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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第七章 ホーフエーベネ奪還
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7-0-2 オルトロスの武者修行2

「馬鹿な、、、何だって鬼族(オーガー)がこの村を、、、?」


「分からねえ。けどもう何人かが、山側の入り口で応戦している。早く行かねえとみんな死ぬぞ!」


話し合う時間などない、こうしている間にも犠牲者が出るかもしれん、と村人がわらわらと移動していった。


だが、オルトロスは、違和感を覚える。


(おかしい。オーガーが理由もなく人族の村なんぞ襲うものだろうか?)


オーガーは見た目こそ恐ろしく、体躯も人族に較べかなり恵まれていて単純な筋力の戦闘力はとんでもないものがある。


しかし、魔法も使えず個体数も少ないので、人族と揉め事を起こすことは滅多にない。


普段は山の中でひっそりと暮らしている種族なのだ。


それがわざわざ人里におりてきて、しかも集落を襲うなど聞いたことがない。


不思議に思ってオルトロスも付いていく。


確かに村の入り口にある簡易な門の前でオーガーが暴れている。


村人は遠巻きに石や鎌を投げているだけなので、まだ怪我人は出ていないようだ。


(一体しかいないじゃないか、、、)


何十人もの村人の囲みの中心にはたった一体のオーガー。


遠目で暴れているように見えたのは、投付けられた物を避けるのに腕を振るっているからであった。


このままではオーガーは嬲り殺されるだろう。


「待て待て、なんだ。一体しかいないではないか?」


オルトロスが止めに入っても、


「一体でも何でも、村を襲いに来たんだ。殺すしかねえだろう!」


「そうだぁ! よそ者は口出すな!」


村人は興奮して冷静な判断が出来ずにいる。


下手に庇うとオルトロスも攻撃されかねない。


その時だ。


「みんな待って!」


凛とした声が響いた。


「ラパノス、、、」


声の主は少女だった。


「聖女様、、、危ねえよ、ここは我々に任せて、下がってくれ」


村人は彼女の前で少し冷静さを取り戻したようだ。


「みんな。そのオーガーをよく見て。武器を持っていないわ」


その聖女の言葉に、村人たちが改めてオーガーを見る。


確かに丸腰だ。


聖女様と呼ばれた少女は、


「村を襲うのなら武器を持ってくるでしょう? そうじゃないのだから何か理由があるはずよ」


と言って、前にいる村人を押しのけるとオーガーに向かってトコトコと歩み寄っていく。


皆あっけにとられて止めることも忘れている。


オルトロスだけが、


「不用意に近づくと危ないぞ」


と、その前に立った。


「大丈夫よ、旅人さん。そこをどいてくださいな」


ラパノスがオルトロスに()じける事なくそう言うので、


「なら、私が護衛をしよう」


ぞんざいな言葉遣いを忘れ素になるオルトロス。


「お願いします」


と少女は厚意を素直に受け入れ前へ進んだ。


肩で息をしているオーガーが攻撃してくる様子は、ない。


石をあてられ、鎌で切られ、痣になり出血もあった。


「ごめんね。みんな怖いのよ。これで許して」


と手を翳すラパノス。


オーガーは一瞬、警戒してビックっとするが、翳されたラパノスの手から光が溢れその光に触れた箇所の傷が癒えていくのを見て驚きながらも、大人しくしていた。


「見事なもんだな、、、。これが、噂の聖女の力か」


後ろから見ていたオルトロスが呟く。


ラパノスは治癒魔法をかけながら、ちょっと振り向いて、ニコッとしただけだった。


再びオーガーに話しかける。


「何があったの?」


オーガーは、アウアウ言っているが、言葉が通じない。


「困ったわね。オーガーの言葉は分からないわ」


と小首をかしげるラパノス。


「身振りを使えばよかろう」


とオルトロスが提案する。


オルトロスは手で、分からない、という仕草をして見せてから、自分の口を指差し、オーガーの口を指差し、そして両手の人差し指で✕印を作ってみた。


オーガーはそれを見て、少し考えた後、身振りで何かを表し始めた。


「お、通じたのか?」


オルトロス達はオーガーの身振り(ゼスチャー)を読み取ろうと、注視する。


村人たちはすっかり冷静さを取り戻し、彼らのやっている事を見守っていた。


オーガーは何か胸の前で抱えるような仕草をして、急に両手を前に出す。


そして村人達を一人ひとり指差した。


それからまた抱える仕草をする。


「何をしているのかしら? 全然分からないわ、、、」


とラパノス。


(諦めが早いな、、、本当に考える気はあるのか?)


とオルトロスは横の諦めのよすぎる聖女様に小さく笑いつつも、


「抱えているのは、仕草からすると、子供、ではないか? お前、、、母親なのだな? 両手を前に出すのは、取られた、そして皆を指差している」


オルトロスの読み解いた言葉をラパノスがつなぎ合わせると、


「子ども、取られた、人族、、、に?」


「うわっ、それが本当だったら大変だぞ、、、」


オーガーは個体数が少ない。


だから子どもを大切にする。


人族に子どもを攫われたとなると、全面的に戦いになるだろう。


何故このオーガーが、一体でここに来ているのかは分からない。


このオーガーも人族との全面戦争を望んでいないのかも知れない。


もしくは母一人、子一人なのかも知れない。


しかし言葉が通じないので何が真相なのかの確認のしようはなかった。


(クソッ、やはりメタメレイアを連れてくるのだった、、、)


後悔しても今の状況が良くなるわけではないので、これからどうするかを考える。


「オーガーが我々に子どもを拐かされたと思っているのなら、何かそう思う根拠があるのだろう。まさか、、、誰か本当に攫ったのか?」


オルトロスが村人を見回すが、滅相もない、と皆首を振る。


「じゃあ、なんだ? 、、、この村がオーガーと事を構えて得をするのは?」


と言う問いかけに、


「隣村だ!」


村人が一斉に答えるのに対し、オルトロスが、


「それだ。隣村の者がオーガーの仔を攫って、この村の仕業だと偽装する方法、、、何か思いつくか?」


そう問うと、村人達は顔を見合わせ、小声であーだこーだ言うが、思いつくことがない。


仕方ないのでオルトロスが重ねて訊く。


「オーガーの住処は?」


「川の上流の山ん中だ」


その川はこの村と隣村の境界でもある。


オルトロスは、


「成る程、そうか。皆の者、不審な小舟を探せ! あったら中を(あらた)めてみよ!」


すっかり王族の口調に戻り、声に魔力まで込めて下知を出すが、誰も疑問にも思わずそれに従った。


ラパノスだけが、キョトンとした顔でオルトロスを見ている。


「貴方は、、、不思議な旅人さんですね?」


しまった、これでは身元がバレる、と、オルトロスは、急に取り繕って、


「そうかい? 俺は旅の傭兵オル。報酬をはずむんなら、この一件、最後まで手伝ってやってもいいんだぜ?」


と態とぞんざいに喋ってみせる。その誤魔化しを見抜いているかのように、


「うふふ。考えておきますわ。オルさん」


ラパノスは特に美人というわけではないのだが、その微笑みはオルトロスをドキリとさせるような不思議な魅力があった。

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