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其の男、異世界の木鐸となる  作者: 岩佐茂一郎
【第一部】第一章 異世界渡り〜樹海の国”ケイル”
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1-15 大賢者イッヒー

ブーン


最初からあった部屋の中心の魔法陣が音を立てて光るので、今度は何だ、と身構えると、


『大田さん、はじめまして。 イッヒー・ルオー・ターナガーです。 悪い魔法使いじゃないよ』


魔法陣に浮かんだローブを着た老人がそんな挨拶をした。


どうやら大賢者のようだ。


六十代にしか見えないが、実際は優に二百歳を越えているらしい。


「せ、先生!! お久しゅうございます!!」


大田が応える前に、オルトロスが駆け寄ってくる。


『おお、、、オルトロスかい? 大きくなったね? ん? 大きくなったは変かな?』


「ははは、、、」


久々なのに変な言葉を掛けられ、眉を八の字にして泣きそうな顔のオルトロス。


(て、天然なのかな?)


大田の大賢者への第一印象は残念なものだった。


「お久しぶりです、大賢者様」


ロエーとメトドも挨拶をする。


『おおー、ロエーと、君は確か、メトドくん。その魔力には覚えがある。君も大きくなったね。”見抜く目”は、より深くまで見えるようになったかな?』


「覚えていて頂けたとは感激です!! 精進しておりますがなかなか、、、」


(魔力の波長で昔会った人を識別できるのか)


大賢者を少し見直した大田。


そこへ、賢者に初めて合うリトスが自己紹介する。


「お目にかかれて光栄です。大賢者様。リトスと申します」


「我が娘です。先生」


『はじめまして、リトスさん。、、、オルトロス、大きくなったと思ったら、こんなに可愛らしい娘さんまで、、、私が死んでから、、、、そうか、三十年くらい経ったんだね。君がおじさんになるわけだ』


「先生、おじさんとは、、、」


『まあいいや、みんな久しぶり。それとはじめまして王女リトスさんと、、、大田くん。君はあれだね、この世界の人に入り込んじゃった同郷の人だね?』


大田に向き直る大賢者。


「分かりますか?」


『そりゃ、分かるよ、その見た目で、そんな名前のはずがない。ま、ともかく試験は合格だ。君に僕の知識の詰まった魂力を継いでもらいたいんだけど、どうかな?』


「え? 拒否権がある感じなんですか?」


「「「「 ?!?! 」」」」


 皆一斉に大田の方を見る。


その顔には、何をいっているんだこの人は! という焦り以外伺えない


『はは、、、勿論、要らなければ拒否しても構わないけれど、あって邪魔なもんじゃないだろうからもらっておいてよ』


大賢者は気にした風でもなく、笑って流した。


《ここからは、日本語で話そうか》


《はい、、、ええと、いくつかお聞きしても?》


大田も日本語に切り替える。


四人は急に始まった聞いたこともない言語での会話に驚きつつも、邪魔せぬよう息を潜めている。


《うん、なんでも聞いて》


《先ず試験の内容ですが、継承者の見極め、あれで良いんですか?》


《あはは、手厳しい。簡単すぎた?》


《正直、はい》


《君は面白いね。簡単だと言う不平が出るとは思わなかった》


《いや、不平ってわけじゃないんですが、あの内容で継承者を選んじゃって大丈夫なのかなって》


《だよね。でも大丈夫。最初の分数の問題は君だから、っていうか日本人だからすぐ解けたけれど、今のこの世界の人に三十秒で解くのは無理だよ。まあ、解けなくても他の問題も用意してあったんだ。まともなやつをね。要はこの世界の人間か異世界の同郷人か見極めるために設定しただけなんだよ》


《はあ、なるほど》


《それから、ニ問目のトロッコ問題はね、倫理問題として用意したんじゃなくって、臨機応変に物事に対処できるか見るためのものだったんだ。その点君の行動は満点だったよ。勿論、素直に選択肢を選んだら不合格だった》


《トロッコ問題の選択肢って、普通二つですよね? 選択肢3は何の意味が?》


《ああ、あれ。ひどいよね。でも実際あんな答えを出す日本人が僕のいた時代には増えていてさ。何の疑いもなく、これ正解でしょ、みたいな顔して選ぶ人がいたんだ。1問目を解けた同郷出身者でも、流石に3を選ぶようなクズに遺産は譲れない》


《ああ〜、大賢者様のいた時代って、、、》


《西暦2000年くらいさ》


《あ、俺がいたのとほぼ同じ、、、》


《そうか、じゃあ、最後の魔法、効いたんだな》


《え?》


《いやね、同郷で同じ位の時代から来た跡継ぎ欲しいなーて、思って、少し因果律に干渉する魔法を使ってみたんだ。偶然を誘発する程度の効果の弱い魔法なんだけれどね、空間と時空を跨いで発動するから魔力の消費量が半端なくってさ、さすがの僕でも使った後、三日程寝込んじゃったんだよ》


(何してんだ、この人は、、、)


《今、呆れたでしょう》


《、、、いえ》


《いいんだよ。そういう反応されるの慣れているから。あ、でも幸運(・・)が重なって結果が出るように設計した魔法だから安心して》


(そうか、フォルスとラインが満足そうにしていたのは、その設計のおかげなのかもな)


そう思うと少し気が楽になった。


《三問目は焦ったでしょう? でもよく凌いだね。君は武道とかやってたの?》


《剣道を少し》


《そうなんだ。よい体捌だったね。間合いを見きったのは見事だったよ。ああいう戦い方ができる君なら僕の力を乱用せず、最小限で、最大の効果を出してくれるんじゃないかと思うんだ》


《過大評価ですよ》


《そうかな? まあいいや。この魔法陣にはね、僕の魂の一部が魂力と共に封印されているんだ。その魂を受け取ってほしい。魂力の名は、”温故知新”だ》


《え?》


(また論語!?)


《どうしたの》


《いや、俺の魂力も、、、”木鐸”と”聞一以知十”なんです》


《おおー!! そうなんだ。異世界で論語フリークに会えるなんて思いもしなかったよ。こりゃたまげた。なんだか、運命感じちゃうね》


《、、、はあ》


《今、ジジイに言われてもね、って思ったでしょう?》


《、、、正直》


《まあ、言っている僕もちょっと思ったけどさ》


二人はククク、と笑い合う。


おそらく前世で会っていればよい友達になれただろうと思いながら。


《この魂力、便利でさ。僕が学んだり、作ったりした全ての魔法やなんかとアクセスできる様になるんだ。要するに、仮想ライブラリだね。僕の知識、ちょっと量が多くてさ。一人の人間が、一遍に全部頭の中に焼き付けると、オーバーヒートして、発狂したり、最悪死んじゃうんだよね》


(なんすか、そのコワイ情報量、、、)


顔を引きつらせる大田とは対象的に涼しい顔で説明を続ける大賢者。


《でも、この方法なら大丈夫だし、書面に起こすと盗まれたり散逸したり劣化したりで、具合悪いし、そもそも字に起こせないイメージもあるからさ》


《成る程、、、。でも大賢者様の魂を頂いてしまってよいのでしょうか?》


《大丈夫だよ。僕の本体はもう、高次の世界へ転生を果たしているんだ。この魂は僕の小さな分身さ》


《高次の世界?》


《そうだよ。前の世界の言葉で言うなら解脱したんだよ。君もここへ来る途中見たでしょ? 大きな光の塊へ還っていく魂の靄。ああいうふうに自我を失って循環する存在じゃなくなったのさ。君もこの世界で精進すれば、また会えるよ》


(なんか凄えスケールの話になってきたな)


《あとさ、今更だけど大賢者様はやめてよ。僕、本名、田中一郎っていうんだ》


《ええ〜、俺と同じ役所の見本シリーズですね、、、》


《あはは、そう言えばそうだね。この名前、却って珍しいから、割と気に入ってたんだけどさ、この世界じゃ変すぎて不便だったから、改名したんだ》


(田中一郎 → 一郎田中 → Ichirou Tanaka → Ichのドイツ語読みでイッヒー、rouのアナグラムruoで、ルオー、で、田中は英語風にターナガー、か、、、結構安直だな、、、)


《君はどうするの?》


《それなんですけれど、、、実は困っていまして》


《何を?》


《いや、私の躰、ホーフエーベネ王国の王子の物なんですよ。なんか、帝国に攻め込まれて滅びちゃったんですけれど、、、》


《あっちゃ〜。帝国怪しかったからなー。僕が死んでから三十年もしないうちに動き出したのかあ、、、》


《前兆があったんですか?》


《あったんだよ。 あ、ごめんね。話の腰折って。で、王子の躰だから?》


《ええ、王子の名前のラインを名乗るべきか、俺の名前の太郎、、、尤もこの世界の人はターロって発音していますけれど、、、を名乗るべきか、、、》


《王国の再興を考えている?》


《帝国に義があるかどうかによりますね》


《ああ、そうか。そうなると難しいな。っていうのも、帝国は傀儡っぽいんだよね、天使の》


《天使!?》


《そうなのよ、ちょっと面倒な相手でね。いろいろあって、反帝国勢力を先代のケパレー王と僕とで纏め上げて連邦国を創ったんだ》


《そうなんですね、、、じゃあ、再興に向けて動いたほうがいいのでしょうか?》


《分からないね。帝国とその黒幕の出方次第で考えればいいんじゃないの?》


《そうですね。そうなると、堂々とライン王子を名乗るのは、とりあえず、よしたほうが良さそうですね》


《そうだね。じゃあどうするの?》


《ターロ・ホーフエーベネとしておきます。で、ミドルネームにルオーを頂いても宜しいですか?》


《嬉しいね。ぜひ、使ってよ。ふふ、転生してきたのが君でよかったよ。じゃあ、そろそろ、受け取ってもらおうか》


こうして二人の最初で最後の日本語での会話は終わったのだった。

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