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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第六章 盟主国 ”ケパレー”
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6-29 潰しちゃいけません

「ターロ、、、様」


ターロを見つけたパヌルが話しかけてきた。


「パヌル。無理に丁寧に話さなくていい。気持ち悪いぞ」


何を話すにしても、不自然な口調じゃ聞いてるこっちが辛い、とターロ。


「む、、、」


「普通でいい」


「そ、そうか、、、ありがたい」


壁上りの練習も一段落したので、休憩とする。


「で?」


休む所を見つけ腰をおろしたターロが、パヌルに何の用だ? と促す。 


パヌルは当初、決死隊に志願したが肉体強化魔法が使えるわけではないので後方に回された。


メトドたちの前面の部隊に配置されたはずだ。


「え? あ、ああ。、、、これで死ぬかも知れないので話しをしておきたかったのだ。 その、、、貴方は私が憎くはないのか?」


「憎い?」


「私の貴方への嫉妬が、貴方の国を滅ぼすことになったのだ。正直今ここで殺されても文句は言えない、、」


「パヌル。先ずハッキリさせておくけど、お前が帝国にホーフエーベネを滅ぼすようにけしかけたのか?」


「いや、、、陛下の前でも申し上げた通りだ」


「だったら、ホーフエーベネが滅びたのはお前のせいではないだろう?」


「だが、父が帝国と内通して、、、」


「同じ話を何度もするなよ。馬鹿だと思われるぞ」


「むっ」


ターロにそう言われて言葉に詰まるが、その顔を見ると笑っているので、からかわれたのだと気付くパヌル。


ふー、と息を吐くと、


「やはり敵わないな、、、ライン、、、いや、ターロ殿。そして皆さんも聞いてください」


一緒に座ってなんとなく二人の話を聞いていたオルトロス、リトスたちにも向けてパヌルは話し始める。


「私は、、、」


ラインが妬ましかった


生まれたときから、歴史ある国の王子。


魔法の才能もあって、剣術も熟す。


優秀だ、と教えた教師が皆、口を極めて褒める。


教師陣が隣国の王子に気を使っているのかと思えばそうではなく、不正の出来ない学園の試験でも良い成績を出していた。


その上、人当たりもよく、容姿もずば抜けて良い、とは言わないまでも、人並み以上には整っている。


何より生まれ育ちによるものであろう、品が良い。


よって社交界での受けもよく、自ら話しかけるわけでもないのに常に話題の中心にいる。


そんなふうに何もかも恵まれている上に、更にリトスにまで好かれている事が許せなかった。


ヘーオスと言う長子がいるので、次期国王の座は無理だとしても、リトスを娶ることができれば、自分の子孫から王となるものを出せるかも知れない。


そう言う下心があってリトスに近寄る貴族は沢山いた。


勿論パヌルにもそうした打算があり、成功すれば父が褒めてくれるだろう、と言う気持ちもあったが、彼は心底、可憐で、自分にはない"陽"の気を持つリトスに惹かれていた。


しかしリトスは自分には笑ってくれない。


いくら高価な贈り物をしても受け取ってもくれなかった。


どうしたら彼女は自分に振り向いてくれるのだろう?


何かをすればするほど彼女が自分から離れていくような気がして焦りは募るばかりだった。


まあ、ラインの留学も期限付きだ、彼が帰ってからじっくりと取り組めば良い、と焦る自分を誤魔化す毎日だった。


しかしある日、目撃する。


学院の行事で野草摘みに行ったときだ。


薬草学の授業の一環で春や秋の陽気のいい日に行われる。


行楽も兼ねていて、学院生以外の貴族の徒弟も参加が許されていた。


リトスの姿もあったが、最初からずっとラインにべったりで話しかけることすら出来ない。


遠巻きにリトスを凝望していたパヌルは、見てしまった。


ラインが野の花を一輪摘んで、リトスに渡したときの、あの笑顔を。


自分が贈った品々に比べれば、ゴミの様な雑草の花。


それを満面の笑顔で受け取り、この世に二つとない宝物を押しいただくように大切に手拭き(ハンカチ)に包んで仕舞った。


他者からすると、なんでもない日常の平和な光景の一つに過ぎなかっただろう。


しかしパヌルにとってその笑顔は、心に空いた穴を更に抉って、塩を塗りこまれ、毒を注ぎ込まれたに等しい仕打ちだった。


何故だ?


何故だ?!


何故だ!!!


その時、パヌルの中でラインへの嫉妬が殺意へと変わった。


泣きながら帰宅して、ヴロミコスにあることないことを吹き込む。


勿論ヴロミコスが大貴族だとは言え、ライン王子を直ぐにどうにか出来るほどの力はない。


しかし、この時から帝国に付入られる隙きが生じた事は確かなのだろう。


「私は、、、とんでもない事を、、、」


語り終わった時はその場に崩れ膝と手を付き、涙でぐしょぐしょになっていた。


(ス、付き纏い(ストーカー)じゃん、、、何でも素直に告白すりゃいいってもんじゃねーぞ、、、)


話を聞いてそんな感想しか浮かんでこない。


「パヌル、、、やっぱ、お前、、、気持ち(わり)ーいな、、、」


ターロがげっそりした顔でそう言うのを聞いて、ドーラが、


「つぶす?」


と訊く。


「潰しちゃいけません。って、何を潰すつもりなの、、、」


(どこでそんな変な言い回しを覚えた?)


「、、、き、気持ち悪い、、、」


リトスもそう呟いた。


他の女性陣の顔も引き攣っている。


意を決して内心を吐露したのに、ターロ達には気持ち悪いの一言で切り捨てられてしまった。


「、、、分かってはいたが、面と向かって言われると堪えるものがあるな、、、」


リトス達の反応をみて、自嘲するパヌル。


(おいおい、蔑みの視線が癖になった、とか言うなよ、、、)


これは不味い。


ちょっと高度な趣味に走られても困る。


本当に気持ち悪いが仕方がない、少し相手をしてやろう、とターロは自分に言い聞かせて話す。


「パヌル、お前が誰を好きになろうが、どう思おうが、そりゃ自由だけどな、自分の気持ちばかり優先して、全く相手の気持ちを考えないから、振り向いてもらえないんだぞ、、、」


「相手の気持ち、、、」


「そうだ。当たり前だろ。お前、自分の希望ばかり押し付けてくる人ってどうよ? お前の希望も聞いてもらいたくならないか? 贈り物だってそうだぞ。お前、リトスに自分が欲しいものとか、自分がリトスに着てもらいたいもの、身につけてもらいたい物を贈っただろ。あの時のリトス、本気で困っていたぞ、、、」


例えば、古美術品(アンティーク)の指輪。


若い女性がするには嵌められた宝石が大きすぎて毳々(けばけば)しい。


しかもどんな仕組みかは分からないが、暗くなると、喋る。


気持ち悪いにもほどがある。


確かに面白い仕掛けで、パヌルは気に入ったのかも知れない。


だが、それを女性への贈り物にする感覚を、あの時あれを見せられたライン王子には全く理解できなかった。


「それにな、あの花は雑草の花なんかじゃないぞ。めちゃめちゃ珍しい薬草で、本当にたまたま見つけたんだ。リトスが仲良くしていたお菓子屋の娘さんがな、珍しい病にかかっていて、唯一の特効薬のあの花がどこにもなくって困っていたんだ。だから見つけたらくれ、って言われていただけだぞ、、、だからあんなに喜んでいたんだ」


「お兄様! 何をおっしゃいますの! お兄様んんんんんんんんん、(から頂ける物なら、)んんんんっんんんん(たとえ雑草でも)んんんん(リトスは)んんんんんんんん(嬉しいですわよ)!」


リトスの科白は、後ろからエリューに口を抑え込まれて全て言うことが出来なかった。


ターロはエリューによくやった、とこっそり親指を立ててみせる。


口を抑えられても最後まで言い切るのは天晴だ、、、が、頼むから今は空気を読んでくれ、と、一直線なリトスにターロは内心で溜息を吐いた。


「そ、そんな、、、」


自分の勘違いに更に愕然とするパヌル。


「な? お前がリトスを如何にちゃんと見ていなかったか、自分の見たい様にだけ(・・・・・・・)見ていたのか分かったか? 誰を好きになってもいい、って言ったけれどな、そんなんじゃ誰かを好きになる資格なんてないぞ」


「、、、ターロ殿、、、」


「分かったら顔を洗いに行けよ。汚いぞ。モテたかったらまず清潔感。分かった?」


もう、相手をするのも面倒になったので、適当に締め括るターロ。


「あ、ああ。分かった、、、」


パヌルはフラフラと立ち上がり、フラフラと去っていった。


「何だありゃ? 、、、勘違い野郎が暴走するのはどの世界でも一緒だな、、、」


あー疲れた、と言う感じのターロに、オルトロスが、


「ははは、ターロは愛の伝道師だな」


「何っすか、それ?」


「良いことを言っていたぞ。相手を自分の見たいように見るな、そうでなくては人を好く資格はない、か。うむ。名言だ」


「、、、い、(いじ)らないでくださいよ、、、」


恨みがましくいうターロ。


その顔を面白がるオルトロスの、


ハッハッハハハハハ!


という高笑いが、決戦を控えた夕空に響くのだった。

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