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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第六章 盟主国 ”ケパレー”
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6-28 軍議決す

「何故我々が危険を犯す必要がある! 国庫から捻出して傭兵でも雇えばよかろう!」


やはり軍議は荒れた。


オルトロス達は倦顔(うんじがお)になっている。


(この件が片付いたら次は貴族院の改革だな、、、)


オルトロスは強く思った。


貴族院派は、今日の自分たちの言動が明日の自分の首を絞めているとは気付いていない。


ホーフエーべネを奪還したところで、ライン王子と言う正当な統治者がいる以上自分たちの領地となるわけでもない、見返りを保証してもらえなくては参加する気になれない。


これが貴族院派の本音だ。


何度、闇竜が復活してしまえば、どれだけ連邦の脅威になるかわからない、という事を説明しても、話はそこに戻ってしまう。


「あの〜、ちょっと、いいっすか?」


堂々巡りに陥っているのを見てターロが発言を求めた。


「ホーフエーべネを取り戻せたとして、俺はそこの領主だの、ましてや王様だのになんて収まるつもりないっすよ」


参加者全員「え?!」と言う顔でターロを見る。


「よいのか?」


オルトロスが思わず尋ねるが、


「だって、陛下から学園での指導、頼まれていますし」


「そうだった、そうだった、ターロにはぜひ学園でこの国の若者を、、、いや、そうではいだろう!  それとこれとは話が別だ。奪還できたらお前が統治せんでどうする」


陛下、見事なノリツッコミです、と言いたいところだが、どうせ通じないので我慢してターロはこう応えた。


「以前のホーフエーべネが連邦に加わらないで同盟って形を取った理由は墓所の秘密を守るためです。もう秘密でなくなったのだから独立を保つ必要もないじゃないですか」


それはそうだが、それがどうしたのだ、という顔の一同。


「で、提案なんですけれど、旧ホーフエーべネ領は、今、領地のない若くて優秀な貴族に分譲するっていうのはどうですか? 勿論、試験はしますし、苛政を布いたら、俺がポロス王の御霊を召喚してお灸を据えてもらいます」


「ポロス王の、、、」


その名を聞いて、今まで煩かった貴族達は皆、押し黙った。


ターロの(いかづち)で天使を葬ったあの大魔法も勿論だが、ポロス王その人も彼らには恐怖の対象として深く刻みつけられているらしい。


だが、悪い話ではない。


彼らが派閥を作って権力を欲するのもつまるところ、子や孫により良い領地を残してやりたいからだ。


土地は限られているので争いになるが、それが増える分には歓迎しない理由はない。


試験がある、というのも実力主義のケパレーでは反発を招いたりはしない。


寧ろ自らの力で勝ち取る好機として歓迎されるであろう。


「そう言う事なら、、、」


と、皆が参加を了承した。


「本当によいのか?」


オルトロスがターロに念を押す。


「ええ。民からすれば、誰が統治するかではなく、どんな統治なのか、の方が大事ですからね。民を大切にする統治者なら誰でも同じでしょ?」


とターロがにこやかに言う。


「流石は大賢者の後継者様ですな、感服いたしました」


貴族院派の者が掌返しのおべっかを使い始める。


ターロは苦笑を返すのみだった。


「まあ、ターロがそう言ってくれるなら、こちらとしてはありがたい。その方向で話を進めよう」


この後の軍議は滞りなく進み、明朝、陽の登る前に出立が決定。


ケイル・ブラキーオーン・オステオン・スケロス・プースの連邦支分国にはそれぞれ、

・今までの経緯、

・出兵中のケパレーを後方から突こうと帝国の海からの侵攻があるかもしれない。警戒を怠らぬように、

・今回はケパレー単独で作戦を行うので援軍は無用、

・三ヶ月後の連邦会議は予定通り行う、

と言ったことの報せを出した。


そして、各自、準備をするため解散となった。


自領から連れてきている其々の魔法兵士団を決められたとおりに編成し直していく。


決死隊に志願したものは、梯子を使った壁上りの練習だ。


オルトロスもいるので皆が緊張していた。


「そんな事では本番でしくじるぞ。私のことは唯の一兵卒と思えば良い」


王として扱われたがらないオルトロスはそんな事を言うが、


「いや、陛下、流石にそれは無理っしょ、、、」


というターロのツッコミに、皆、遠慮がちではあるがしっかりと頷いていた。


梯子に押されて壁に最初に昇る役は、ターロ、オルトロスに志願兵から二人。


その二人はオルトロスほど強力なものではないが、肉体強化魔法が使える。


ドーラはターロの次に梯子を昇る事になった。


本当は梯子に押される役をやりたかったドーラ。


「登った先に天使がいて、いきなり捕まっちゃったら困るでしょ?」


といわれて、それは諦めたが、梯子に押されて昇るのが気に入ったようで、志願兵達に強請(ねだ)って何度も何度も何度もやっていた。


こういったときのドーラは、倦ることを知らない。


「もういっか〜い」


が永遠に続き、やめさせるためにはお菓子で釣るしかないのだ。


ターロはこれを、もう一回お化け、とよんで大変恐れていた。


プロクスやエーデルは竜化し、鞍を取り付けてもらって、その背に合うよう調整してもらっている。


その調整は飛竜騎兵(ワーバーンライダー)隊がやってくれているので、その上に乗るアウロ達はやることがない。


なのでターロ達のところへ見学と言う暇つぶしに来ていた。


城に残るリトスとエリューもいる。


アウロは決死隊を羨ましく思っていたが、竜を駆るもの(ドラゴンライダー)として参加するのと天秤にかけるとやはりドラゴンが勝ったようで特に不平は言わなかった。


ただ、支え役のクローロに人見知りしてしまっている。


クローロからすると、それがなお一層、可愛く思えたようで、何かとアウロを構っている。


アウロは困ってはいるが満更(まんざら)でもないようだ。


母を思い出すのだろう。


母、に重ねられていると知れば、クローロはがっかりする(ショックをうける)だろうが、まだそうとは知らない。


そんな感じで皆がワイワイやっているところへ、パヌルが来た。

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