は必要でしょう」


とメトドが申し出る。


「そうしていただけると助かります」


ターロの言葉に、リトスが空かさず、


「お兄様!! 私もお供します!!」


「いや、駄目でしょ」


「そんな〜」


速攻で拒否され固まるリトス。


「盟主国の第一王女が、旅とか無理に決まってるでしょ」


もう一度ダメ出しをされる。


周りも大きく頷き、四面楚歌となったリトスは、父を見るが。


「当たり前だろ、お前が同行するくらいなら、私がする」


(この、似たもの親子め!)


「いや、陛下も駄目ですよ」


「そ、そうか。まあ、試しに言ってみただけだ」


「試しに言ってみて、いいと言われれば自分だけご一緒するつもりだったのですか?!」


憤慨するリトス。


「大賢者様に、お父様の無茶を止めるように言われています! 駄目ですよ!お父様!」


((( み、見事な”自分のことを棚に上げる” だな )))


皆の気持ちが一つになる。


「おほん、あ〜、まあ、そういうわけで、少し里でご厄介になりまして、体調が整い次第出立いたします。半年位後に首都でお会いしましょう」


無理やり締めくくろうとするターロに、オルトロスが、


「そうか、ではちょうど半年後に支分国の代表が首都に集まる連邦会議がある。それに間に合うようにしてほしい」


「それは帝国に対する今後の方針を決めるのに好都合ですね」


「それから、いくつか支分国で気になる事もあるので、その確認も頼みたい」


「分かりました」


「うむ。それと手形を用意しよう」


連邦は自治領の集まりなあので、それぞれの国を越える時に関所でのチェックを受けなくてはならない。


が、王家で発行された手形があれば、不必要な手間はかからないだろう。


「有難うございます。ただ、わたしが、大賢者の遺産を継承したということは、当面伏せておいてもらえますか?」


「何故だ。大々的に触れを出そうかと思っていたのだが」


「継承者であることが知られれば、懐柔しようとする者、逆に敵対してくる者、そこまででなくとも、取り繕って色々と隠す者、色々でてくるかもしれません。それを避けたいのです」


「そうか、そういうことであれば、暫く伏せておこう」


「学院の方はどうでしょう?」


と、メトドがオルトロスに聞く。


「どうとは?」


「学院の教育理念は、大賢者様の継承者足る人材の育成、という感じですよね?」


「あー、そうだった。目標が急に無くなって混乱するか?」


「その可能性はあるかと」


「じゃあ、やっぱり黙っておこう。何だか騙すみたいで気が引けるが、、、」


「いつまでも隠しておくわけにはいかないので、どうするかは、俺が首都に着いた時に考えましょう」


「分かった。では半年後、王宮での再会を楽しみにしているぞ」


そういう事になって、魔法陣を通って取ってきた手形や、支分国主への手紙などを受け取ると、ターロとロエー、メトドは里へと帰っていった。


リトスは最後までターロの旅に同行しようとあれやこれや言っていたが、誰からも相手にされず(むく)れて魔法陣で帰っていった。

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