6-26 叩き台
「今回の作戦の要は彼女です」
メタメレイアがテュシアーを指して言う。
「私ですか?」
いきなり指名されて戸惑うテュシアー。
「そうです。私の魔法陣を瞬時に破る魂力。それがあれば闇竜の封印も解けるのではありませんか?」
それを聞いたターロとメトドが難しい顔をした。
「メトドさん、、、」
ターロに促され、メトドが発言する。
「はい。メタメレイア様。彼女の魂力ではもしかしたら封印を破れないかもしれません」
「? どういうことでしょう?」
先程、あれほど鮮やかに自分の魔法陣を破ったのに、闇竜の封印魔法が破れないなどという事があるのだろうか?
「テュシアーの魂力は、"害意"を持ってかけられた魔法を破る力なのです。そうでない物、例えば治癒魔法等を破ることは出来ないようです」
「ああ、だから魔法陣を描く時に、罠系の魔法、と指定したのですね」
「そう言うことです」
そのやり取りをきいたオルトロスは、
「しかし、封印を破れる公算が低いのなら、苦労して墓所までたどり着いても無駄になるかも知れないではないか」
と疑問を挟んだ。
「そうですね、、、。今回の作戦ではとりあえずホーフエーベネを取り戻す、という事に主眼を置いて、墓所の封印は後でゆっくり考えたほうが良いかも知れませんね、、、」
メタメレイアがそう結論をだす。
「それでも良いのですが、、、。それだと余計な犠牲が沢山出るかも知れません」
ターロが膝の上でまた寝てしまったドーラの位置を直しながら言う。
「余計な犠牲?」
そんなものはできるだけ出したくない。
「そうです。封印を解く事ができて闇竜に止めを刺せれば、天使が墓所に固執する理由はなくなります。逆上して玉砕覚悟で挑んでくるかも知れませんが、奴らの今までの行動を見ていると、かなり冷徹でした。それはないと思います。羽根が駄目になった仲間の首を、もう飛べないから、と言って落とすような奴らですからね」
「だから、さっさと封印にけりを付ければ天使共は撤退していくと?」
「そうです。天使がいなくなれば後ろ盾を失い不安になって、帝国人も引いていくでしょう」
「確かにその筋書きが一番被害が少なそうだな。だが、封印を解く事はできないのだろう?」
「できないと言うより、失敗する可能性を念頭に置いて作戦を立てるべき、と言う意味で先ず前提条件をはっきりさせたんですよ」
「成る程、そう言う事でしたか。分かりました」
と頷くメタメレイア。
「まあ、テュシアーだけで解けなくても、他の方法で解けるとは思うんですよね」
意味深な言葉とともに、ターロはアウロを見た。
なんですか? と、キョトンとしているアウロに、
「そろそろ寝るかい?」
といって、ドーラと一緒にもう就寝させた。
「我々も明日に響いてはいかんから、さっさと決める事を決めて寝よう」
オルトロスの言うとおり、大まかな配置をどんどん決めていく。
制空隊としては勿論、カルテリコス。
ただ、彼だけだとただの的になってしまうので、プロクスに、エーデルも竜化して参加。
エーデルには攻撃手段がないので、背中にアウロとニパス。
支えとしてクローロ。
プロクスの背にも、炎の効かない相手がいては困るので、キュアーノが乗り、プロクスとエーデルが墓所に着いて人化したときの服も持ってもらう。
地上部隊はエウローとアプセウデースを切り込み隊として配置、殿の本陣にメタメレイア、メトド、テュシアー。
砦の壁を登って門を開ける決死隊にはオルトロス、ターロ、ドーラ。
他にも肉体強化魔法の使えるものの中から有志を募る事とした。
リトスはお留守番。
城を空にするわけにもいかないので、エリューも残ることになった。
「姫一人、お留守番じゃ可哀想だしね」
と、城の居残りを承諾するエリュー。
普段はからかってばかりだが、やはりリトスが可愛いらしい。
「よし。これを叩台に、明日の軍議をさっさと終え準備を整えて、明後日、早朝に出兵しよう」
というオルトロスの纏めでお開きとなった。