6-0-2 スケロス平定 2
「我は、天馬を駆る者、ピュペレー。此方がペガサスライダーにしてスケロス将軍のパニアー様だ。我等は汝らとの休戦・協議を要求する」
ペガサスに乗った男のうちの一人が大声で呼びかけてきた。
「おいこら、要求出来る立場だと思っているのかよ? いい加減大人しく言うことを聞とけ。蹂躙されたいのか? あ゛?」
「ポロス君、、、それじゃあ、チンピラの脅しだよ、、、纏まる物も纏まらなくなるから、やめて」
ポロスの威嚇を大賢者が制す。
イッヒーは前もって対帝国連合の意義を説いた書簡をスケロスに送っていた。
しかし返ってきたのは、帝国と事を構えることになったとしても我等一国で対処するので干渉無用、というものだった。
騎馬民族である自分たちの軍事力に自負があるらしい。
天使と帝国人とが開発した技術を甘く見てはいけないとを知っているイッヒーは根気よく説得を続けるも、よい返事はなかった。
終にポロスの忍耐が限界に達して、
「自分等だけで帝国に対抗できるというのなら、どれほどの軍事力を擁しているのか見せてもらおうではいないか!」
敗者は勝者の指揮下に入る、と言う条件を突きつけて二人だけで宣戦布告。
そして、今に至る。
「何度も送った書簡を読んで頂けましたか?」
イッヒーが尋ねると、
「我等スケロスは騎馬民族の軍事国家。他国との共闘など誇りが許さぬ!」
将軍の横に控える騎馬の者が叫ばんばかりに応えた。
「これ、差出口をするでない!」
ピュペレーと名乗った者がそれを嗜める。
(やっぱりこういう論調が国内で大勢を占めていて連合に同意できないのか、、、。これは将軍達の意見じゃないな?)
イッヒーにはこの"武人の誇り"、というやつが理解できない、いや、したくない。
嫌っている、と言っていいだろう。
誇りなどで大切なものが守れるなら苦労しない。
誇りを優先してそれぞれが小規模のままでいれば、いつの日か帝国に各個撃破されてしまうという事が何故わからないのだろう?
誰かが誰かの上であるとか、下に付くとか、何がそんなに大事なのだろうか?
そんな疑問で彼らにどう接すればよいのか分からなくなるイッヒーだが、ポロスに言わせればイッヒーが悩むに値するような難しい事ではないらしい。
「こういう手合はな、死ななきゃ分からねえんだよ」
ニヤッとするポロス。
「師匠。ここは俺様にまかせてくれ。世の中、師匠みたいに頭のいいやつばかりじゃないんだ。拳で語り合わねえと理解し合えない連中ってのもいるんだよ。 俺様みたいに、な!」
と前に進み出た。
やれやれ、と言う顔でイッヒーは下がる。
ポロスは大声でスケロス軍に語りかけた。
「聞け! スケロスの戦士共よ! 俺様、ケパレー国王ポロスは、お主ら平原の国スケロスに、対帝国の為に共闘しよう、と申し入れた。しかぁしっ! お主らの指導者はこれを拒みやがった! 自分等だけで帝国に対峙できるとな! だが、どうだ? 実際は我等二人すら止められないではないか! まだ分からぬのか!」
魔力が篭もっている声に、皆が聞き入っている。
「いつか来るであろう帝国との対決時に、お主らが帝国側に付き、俺様の国を挟撃せぬとも限らん! 味方にならぬというのなら、殲滅するのみ! 俺様は誰の挑戦でも受けるぞ! 全軍でかかってきても構わん! だがその時は! 皆殺しになると思えぇ!」
「、、、お、おい、おい、、、おぉーいッ! 何でそうなるの?!?!」
黙って聞いていたイッヒーが焦る。
声の魔力の所為で聞き入っていたので、最後まで言わせてしまった。
時すでに遅し。
「ぬううっ! 言わせておけば! 者共、かかれーっ!」
騎馬の武者が大声で下知をする。
ペガサスライダー達が止めようとするが間に合わなかった。
ポロスの挑発には魔力がのっている。
自制心の足りない者は抗し切れず激昂した。
「へ、そうこなきゃよ」
ポロスは向かって来た大群へ大盾を投げつける。
大盾が高速度撮影の通常再生のように
ブオオォォォーン
と飛んでいく。
皆が呆気に取られてそれを見ていると、
ズウウウンッ!
轟音と共に盾が地面にめり込んだ。
あれほどめり込むとは、あの大盾はどれだけ重いのだろう。
スケロス軍の兵たちは、我に返り、恐怖が伝染していく。
あんな大盾を団扇のように振り回す男にどうやって勝てというのだ?
そう思うとこれ以上脚を前に出すことが出来る者はいなかった。
「どうした? 来ねえのか? あ゛?」
ポロスがいつの間にか付けた拳鍔を打ち合わせ、不気味な金属音を響かせる。
イッヒー手製、特殊合金のナックルズ。
免許皆伝の杖の代わりだ。
自分の杖を造るために熟成させていたオリハルコンだったが、精霊樹に杖を貰って用無しになってしまったのでナックルズに流用したことは、イッヒーだけの秘密だ。
自分のためにオリハルコンを精製してくれたと思っているポロスは、これを肌身放さず持ち歩くほど気に入っている。
ある有力貴族が、幾らでも積むので自分にもオリハルコンで杖を作ってくれ、と申し入れたことがあったがイッヒーはこれを、
「面倒だから、ヤダ」
と、断っている。
その貴族をあまり快く思ってはいなかった、という事もあるが本当にオリハルコンを造るのは手間らしい。
古代遺跡から、僅かだがオリハルコン製の品物は出土されている。
が、その全てが宝飾品か、使い方の分からない魔道具で、錬成方法はイッヒーが再現するまで謎とされていた。
しかも、イッヒーからその方法を教わった魔術師の、誰一人として錬成に成功した者はいない。
従ってこの島にある個人専用の武器はこのイッヒーが作った、ポロス専用ナックルズのみだ。
そのナックルズはポロスの能力を最大限に引き出す。
世界広しと言えども、魔力で底上げしたポロスの力に耐えられる素材はオリハルコンだけだろう。
そのナックルズを付けて、ポロスが飛び出す。
号令をかけた騎馬兵は流石に竦んで動けない、という事はなかった。
突っ込んでくるポロスにすぐさま射掛けるが、ポロスが振った腕で起こした竜巻に阻まれ届かない。
「た、盾が無くても風を起こせるのか、、、」
矢が通じないと分かるや、弓を捨て従者から鉄槍を受け取った三騎が突撃してきた。
ポロスは次々と仕掛けられるチャージ全てを正面から、正に叩き潰した。
繰り出された槍先をオリハルコンナックルズで吹き飛ばす。
馬の速力がのった槍を吹き飛ばす力も力だが、その速度で繰り出される槍先を捉えて拳を合わせる動体視力もまともではない。
あっという間に三騎とも殴り飛ばされて落馬した。
素手の歩兵に落馬させられたのだ。
騎兵としては屈辱の極みだろう。
「なんだぁ! これで終わりかぁ? 情けねえ! こんな骨の無え味方ならいらねえな! やっぱ皆殺しか? あ゛?」
草原を抜けていく風の音しか聞こえない程に静まり返る中、一騎が進み出てきた。
天馬を駆る者、ピュペレー。
「私が出る」
静かに言うピュペレーに他のペガサスライダーが、
「ピュペレー様、やはり皆でかかった方が宜しいのでは?」
と問うも、
「ペガサスライダーとしての矜持を捨ててしまった先には何もありはせぬよ。 後の事は頼む」
そう涼やかに言うと、ポロスに向けて、
「お相手いたそう。 私が負けても、この国の民を安んずる、と約束をして欲しい」
「へッ、何を虫のいい事を、、、。 俺様を満足させてみろ! 話はそれからだ!」
こうして両雄の激突が始まった。