6-17 寝込まれては困る
「次は誰だろ? カルテリコスはペガサスライダーだってのが力の証明のようなもんだし、、、。 この部屋の中で披露できるのはテュシアーかな?」
私ですか? というテュシアーをターロは前に呼んで、
「メタメレイア先生。何か束縛魔法だとかの罠系魔法陣をここに設置してみてください」
床を指して言うので、
「ここに魔法陣ですか?」
何だか分からぬが、今度はどんな力が見られるのか楽しみという顔でメタメレイアは杖の先を光らせ緻密な図形を描いていく。
「出来ましたよ」
「相変わらず鮮やかですね」
ライン王子が留学時代に何度も見たメタメレイアの魔法陣作図の腕前には更に磨きがかかっていた。
「さあ、テュシアー」
促されて魔法陣の前に立ったテュシアーが両手に魔力を込めると、うっすらと光をまとい始め、
「では」
短く始めると宣言したテュシアーが屈むと同時に、
パシーンッッ!
叩きつけた掌によって、魔法陣は音を立てて粉砕した。
「ああ!」
短絡防止を組み込んだ魔法陣が一瞬で破られ、メタメレイアは口を開けたまま魔法陣の描いてあった場所を見て、テュシアーをみて、ターロをみて、オルトロスを見て、また床を見た。
呆けた顔をして何も言わないメタメレイアに、痺れを切らせたオルトロスが尋ねる。
「、、、どういうことだ? 何が起きた?」
「私の渾身の魔法陣が、、、一瞬で解除、、、いや、消滅させられてしまいました、、、」
「見ていたのでそれは分かっている。凄いことなのか?」
まだ分からないオルトロス達。
「はい。私がこの後、自信喪失で寝込むほどの事です、、、」
「おい、寝込まれては困る。普通は出来ない事、、、なのだろうな。お主がそう言うという事は」
「はい。込めた魔力や規模こそ小さいものですが、解除防止の仕掛けを幾重にも施した魔法陣でした。ですが今のは、それらを全て無視して魔法陣の存在その物を消し去るような破り方でした、、、。ありえません。こんな解陣方法は見た事がない。今の魔法陣は学院の教授でも解除するのにそれなりの時間がかかる様な物だったのですが、、、」
「そ、そうか、、、。メトド殿の力に続いて、また珍しい力の持ち主が現れたな」
「はい、、、」
がっくりしているメタメレイアに済まないような気持ちになって困っているテュシアー。
そんな彼女にはお構いなく、ターロは付け加えた。
「彼女はシミターの腕もかなりの物ですよ。これから修練場へ行きませんか? このアウロ君と、あっちのアプセウデースの力もここで見せると部屋がただでは済まないので。勿論ドーラとプロクス、ニパスもここで暴れさせるわけにはいきません」
ドーラやプロクスが竜だという事を知らないエウローの顔には、山の民はまだしも、何故女の子や仔犬が暴れると困るのだ? というのがありありと現れている。
それを見て、ターロの悪戯心がむくむくと膨れ上がり、
「エウロー先生、ドーラやニパスが強いはずはない、と思っていますね? じゃあ、ドーラと戦ってみますか?」
と嗾けた。
そこで皆で移動。
ドーラが偶人を拳一発で沈めたのを見ているリトス達は気が気じゃないが、黙っていろ、というターロの目配せに気付いて様子を見る。
「本当にこの子と戦うのですか?」
と確認してくるエウローに、
「エウロー先生、剣を抜いてください。本気を出さないと、大怪我、下手したら死んじゃいますよ。ドーラ、殺しちゃだめだよ」
ターロがそう言うので一応抜刀するものの、ちょっとムッとなるエウロー。
ドーラは相変わらず、
「ん」
と短く応えるだけだった。
修練場には今、ターロ達以外誰もいない。
オルトロスが、
「始め!」
合図をかけると同時に、
ドガッ!
「ぐふぉっ」
エウローは後ろに吹き飛ばされていた。
両手でちゃんと剣を構えていなかったため、ドーラの正拳をまともに腹に喰らったのだ。
鎧がもう使い物にならない程破損してしまった。
「ありゃりゃ」
ターロは慌てて駆け寄ってヒールをかける。
「な、何が起きたのですか? 、、、あの子は、一体?」
流石はエウローというべきか、打ち込まれた瞬間かろうじて自ら後ろに飛び衝撃を緩和したので、気を失うほどではなかった。
勿論自分があの少女に殴り飛ばされた事は理解しているが何故そんな事が出来るのかが分からないエウローに、ターロが種明かしをする。
「エウロー先生、あの子は人化した竜なのですよ」
「、、、それを、先に言ってください、、、」
悪巫山戯が過ぎた、と反省するターロと、騙された気分になっているエウローだった。