6-6 正二十面体
【ウォータージャベリン】
二枚羽の天使達をキュアーノの攻撃魔法が迎え撃つ。
他の城門前の戦士たちも迎撃の攻撃魔法を放った。
白兵戦闘員だからといって、魔法が使えない者ばかりではない。
しかしそのどれもが躱されてしまう。
真っ直ぐ飛んでくると分かっている物を避けるのはたやすい。
お返しとばかりに天使が光輪を放つ。
大盾で防ごうにも、たった一撃で盾は切り裂かれてしまう。
そこへ無数の衝撃波が打ち込まれ、兵士たちは吹き飛ばされていく。
しかしアプセウデースは矛槍で、ドーラは素手で、光輪や衝撃波を往なしている。
キュアーノ達三人も何とか躱してその場にとどまっていた。
「ほう。少しはやる者もいるようだな。 同時にかかれ」
正六角形を形作って後から降りてきた四枚羽の一人が下知すると、それに応じて二枚羽がアプセウデースに波状攻撃を仕掛けた。
突進してきた一体目を横薙にしたアプセウデースのハルバードの刃は、硬化しているはずの天使の腕に食い込む。
「!」
この腕に人族の武器が食い込むなど信じられぬ、と、天使は驚くが、その能力を解明している隙などない。
天使がハルバードの刃先を抱え込んで封じようとする。
それを地面に叩きつけて取り除こうとアプセウデースがハルバードを大きく振りかぶると、そのがら空きになった胴に他の天使二体が体当たりをするように硬化した腕の刃を突き出して突進。
ガッツ! ゴッツ!
激突してきた天使達と共に後ろへ転がるアプセウデース。
「ぬおおぉ〜〜っ!」
怒号と共に跳ね起きるとアプセウデースは刃先を抱込んで離さない天使を地面に叩きつけて潰した。
更にまだ胴回りに纏わり付いている二体の天使の脳天を打ち下ろしたハルバードの石突でかち割る。
腹への突きを食らう一瞬前にミスリルの鎧を魔力で強化したので、さすがの天使の硬化した腕も貫くことが出来なかったらしい。
だがさらに他の天使の攻撃が続くのでアプセウデースはドーラの近くへ戻れなくなってしまった。
キュアーノ達も衝撃波の集中砲火を浴びせられる。
アプセウデースの様な出鱈目な防御力を持たない三人は後ろへ飛ぶ事でしか回避が出来なかった。
避けても避けても続く攻撃にそれぞれが応戦している間に、
ブオーン
ドーラを取り囲んだ六人の天使から魔法陣が展開される。
「ドーラ、逃げろ! 天使は君を捕まえる気だ!」
未来視で天使の企みを察したメトドは胸壁上から必死に叫ぶがその声は戦闘音に掻き消された。
魔法陣に捉えられたドーラは動く事が出来ない。
ならば、と人化を解こうとしても、発動もしない。
藻掻いているうちに力を吸い取られるような感覚に陥り、終に気を失った。
「よし、捕えた。だが、このままだと転移はできぬな。飛んでいってもさほどの距離ではない。ゆくぞ」
四枚の羽をそれぞれが広げ、六角形を維持したまま飛び立った。
その四枚羽の周りを二枚羽十二人が展開。
頭から出した光輪の魔法陣を手で外側に掲げ持つとそれらが光線で繋がり、正二十面体の立体魔法障壁となった。
残りの二枚羽は更にその周りを飛んで、攻撃魔法の使い手などに反撃している。
「ドーラッ!」
カルテリコスが射かけた矢は障壁によって阻まれる。
あっという間の出来事だった。
正二十面体はその形を維持したまま壁を越える。
胸壁の上に配備された者たちが魔法や矢で攻撃するが、カルテリコスの矢でも貫けなかったものを貫けるはずもなく、正二十面体は悠々と遠ざかっていく。
「このままだと逃げられる。カルテリコス。距離をとって上空から奴らを追ってくれ。貴殿を目印に追いかける。陛下、キュアーノ殿達をお借りできますか?」
「無論だ。が、奴らはなぜあの娘を攫うのだ?」
「分かりません。分かりませんが、あの子は人化した竜なのです」
「な、、、何だと?!」
「理由が何であれ奴らが彼女を必要としているのなら、阻止する事が連邦の為になる事は間違いありません」
「そうかもしれんな。 なら私も行くぞ」
「いけません、陛下」
「そんなことを言っている場合か。使えるものは何でも使え。こう見えて、私もそれなりに強いぞ」
ニヤリと笑うオルトロス。
「お、恐れ入ります」
メトドは頭を下げるしかない。
今回メタメレイアは、主を止めたりせずに、
「では、我々が城の守りを」
残ると言う。
メトドがオルトロスとアプセウデース、キュアーノ達三人、それに先程の攻撃で無傷だった者等も加え追跡を始めたその時、西北西の空、今頃ターロ達がいるであろうその方向で、
チュオオオオオォォォォーーーーンンンン!!!
轟音が轟き、太陽が二つになったかのように明るくなった。
「、、、ターロ様、、、?」