6-15 皆の力:メトドの未来視
「ターロ。礼を言うぞ」
唐突にオルトロスからそう言われたターロの頭上に?が浮かぶ。
「ははは、そんな顔をするな。お主がスケロスでの帝国の介入を暴いて、カルテリコスをここまで連れてきてくれたのでな、二年越しの私の気がかりが晴れたのだ。イッヒー先生の方丈で旅に出る、と言った時にはこんな事になると思っていなかったが、、、。流石は先生の後継者だな」
ニヤッと笑いながら、オルトロスは椅子に掛けた。
ああ、そう言うことですか、とターロはカルテリコスの肩に手を置き、彼も椅子に座らせながら、
「ここにいる者は皆、俺が連れてきたのではありません。自らの意思で来たのですよ」
と言う。
「そうか。お主は先生の方丈で、各地によい人材が埋もれているかもしれない、と言っていたな」
「はい。皆、超が付くほどの逸材ですよ」
と皆を見回すターロ。
メトド等は、何て事を放言してくれているのだ、と慌て、
「ターロ様、言い過ぎです」
メトドが小声で止めに入るがターロは取り合わない。
「軍議で作戦を立てる上でも彼らの力を事前に理解していただいた方がよいと思うんですよ。エウロー先生はお元気ですか?」
エウロー元帥。
ケパレーの軍を束ねる男だ。
城壁修理の指揮にあたっていたが呼ばれてすぐにやって来た。
「ラ、ライン王子! やはりライン王子でしたか!」
エウローは、ターロを見るやぎゅっと抱きしめる。
「エウロー先生、、、苦しい」
力が強い上に鎧のまま抱きつかれたので痛い。
ターロはかろうじて動く右腕で、エウローの背中をペチペチと叩くと、気付いたエウローは、
「おおー、すまんすまん。亡くなったとばかり思っていたもので、、、。竜に王子が乗っているのを見たという者がいて、半信半疑でしたが、、、」
今度は泣き始める。
「お主は二年前、ホーフエーベネ陥落の報を受けた時はラインを心配して大変だったものな」
と笑うオルトロス。
スケロスから取って返し、攻め込もう、と主張するが既に国境の砦が築かれており貴族院の反対もあって出兵が叶わないと、今度は自宅に引きこもって酒浸りになったという。
エウローはライン留学時の剣の師だった。
素直で言われた事をどんどん吸収していくラインをいたくかわいがっていた。
ラインが如何に城の皆に愛されていたか、実感するターロ。
「エウロー先生、お久しぶりです。理由あって今はターロ・ルオー・ホーフエーベネと名告っております。詳しくは後程。今は軍議の前に私の仲間の力を把握していただきたくて、お呼びいたしました」
ターロの挨拶に、
「エウロー。ラインは、大賢者様の後継者となったのだ。そしてターロと名告ることとなった。軍議で正式に発表するが、お主には前もって知らせておいたほうがよいと思ってな」
オルトロスも補足を加える。
「大賢者様の、、、?」
生きていただけではなく、大賢者の後継者になったと知らされ何がなんだか分からなくなっているエウローに笑いながらメタメレイアが椅子を勧める。
「タ、ターロ様、、、元帥様までお呼び立てして、何をなさるおつもりですか、、、」
ちょっと、お巫山戯が過ぎます、と言わんばかりの顔のメトドを、
「まあまあ」
笑って制したターロが唱えた。
【テレパシー】
メトドとオルトロス、メタメレイア、エウローにテレパシーの魔法場を構築し、
「メトドさん。三人に未来視を送って」
メトドが言われたとおりにしたのを確認してから、ターロは三人それぞれに向かって硬貨を放おった。
未来視を共有している三人は、硬貨が落ちる前に落下地点が頭に流れ込んできて、そこに出せた手で難なくそれを受け止める。
「な、なんだ? 今の感覚は、、、」
驚く三人。
「これがメトドさんの力です」
と言うターロに、
「ターロ様、まだ五分も続かない上に見通せる未来も二、三秒先だけです。皆様に知っていただくほどのものでは、、、」
恐縮するメトド。
だが、メタメレイアは、
「いや、これは大変な能力ですよ。 、、、これがメトド殿の魂力なのですか?」
顔面を蒼白にしている。
「そうです。やはりメタメレイア先生は、この力の凄さにすぐお気づきになりましたね」
ターロは莞爾として言った。