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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第六章 盟主国 ”ケパレー”
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6-25 魔法じゃないよ物理だよ

「夜も更けたが、ついでだ。明日の軍議の前に配置の概要を決めてしまおう。奴らも交えてだと無駄に揉める」


というオルトロスの言葉で、夜食が用意された。


「以前、砦に物見を出した事があったな」


葡萄を摘みながらオルトロスがエウローに話を振ると、


「あの時は散々な目に合いましたよ」


と応じる。


砦は魔法無効の仕掛けが設置されており、こちらからの遠距離攻撃が届かないところを上から散々矢の雨を浴びせられたそうだ。


「へえ、魔法無効か。自分等も使えなくなるのに、、、。まあ、攻める側が受ける不利益の方が大きいか」


と言うターロに、


「それは何故でしょう?」


メトドが尋ねた。


「魔法が使えなけりゃ、弓矢とか投石とかしか攻撃手段がないでしょ? そうなったら当たり前だけれど上に位置する方が圧倒的に有利じゃん」


「では魔法無効の仕掛けを先ず破らねばなりませんね」


「いや、それするくらいなら砦の門を開けちゃったほうが早いよ。魔法の仕掛けがどこにあるのか探り当てるより、閂の場所が分かっている門を開けるほうが簡単でしょ? あ、メトドさんなら分かるかな?」


「いいえ、砦の様な大きな対象物だと、だいたいの場所しか分かりません。特定するには近づかないと、、、」


「だよね。だったら、やっぱり閂を開けた方が早いよね」


二人の会話を聞いていたエウローが、


「その通りなのですが、しかしどうやって開けますか? 狭隘(きょうあい)な谷間の入り口にあるので、迂回して入るのは中々難しい。気取られて何かしらの対策を取られてしまうでしょう。かと言って正面突破も難しい。強攻すれば多大な犠牲が出るでしょう」


と既に見に行った者としての意見をした。


「強行突破は最後の手段ですよね。魔法無効の範囲はどのくらいでした?」


「正確に測ったわけではありませんが、牽制に魔法を打ってみた時には既に発動しなかったので、、、二百mよりは広いかと」


「そうかぁ、結構広めに取ってあるんですね、、、。狙いを正確につけるのも無理だし、そもそもあれは禁呪だから人に向けては使いたくないしな、、、」


「あれというのは、あの空が光った魔法の事か?」


ターロの独り言にオルトロスが訊く。


「そうです。あれは大賢者様の温故知新(ライブラリ)にあった、禁呪、隕石を落とす魔法です」


「禁呪、、、」


「隕石、、」


メタメレイア、オルトロスがそれぞれ違うところに反応した。


「まあ、あれはゴーレム相手だから使ったっていうのもありますが、近くまで寄れて狙いを正確に定められたから使えたんですよ。だから今回は無理ですね。人相手だし、狙いもうまく定められない。友軍の上に落としちゃったら、間違った、じゃ済みませんからね」


禁呪の使用を強要されないようにちょっと大げさに使う意志がない事を伝えておく。


今は信用できても、その威力に豹変しない保証はない。


そんな不幸は味わいたくはないが権力や軍事力には麻薬のような甘い誘惑がある、という事を前世の歴史から嫌と言うほど学んでいる。


だからターロは警戒することを忘れなかった。


そんな事を心配するくらいなら使わなければよかったのだが、ドーラを一刻も早く救いに行くためには已むを得なかった。


同じ事があれば、大切なドーラの為だ、やはりターロは躊躇なく使うだろう。


だが、顔を引き()らせながら、


「そ、そうか、、、味方とは言わず、関係のない者を巻き込む可能性があるのなら使わないほうが良いな、、、」


そう言うオルトロスを見に、自分の心配は今の処、杞憂だ、とターロは嬉しくなる。


「別の方法を考えましょう。砦の壁って高いんですか?」


ターロが再びエウローに尋ねた。


「急拵えだった所為かそれ程高くはありません。六、七メートルと言ったところでしょうか」


「七メートルか、、、。ギリギリいけるかな?」


また何か変わった事を考えているな、と皆はターロの次の言葉を待つ。


「陛下、あの壁、土足で登っちゃっていいですか?」


何を言うのかと思うとまた予想外のことを言っている。


「ああ、構わんが、、、。何をするつもりだ? 魔法は使えないのだぞ」


訝しがりながらも許可を出すオルトロス。


「見ててください。アウロ。杖の端を両手でしっかり持って腰の辺りで固定して壁の方を向いて立って」


「はい。こうですか?」


変な事を指示され慣れているアウロは、素直に従う。


「じゃあ、せーの、って合図をかけるから、そうしたら壁を一気に走って登ってみてね」


と言ってターロはアウロの杖の反対側を持って、


「せーの」


と号令をかけるとぐいっと一気に押し出した。


ダダダダダダッ!


「うわ〜あ!」


押されて壁を駆け上がるアウロ。


あっという間に、ターロが手を伸ばした高さに杖の長さを加えた三メートル以上を登ってしまった。


もう少しで天井にぶつかりそうだった。


勢い余って杖から手が離れ、そのまま落下してくる。


それをターロが受け止めた。


「ええ〜!! 何の魔法ですか?!?」


受け止められたアウロが驚いて訊く。


「魔法じゃないよ。物理さ」


「物理?」


皆もあっという間の出来事だったが魔法でないことが信じられない。


「簡単に説明すると、俺が杖を押す力、壁、アウロが駆け上る力、その三つで、アウロの体重を分担したのです。だから、直接、」


といってアウロを持ち上げ肩車をして、


「こうするより少ない力で高いところまで運ぶことが出来る」


ほー、成る程、と皆が感心する中、ドーラが自分も自分も、と両腕を出して突進してきた。


ドーラの腹を右手で持ち上げ、空を飛ぶようにぐるぐると動き回ってやると、キャッキャと喜んでいる。


肩車されているアウロもケラケラ笑っている。


私も〜、と、両腕を出してリトスも前に出てくるが、まさか姫もそんな子供みたいなことをしてもらいたいのですか? というエリューのニヤニヤした顔と視線に気づいて、腕を差し出したまま顔を真っ赤にして後退った。


ターロはそれを横目で見て失笑しながら、


「一人の体重と装備の重さを支えられる強度で、壁の高さと同じ長さの梯子があれば、こうやって魔法無しで登れます。しかも一人が登ったと同時に梯子も壁にかかるので、登った者が牽制している間に、梯子を押した者もすぐに後に続く事が出来ますよ。犠牲は最小限で済むはずです。少数精鋭で決死隊を募って攻略しましょう」


そう提案する。


「それはいい。早速、人選を行おう」


オルトロスはエウローに頷いた。


「ああ、決死隊には俺も参加しますよ」


ターロが言うのを聞いてオルトロスが、


「魔法は使えないのだぞ?」


と訊くと


「いえ、放出系の魔法が使えないだけだと思います。魔法無効の結界は何度も経験していますので」


「どういうことだ?」


「生命維持に必要な体内の魔力まで無効にしてしまうと、結界中にいる者も死んでしまいますよね? 砦を守る兵が死んでしまっては困るので、それはないはずです。だから体内で完了する肉体強化系の魔法なら使えるんですよ」


「成る程、、、。ならば私も参加するぞ」


ニヤリとするオルトロス。


「陛下、、、」


メタメレイアがとめようとするが、


「私の肉体強化魔法は、この作戦向きだろう」


オルトロスが先手をとる。


「確かにおっしゃるとおりですが、、、、」


「よし。じゃあ決定だ。他の配置も決めてしまおう」


自分の決死隊参加を取り消されないよう、さっさと話題を他に移すオルトロスだった。

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