6-24 ホーフエーベネ陥落
「そしてあの日が来ました」
落ち着きを取り戻したエーデルは再び話し始めた。
ホーフエーベネ陥落。
エーデルが墓所に閉じこもっている昼間。
地上の音は地下室まで伝わって来ない。
いつもより早く扉が開いて、おかしいな、と思っていると下りてくる足音が一つではない。
何かあったに違いない、とエーデルは闇の精霊の力で自分の気配を隠蔽した。
「ここか、、、あったぞ、母上の封印だ」
「どうだ、解けるか?」
「いや、無理だ。我らには魔法陣の知識しかない。これは精霊魔法だ」
「そうだな。ここを押さえただけでも良しとしよう。封印はこれからゆっくり解けば良い」
下りてきたのはラウシュではなく、四枚と二枚の羽を持つ兄弟達だった。
(ラウシュはどうしたのかしら、、、? まさか!)
気配隠蔽を維持しながら階段を昇る。
扉を出て息を呑んだ。
破壊しつくされている。
彼と語らった中庭も、彼の部屋があった城も、彼を守るはずの城壁も、彼が統治する民が住まう城下町すら。
「あああっ!!! ラウシュッ!!!」
自分がこの場に母の封印施設など設けてしまったばっかりに、彼を巻き込んでしまった。
殺してしまった。
迂闊だった。
殆どの兄弟は冬眠しているとばかり思っていた。
いや、思い込もうとしていた。
兄弟が母を取り戻しに来ないはずはないのに、、、。
楽しい日々にそれから目を背けて、、、、。
永遠にこんな日が続くと、、、錯覚してしまった。
そして、エーデルは、
竜に戻った。
戻って、目に入った兄弟達を手当たり次第、
殺した。
帝国軍であろう人族にも、闇の竜の咆哮を浴びせ、視覚を奪ったところを、潰した。
エーデルも母と同じく古代人の地下遺跡で孵り、闇の精霊の加護を受けている。
闇の力に直接的な攻撃力はないが、補助魔法としては恐ろしいものがあった。
"目"に頼って戦い、竜の咆哮を防ぐ術を持たない、人族には効果覿面だ。
だが、
「あれは!?」
「姉上ではないか?」
「姉などではない! 炎の竜と結託して母を封印した裏切り者だ、殺せ」
竜化して攻撃した事によって気配隠蔽が解け、天使たちに気づかれてしまった。
闇竜の彼女の戦闘能力はあまり高くはない。
ドラゴンブレスから逃れた者が共通視を介して指示する。
それに従って放たれる光輪が、彼女の体を切り裂いていった。
こうなるとエーデルには兄弟達の集中砲火を防ぐ手立てがない。
「まて、殺すな。炎の竜より母上との親和性は高いはずだ。生け捕ろう」
この天使たちの判断がエーデルを救った。
あのまま攻撃を畳み掛けられたら間違いなくやられていただろう。
エーデルは逃亡に必要な魔力以外の全てを闇の竜の咆哮に乗せて撒き散らした。
愛する人の復讐も果たせぬまま、逃げるしかなかった。
炎の竜を頼ってプースに行くが彼女もまた封印された事を知る。
満身創痍で、行くあてもない。
仕方なくプロクスの封印されている場所と、ケパレーの間に隠れ住み、プロクス復活を待つことにした。
プロクスの封印を解ける者がいるとすれば、山越えをした兄弟を倒した人族の魔法使いか、その仲間だろうと踏んだためだ。
その推測どおりプロクスは封印を解かれ、ケパレーに向かう。
それを下から見つけた時は、安堵した。
そして身支度を整え、二年暮らした隠れ家の処理をしてから自分もケパレーに向かった、というところで彼女長い話は終わった。
「死んでしまうというのに、何故兄弟達が眠りから覚めて活動しているのかは分かりません。きっと何かが帝国内であったのでしょう、、、」
そう締め括るエーデル。
「うむ。母竜を復活させる目処でも付いたのかもしれん。いずれにせよ墓所奪還は急務だな」
とオルトロスはメタメレイア達と頷きあった。
「ところで、、、あなたも人族に名を貰ったのですね。炎の竜よ」
「そうです。とても気に入っています。"プロクス"。強さと美しさが内包された響き。 あなたもそう呼んでください」
「そうしますわ。プロクス」
と言って微笑む。
成る程、この微笑みにホーフエーベネ王はやられたんだな、と、その場の人族は皆、思った。