6-18 お返し
「プロクスも古代竜です。我々が乗ってきたあの竜ですよ」
ターロはエウローに紹介し、
「ドーラと同じ様に人間離れした力があるはずです。試しますか?」
いたずらっぽく笑うと、
「いや、結構、、、」
エウローは壊れた鎧を脱ぎながら、げんなりした顔で断った。
「じゃあ、次は、アプセウデースかな? エウロー先生。今のドーラの攻撃を受けてみてどうでした?」
「人間には受け止められないかと、、、陛下のように速さで翻弄して戦うしかないでしょうな」
「ですよね。でもあの山の民は受け止めちゃいます」
「、、、本当ですか?」
「本当です」
実演してみせる。
ドーラの蹴り、それもエウローに喰らわせたような手加減したものではなく割と本気の蹴りを、アプセウデースはハルバードで難なく受け止めてみせた。
ターロに魔力操作を習ったことにより、防御力が更に上がっている。
プロクスの尾はハルバードの刃先を地面に突き立て斜めに構えて力を散らしていたが、今回はハルバードで正面から受け止めて耐えきった。
最早、オルトロス達の言葉はない。
「後は、、、アウロとニパスだね」
アウロの魂力による精霊魔法とニパスの風と氷を操る力を少し披露したところで、
「いや、もういい。分かった」
オルトロスから止めがかかった。
三人はこんな子供と仔犬の想像の何段も上を行く力に、驚きすぎてぐったりしている。
「ターロ。よくこの短い間にこれだけの力を持つ者を集めたな、、、」
「ええ。歩きで正解でした」
頭を振ってオルトロスが、
「普通、歩いて廻ったからと言ってこれだけを集められはしないぞ。そもそも魔法学院では優秀な者を身分に関係なく広く募っているが、こんなに多彩な人材は集まっておらん」
と言うと、メタメレイアとエウローも大きく頷く。
「陛下。よろしいでしょうか?」
メトドが発言を求め、諾とされたので続けた。
「短い間に優秀な人材が集まったのではなく、短い間に、ターロ様の魂力によって鍛えて頂いた、というのが実際のところです」
「おいおい、だから違うって、、、」
否定するターロに、
「いいえ、ターロ様。もういい加減認めましょう。秘密にしておく必要もありませんよね?」
と、諭すように言うメトド。
「まあ、秘密って訳じゃないけれど、、、」
煮えきらないターロ。
「なんだ? 何か面白い事になっているようだが、どういうことだ?」
二人の様子に興味をもったオルトロスが詳しい説明を求める。
メトドはターロの許可を待たずして話し始めた。
「陛下。ターロ様は魂力をいくつもお持ちです」
「いくつも、、、イッヒー先生のようだな」
そうだ、ターロはイッヒー先生の後継者だった、と思い出したオルトロスは、ならばそれも当然かと納得する。
「とても強力で、私の魂力でも内容を窺い知れなかったのですが、旅の過程で私はその魂力の一つについて、どういうものであるのか確信を持ちました」
杖を握り直しメトドは高らかにこう言った。
「その魂力の銘は"木鐸"。他者を教え導き、最高の形に覚醒させる力です」
「最高の形に覚醒、、、」
固唾を呑むオルトロス達。
「その結果が私達です。陛下。我々がここへ来てすぐ天使と交戦する様子をご覧になっていましたよね?」
「うむ。凄まじかったな。あれほど我々が難儀した天使共を蹴散らす様は爽快ですらあったぞ」
「最後の一撃はカルテリコスでした」
「そうだったな。見事な一撃だった。中ったあと何か光ったように観えたがあれは?」
「あれは彼がターロ様に教わった、魔力付与された矢です」
「魔力付与?」
「矢に任意の魔法を込めて、中った時に発動させる、というものです。あれを彼は昨日一日で身に付けました。その前までは攻撃魔法すら使えなかったのにも不係、です」
「い、一日で? あれを、、、ですか?」
その難しさを正しく理解できるメタメレイアが目を剥いた。
「そうです。我々の使える力など些末な事なのです。ターロ様の魂力こそが貴重な、連邦の、いや、人族の宝と言うべき物なのです」
アウロ達も大きく頷いている。
「メ、メトドさん、、、言い過ぎだよ」
もうヤメテというターロに、
「先程、私もそう申し上げました。お返しです」
とメトドはニヤッと笑う。
むむ。してやられた、という顔になるターロだった。