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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第七章 ホーフエーベネ奪還
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7-3 勝算は、、、

「お前ら消すための犠牲だ。止むを得まい? 母上の(もと)に大挙して押し掛けられても困るのでな」


「てっめえっ!」


見上げると四枚羽の天使が一人、翼を広げて空中に浮いている。


弓兵と魔法使いが、


「やめろッ!」


というターロの制止も間に合わず、攻撃を仕掛けた。


天使は頭上に具現化させた二枚の光輪を盾にすると、そこに矢と魔法の火球が吸い込まれ、、、


バビュッ


威力を増したそれらが光輪から射出され、攻撃を仕掛けた者めがけて飛んだ。


弓兵は脇腹を射抜かれ、魔術師は火達磨になる。


あわてて周りの魔術師が水をかけた。


「クソッ!」



ブースト(噴射)



ターロが天使に斬りかかる。


ガッツ!


天使はそれを硬化した右手で受け止め、


「ここでやり合う気はない。母上の許で待っているぞ。もう兵の配置も、あの様な罠(・・・・・)などもない。安心して来るがよい」


と言って転移して消えた。


「何なんだ?」


着地したターロは天使が消えた虚空を見つめる。


その空には朝日が昇り始めていた。


「負傷者の手当を」


オルトロスが下知をだし、今度こそ休憩と隊の組み直しを行う。


兵が休んでいる間、急遽首脳陣を集めて軍議を開く。


「兵を配置していないし、罠もないとの事でしたが、、、」


メタメレイアが口火を切る。


「何か企みがあると思うか?」


オルトロスがターロに訪ねた。


「ないと思いますよ。あいつら、自尊心(プライド)が高いから、態々そんなつまらない嘘つきになんて現れないですよ。なんか含みのある言い方をしたのは気になりますけどね」


敵ではあるが、嘘を言ったりはしないであろうところは認めている。


他の貴族達は先程の派手な火柱で肝を冷やし、改めて天使を相手にすることの危険を思い知ったようで、発言する者はいない。


なのでオルトロスは、ターロに更に意見を求める。


「ではどうする?」


「このまま次の街のあった(・・・)所まで進みましょう。夕方には付きます。そこで野営しましょう。あそこなら、川や、枯れていなければ井戸もありますから」


「次の街のあった所?」


「はい。ライン王子としては見たくないし、認めたくありませんが、二年前の侵攻は、支配するためではなくホーフエーベネを根絶するのが目的のような攻め方でした。街は全て破壊し尽くされ、領民は皆、奴隷になったか、そうでなければ殺されているでしょう、、、」


無表情にそういうターロ。


それが一層、彼の内なる怒りを感じさせた。


オルトロスも深くは触れない。


「、、、そうか。ならば食料の現地調達や、駐留地として建物を接収することはできないという事だな」


まだなにかあるのでは、とオルトロスはターロの次の言葉を待つ。


「一つ考えなくてはならないことは、」


ターロが皆の顔を見回しながら続けた。


「何故天使が、墓所まで来い、罠や兵の配置はない。と態々言いに来たか、です」


そう問われても、思いつくことはない。


メタメレイアが、


「例えば、、、あの火柱の罠の首尾を確かめに来たとか?」


「だとしたら、態々、話しかけてこなくてもいいですよね?」


それもそうか、とメタメレイアは腕を組む。


「ターロは、見当が付いているのか?」


オルトロスが飽きてきたようにターロに答えを求めた。


「勿論、推論でしかありませんが、」


と前置きして、


「天使たちだけでは闇竜の封印を解けなかったのではないでしょうか?」


膝をうったメタメレイアが、


「成る程。で、我々に封印が解けるか試させようというつもりなのですね」


と言うのにターロは頷き、


「その可能性は高いかと」


「むう。そうならば、それはそれで面白くない展開だな」


「はい。封印を解いた後、闇竜を奪われては、態々彼らに利する為に来てやったことになってしまう」


「だからといって、我らが闇竜に止めを刺すのを、天使たちが指を加えて見ているとは思えんしな」


「そうですね。なら、封印を解く前に天使たちを全て排除できるかというと、それも難しい。彼らからすれば、封印が解けるまでどこかに隠れていて、解けた瞬間に転移してくればいいわけですからね」


「では、奴らの思惑通り、先ず封印を解くしかない、というわけか」


「そうです。その後に闇竜の加わった天使たちと戦って勝たねばなりません」


「、、、口で言うのは簡単だがな、、、」


ここでメトドが、


「ターロ様」


初めて口を開き、遠慮がちに尋ねた。


「なにか勝算があるのですか?」


「ない」


断言するターロ。


困惑する一同。


オルトロスが辛うじて言った。


「、、、ターロ。そんなに力強く言われても、ちっとも心休まらんぞ」

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