1-13 継承の儀2
『デハ ダイニモン』
ジャージャン!!
スクリーンに文章が浮かび上がった。
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あなたはトロッコの線路の前に立っています。
坂の上からやってくるトロッコは、鉱石を過積載し、ブレーキは壊れ、かなりの速度が出ているため、誰も止められる人はいません。
トロッコの行く先には分岐器があり、何もしないとその先にいる5人の作業員は轢かれてしまいます。
分岐器を切り替えれば、5人は助かりますが、別路線で作業中の1人が轢かれてしまいます。
貴方はどうしますか。
1.そのままにしておく。
2.分岐器を切り替える。
3.そもそも見なかったことにして立ち去る。
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「なんじゃ、この非人道的な問題は、、、」
「何を選んでも、誰か犠牲になるのですね」
「選択肢3の意味が分からん。1と何が違う?」
観客? 達は問題を見るや、議論を初めた。
(トロッコ問題だって? なんでこんなくだらないものを、、、)
盛り上がっている四人とは違い大田はげんなりしていた。
「俺はどれも選ばない。なんですかこのくだらない問題は。馬鹿にしているんですか?」
『デハ、ドウ シマス カ』
「そんなもん、実際の場面に立ち会わないと、答えようがない。状況に合わせて何とかするのが人間だ。この選択肢のどれかを選ぶのは、考えているようで考えていることを放棄しているだけだ。思考実験にしても低俗すぎる」
『ナラバ コウドウ デ シメシテ クダサイ』
ウゥーン
景色が一変し、今まで壁全面が薄ら白く輝いていた無機質な部屋が、設問通りの炭坑に変わった。
大田の前には分岐器があり、左から大きなトロッコが暴走してくる。
右にいる人たちは、やはり設問通りトロッコに気づいていない。
分岐した先はそれぞれ別の坑道になっていて、少しカーブしているので、お互いがよく見えない。
大声で知らせても作業の音と坑道の残響で、間に合うように気付かせることは難しそうだ。
「うわ、思ったより大きなトロッコじゃ。確かに人の力では止められんぞ!」
ロエーたちにも同じものが見えているようで、絶叫が挙がる。
大田はすぐに分岐器のレバーを垂直に立てた。
「ああーっ、お兄様! 一人の犠牲を選んだのですか?!」
リトスが叫ぶ。
(そんなわけあるかい)
と、心の中で突っ込みながら、大田はレールに駆け寄り、石を拾ってリードレールとクロッシングの間に詰め始めた。
更に線路の上に置き石をしていく。
アッという間にトロッコは大田のところまで到達し、大田は横に飛び退いて避けた。
ガガガガガッ!!
轟音とともにトロッコは脱線して、止まった。
(バーチャルだから、ほっといても良かったけど、1や3を選んだと思われるのも癪だからな)
「だ、脱線、、、?」
「そうか、そうすれば誰も轢かれずに済むのか」
分岐器を倒しきらずに途中で止める事で、トロッコはどちらのレールにも移れずに脱線するだろうと判断し、レバーを垂直の位置で止め、念の為、更に脱線しやすくするために石を使った。
別にこの世界なら、魔法でふっとばすだとか、いろいろ方法はあったのだろうが、坑道の中での爆発は危険なので、バーチャルでなくても同じ様にやっただろうと大田は思った。
『オミゴト』
天の声が響く。
『ツギ ガ サイゴ デス』
部屋の景色がもとに戻る。
『コノ ゴーレム ヲ タオシ ケイショウシャ ニ フサワシイ チカラ ヲ シメシ テ クダサイ』
ジャージャン!
効果音とともに転移陣が床に浮かび上がり、その上に金属の人形が現れた。
「アイアンゴーレムだと!」
「ターロ様逃げてください! アイアンゴーレムに魔法はほとんど効きません! かといって素手で倒せる相手じゃない!」
(まじですか、、、)
ゆっくり迫ってくるゴーレムに、大田もゆっくりと対峙した。