6-13 パヌルの訴え2
「オ、オホン、オホン」
また変な事しているよ、という視線に対しターロは態とらしく咳払いをしてオルトロスに応える。
「あ〜、そうですねぇ。パヌルに一つ訊いてもよろしいですか?」
うむ、と頷くオルトロス。
「パヌル。何で手紙を読んだ後、直ぐに父親を追って帝国に逃げなかったんだい?」
なるほど、そうだ、そこが引っかかっていた。
聞いている者もパヌルの返事を待つ。
「そ、それは、、、」
平伏の姿勢を崩す事なくパヌルはこう応えた。
「あのスケロス将軍の様に、、、父に、死んでほしくないから、 です」
あの時、帝国に与したレマルギアという将軍の死に様を見た。
人の死を目の前で見るのが初めてな上に、そのあまりにも酷い死に方に失禁するほど心底恐怖した。
そして気付く事となる。
父もああなってしまうのではないのか? と。
「もう、、、もう遅いかも知れませんが、、、あの様な物を埋め込まれ、、、あんな死に方をするくらいなら、平民に落とされてでも、父には、、、父には、生きていて欲しいのです」
聞き終わってターロがメトドを見ると小さく頷いている。
パヌルの訴えに嘘はないという事だ。
(自分が罪に問われるのも承知で、父ちゃんのために出てきたのか、、、。 こいつは、傲慢で、気障で、嫌味な、どう仕様もない奴だけれど、 純粋ではあるんだな、、、)
それに引き換え、彼が殊勝にも陛下の前に出てきたのを、何か裏があるのではないかと端っから疑いの目で見た自分が少し恥ずかしくなる。
「何だ? その、あんな物を埋め込まれる、というのは?」
レマルギアの詳しい死に方までは聞いていなかったオルトロスが訊くので、ターロが天使と蟲の事を話すと、
「ああ、あのアルテューマからの書簡にあったやつか。帝国め、とんでもない物を造ったな。確かにそんな物を埋め込まれた挙げ句、そんな死に方を親にされたくはないか、、、」
話を聞いてオルトロス、メタメレイアも、パヌルの出頭に納得はした、が、
「だが、先程も言った通り、父を帝国から取り戻せても罪に問われる事は免れんし、死刑になる公算が高いぞ」
とオルトロスが言う。
何も応えられず、小さく震えながら平伏し続けるパヌルを見て、ターロが言った。
「陛下、こういうのはいかがでしょう? 何か、慶事だとかのの恩赦、って事で極刑だけは許すというのは、、、」
意外なところから援護され、思わず顔を上げてターロを見てしまうパヌル。
慌てて直ぐに頭を下げる。
慌てすぎたためか、強かに床に額を打ち付け、ごっ、という鈍い音がした。
「痛っ」
代わりにターロが思わず口走ってしまう。
(せんせ〜、、、)
この状況で何してんだよ、とちょっと焦るアウロ。
「ターロ、、、お主はそれでよいのか?」
オルトロスはターロの言葉に驚いた。
リトス達も、何て事を言い出すんだ、という顔をしている。
「そりゃ〜、故国を滅ぼされて赦せる道理なんかありませんよ。けど、それってパヌルや彼の父親がやったわけじゃないし、ホーフエーべネに墓所がある以上、パヌルの父親がどう動こうと侵略されたに違いないじゃないですか」
そのターロの応えを聞き、オルトロスはメタメレイアを見た。
「、、、ターロ様がよいのなら、よろしいかと」
メタメレイアも驚いたようだが、かつての生徒は確かにこんなお優しいお人だった、と目を細めている。
その筆頭宮廷魔術師の様子にオルトロスも少し表情を緩め、
「そうか。聞いたか、パヌル。ターロに感謝しろ。尤もヴロミコスにその蟲が埋め込まれていない事が前提だがな。それから、当然ながらホーフエーべネ奪還でお前が手柄を立てるというのも恩赦の条件であるぞ。忘れるな」
そうパヌルに言い渡した。
零かも知れない程の一縷の望みを抱いてオルトロスに縋ったが、一縷どころかかなりの希望が持てたパヌルは上ずった声で、
「は、はい! 感謝いたします! 一命に替えても陛下のお役に立たせて頂きます!」
と、もう更には下げようもない頭を床にめり込まんばかりに押し付けているのを見て、
(いやいや、一命に替えちゃぁ、父ちゃん助けても意味ないっしょ)
心の中でそんなツッコミを入れるターロだった。